一
第二章開始です。
一章はキャラ紹介のつもりで書きましたが、二章から少し事件を起こす予定です。
また、二章は一日置きの投稿となります。
(やはり毎日は厳しいです><)
夜明け前。
朝も明け切らぬ時間に、私は米を炊く準備をしていました。もちろん、朝食に売るおにぎりを作るためです。
ちなみにレイちゃんは先ほどカンさんの夜間修行から戻ってきたところです。
かなり疲れているのか座り込んでいますね。
そんな彼に向かって、私は歴然とした事実を告げました。
「突然ですがレイちゃん、あなたには癒やしが足りないと思うのですよ」
「……は?」
いきなり何を言い出すのだこやつは、という目でレイちゃんが訴えてきました。
リルリへ戻ってから二週間ほど。
私はようやく鎮痛剤の制作に目処がついたところなのですが、久々に使った頭のせいで最近疲れ気味なのです。
そしてふと生前、実家で飼っていた犬の事を思い出しました。あのもふもふに顔を埋めたら、かなり癒されるのではないでしょうか?
しかし今、家に居るペットは残念ながらレイちゃんくらいです。だからレイちゃんが癒しになってくれればと思ったのが経緯です。
「ということで、家が壊れない程度の竜の姿になれますか?」
「何が、ということなのかわからぬが、まあ出来なくはない」
「おおっ、さすが竜の中でも一番魔法が得意な白竜ですね! 早速お願いします!」
わかった、と言うやいなや、レイちゃんの姿が光に包まれたあと、一瞬で白竜の姿へと変化しました。
「……でかっ!」
確かに元の二十メートルから比べれば小さいですが、それでも二メートルくらいはあるのではないでしょうか?
しかも人の姿で座りながら変化したせいか、竜の姿になってもそのままなのです。後ろ足とお尻でちゃんと座っているのです。
やだ、なんか可愛い。
「これで良いか?」
「ばっちり! では早速!」
私はレイちゃんのお腹目がけて、顔を埋めるように抱きつきました。
「……何をしているのだ、ナミル殿は」
「レイちゃん、お腹堅いよ」
大きな動物のお腹に顔を埋めれば、癒されると思っていたのですけど、よくよく考えると竜って堅い鱗があるのですね。
迂闊でした。
全然癒されません。
具体的には、分厚い鉄の壁に向かって顔から突っ込んだ感触です。
鼻がちょっぴり痛いです。
「レイちゃん」
「はぁ……次は何だ」
「鱗にもっふもふの毛、生やせない?」
「出来るわけがなかろう! そもそもナミル殿は我を何だと思っているのか」
「ペット」
「…………」
私の一言で沈黙するレイちゃん。自覚が足りないようですね。
しかしこれは非常に由々しき問題であると、私は思います。
ならば、私がやるべき事といえば。
毛生え薬を作りましょう。
私は薬剤師です。不可能ではないはず。
問題は鱗に毛穴があるかどうか、という点ですが、最悪鱗を全部引っぺがしてから毛を生やせば問題ないと思います。
……さすがにそれは鬼畜かな?
でも私が癒されるために、多少の犠牲は仕方ありませんよね。
「レイちゃん、私はあなたに毛をプレゼントしたいと思います」
「……そのようなもの、不要だが」
「だがそれには、レイちゃんの鱗が邪魔なのですよ。全部はぎ取って売っていいですか?」
竜の鱗は非常に堅く、そして軽く、更に言えば火竜なら火の耐性、白竜なら寒さの耐性がつくというおまけつきなのです。
ものすごく高く売れるらしいのですよ。
ふふっ、これぞ一石二鳥ではないでしょうか?
