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ある魔眼持ち薬剤師の日常 ~連載版~  作者: カスミ楓
第二章 冒険者ギルド
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 こんな小さな子に負けた、と沈んだ状態のゼファールさん。

 男の子が落ち込んでいるのを見ると、思わずぞくぞくし……ナンデモアリマセン。


 そしてお茶が切れたので、厨房へ行こうとするとシーレイさんに止められました。


「あ、お土産買ってきたから、これ淹れてみてくれる?」

「はい」


 布の袋を渡されました。

 一体どんなお茶なのかとわくわくしながら開けてみると、昔、よく嗅いだ事のあるふわっとした匂いが鼻につきました。


 あれ、もしかして……。


 中を見るとなにやら黒い粉が入っている様子です。

 百グラムくらい?


「うわっ、黒水だっ」

「げっ」


 その袋を見たラミさんとゼファールさんが、非常に嫌な顔をしました。

 でも、これコーヒーですよね。


「シーレイさん、これって?」

「黒水という名前よ。冒険者ギルドに売ってる物なんだけどガイゼンに行った冒険者仲間が送ってきてくれたんだ。こっちだと高いけどガイゼンなら安いからね」


 ガイゼンは大陸の一番南にある街です。

 ここより気温は高いので、コーヒー豆の生産には向いているのでしょう。

 というか、コーヒーって冒険者ギルドに売ってるものだったのですか。確かにこの世界に来てから一度も市場で見たことないですしね。


「苦いし粉っぽいけど、それ飲むと眠気が少なくなるんだよね。見張りの時や眠っちゃいけない時なんかに飲むものなんだよ。冒険者なら、それ飲めるようにしておかないとダメなんだよ」


 えっと。

 苦いのは分かります。

 でも粉っぽいとは?


「わたし、それ超苦手」

「俺も……」

「こらこら。冒険者ならどんなものでも食べられる、飲めるようにしなくっちゃ」

「あの、シーレイさん。もしかして、これにお湯をそのまま入れて飲むのですか?」

「うん、そうだよ。それをそのままコップに入れてお湯注いで飲むの」



 ………………。



 これだけ大量の豆にお湯いれたらそりゃ苦いでしょ!

 それ以前に、フィルター通さなきゃ飲めないでしょ!


「でもね、慣れてくると次第にそれがないと生きていけなくなるのよ。だから飲みすぎ注意」


 それ、立派なカフェイン中毒。


 それにしてもコーヒーですか。昔、一度だけハマったことありました。

 二万円くらいするそれなりのコーヒーメーカーと、グラム千円のそれなりの豆を買って飲んでいましたけど、掃除が大変で半年くらいで押入れの肥やしになっちゃいました。

 ランニングコストも馬鹿にできませんでしたし、結局紅茶が至高、という形で落ち着きました。


「はぁ……仕方ありません。私が正しい淹れ方を教えてあげます」

「え? ナミルちゃん、黒水知ってるの? 一般には殆ど流れてこないはずなんだけど」

「ええ、知っていますよ。それより少し待っててください。準備してきますので」



 厨房へ行ってお湯を沸かし始めました。

 あとはフィルター代わりの布です。麻ですけど、豆自体は結構大粒ですし無いよりはマシでしょう。

 あ、ちゃんと洗ってあるものですからね。ハンカチ代わりに使っています。

 消毒代わりにお湯を通してあげて……と。


 牛乳があれば良かったのですけどね。

 まあ仕方ありません。


 そういえば、こっちの世界は嗜好品ではなく眠気覚ましとして重宝されているんですか。ブラックですと苦いですし、好む人は少ないのでしょう。

 だから一般市場には流れていないのかな。

 それ以前に豆にそのままお湯入れるんじゃ、飲めないでしょうし。




「変わった飲み物だな。甘いものを食べるときに飲めばよさそうだ」


 私が作ったコーヒーをレイちゃんが一口飲んだ瞬間、不思議そうな顔をしました。

 レイちゃんは甘いものが苦手なのです。

 先日アーヴェン様がひょっこり顔を出して来たのですけど、そのとき帝都土産に砂糖を頂いたのです。砂糖ってものすごく希少品で滅多に売ってないですし、更にものすごく高価で到底一般庶民が買える値段ではないのですよ。

 で、砂糖を頂いたので手軽なお菓子、というより和菓子を作ってみました。

 小麦粉を水と合わせて適当に練って団子状態にして沸騰したお湯の中へ入れて数分。

 浮かんできたところを掬って、砂糖と水を煮込んだものをかけて、超簡単なお団子っぽいの完成。

 俗に言うすいとんなんですけどね。


 アーヴェン様は変わっているけどなかなかおいしい、と言ってくれましたがレイちゃんは甘すぎる、とあまり食べてくれませんでした。


 ちっ、この肉食系男子め。


 それにしてもどこかにサトウキビやサトウカエデって生えていませんかね。甘味料が簡単に手に入れるようになれば、ケーキなんか作ってみたいです。




「これ本当に黒水? 薄いんだけど」


 シーレイさんは首を傾げました。


 いえ、それが普通なんです。

 私も一口飲みましたが、昔飲んだものに比べてもそれほど違和感はありませんでした。もちろん味わいや香り、コクは前世のコーヒーには到底及びませんけどね。

 そう考えるとあの世界って凄いですよね。どれだけ食文明発達しているんだろう。


「でも飲みやすいね。布に通すだけでこんなに違うんだ」

「普通、豆の粉まで飲みませんよ……」

「ええー、だってあたしこう飲むんだ、ってギルドから教わったんだよ?」


 シーレイさんと歓談していると、ラミさんが興味深そうに口を挟んできました。


「わたしにも貰える?」

「あ、どうぞ。ゼファールさんもどうですか?」

「俺は……ラミ姉さんから少し貰うよ」

「少し待っててください」


 ハンカチ代わりの布をコップにかぶせるようにして手で持ち、凹ませた中央に豆を少量置きました。

 そして上からゆっくり、のの字を書くようにお湯を入れます。ちなみにお湯は沸騰させるのではなく、九十度未満に押さえるのがコツなのですよ。

 でも前世での豆とは違いますから、本当にこの淹れ方が良いのか分かりませんけどね。


「どうぞ」

「ありがとう。へー、確かにこれは飲みやすいねっ! あのまっずい黒水がこんな風になるなんてすごいすごい! ほら、ゼファも飲んでみて」

「う、うん。……まだ苦いけど飲めなくないな」


 おそるおそる飲むゼファールさん。

 二人で分け合いか。姉弟ってうらやましい。私は一人っ子だったので、特にそう思います。


「牛乳を少し混ぜると、苦味も押さえられて飲みやすくなりますよ」

「ナミルちゃん物知りだよね。でも牛乳かー。日持ちしないから持って行くのは無理かな」

「牛乳を固形化すれば、少しは日持ちするんじゃないでしょうか」

「それ、バターだよね」

「あ、そうですね」

「ナミル殿、もう一杯もらえないか?」

「あたしも!」

「俺にも一杯」

「わたしもー」

「はいはい」



 こうしてシーレイさんが持ってきた豆は全てなくなりました。その日の夜、ラミさんとゼファールさんはなかなか眠れなかったみたいです。


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