と、私が邪悪な顔をしていると、レイちゃんの身体が人の姿に戻りました。
いきなり感触が人のお腹になったので、ちょっとびっくりしましたよ。
「ああーー! 酷いですっ!!」
「酷いのはナミル殿のほうであろう。竜から鱗を剥がすのは、人の皮膚を剥がすのと同じ事だ」
うわぉ、そう聞くと痛そう。
ではやはり、鱗の上に毛を生やす方向で考えましょう。私って優しいですよね。
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暫くした後ご飯も炊けたので、おにぎりを手際よく作っていきます。
もはや手馴れた行為です。
次々と大きな皿に置いていると、レイちゃんが「器用なものだな」と褒めてくれました。
でも一個二十秒で握っても、百個作るのに二千秒です。三十分以上かかるんですよね。そろそろレイちゃんにも手伝ってもらう必要がありますよね。
「レイちゃんもやってみてください」
「我が?」
ぽん、と彼の手の上にしゃもじで掬ったご飯を乗せました。
が、妙に手が震えています。アル中っぽいです。
「手、震えていますよ」
「し、仕方あるまい。初めてだからな」
緊張しているのですか。
どれ、と言いながら見よう見真似で握り……一瞬にしてご飯が圧縮されました。
「強く握りすぎです。それもうおにぎりじゃないですよ」
「加減が難しい」
彼の握った塊りはもはや石のようです。かっちこちです。歯の弱い人が食べたら、折れるんじゃないでしょうか。
おにぎりを売り終わったら、少し練習が必要ですね。
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レイちゃんがおにぎりの売り子をしてから、女性客が異様に増えました。今までは八割方男性でしたのに、いまや半々といったところです。
しかもレイちゃんの姿を見に来るだけの方もいらっしゃいます。
でもまあ、おにぎりは以前と変わらず百個しか作っていないので、たくさん来て頂いても買えないのですけど。
やはりおにぎりの増産に踏み切るべきでしょうか。
でもおにぎりは、あまり儲からないんですよね。そこまで手間隙かけるのも時間が勿体無いですし、本業にも差し支え出てきます。
本業は全く売れていませんけどね。しょんぼり。
「あれ? シーレイさんじゃないですか」
「ナミルちゃん、お久しぶり」
レイちゃんと私でおにぎりの販売をしていると、つい先日サルクルの森で一緒になった冒険者のシーレイさんがいらっしゃいました。
あの時は鎧を着ていましたが、今日は私服です。
なかなか可愛い服ですね。
そういえば、私もあまり替えの服を持っていません。そんな余裕もありませんでしたしね。
でもレイジーンの甲羅の代金、少しばかりですがデヴィハさんから頂いたのです。
多少ですが懐に余裕がありますし、もう少し服でも買いましょう。ついでにレイちゃんの服も一緒に買って見るのもいいですね。
執事服が似合いそうですし。
「ナミルちゃん、おにぎり売り終わったらちょっとあたしに付き合ってくれない?」
「身の危険を感じますからご遠慮いたします」
このシーレイさん、ちょっと腐ってて、しかも百合のご趣味も合わせて持っている複合型なのです。
君子危うきに近寄らず。
「ええー、ナミルちゃん酷い」
「酷くありません。抱きかかえないでください。蹴りますよ?」
「まあまあ。それでね」
そしていきなり私の耳に口を近づけ、囁かれました。
「……ギルドマスターが来てくれっ……いたっ?!」
くすぐったい。
思わずシーレイさんの頭をぺしっと叩いてしまいましたよ。
叩いたあと、ようやくシーレイさんの言葉が頭に反芻しました。
ギルドマスターがお呼びって事ですか。
それって、リルリの冒険者ギルドに囲われる話ですよね。
「レイちゃん」
「どうしたのだ?」
女性客におにぎりを売っていたレイちゃんに声を潜めて伝えました。
「おにぎり売り終わったら少し私は出かけますので、その間、お店お願いします」
「我は不要か?」
置いていかれるのが不満なのか、若干不機嫌になっています。でも今日はお話だけ伺って持ち帰り検討するつもりです。
「今日はお話を伺いに行くだけですから。戻ったら相談しますね」
「分かった」
そしてシーレイさんに「分かりました。後ほど行きます」とだけ伝えると彼女は、待ってるね、とだけ言い残して立ち去っていきました。
さて、今後の進展が決まる場面です。どうなる事でしょうか。




