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ある魔眼持ち薬剤師の日常 ~連載版~  作者: カスミ楓
第一章 白竜さんとカレー
22/33

二十


「ただいまです」

「ナミルちゃんっ! どこへ行っていたの!?」


 私が宿に着くなり、シーレイさんが駆け寄ってきました。

 そしてそのままルパンダイブするように私へと飛び掛ってきて……。


「ぐきゃぁぁ?!」


 あ、ついカウンターで殴ってしまいました。

 モロに入ってそのまま崩れ去るシーレイさん。暫く蹲っていましたが、回復したのか座りながら涙目で私を見てきました。


「ひ、酷いナミルちゃん! いきなり殴ってくるなんて!」

「抱擁以上の何か危険性を感じたもので、つい……」

「それよりもっ! どこ行っていたの!? 心配したんだよっ!! 朝……というより昼近くまで寝てて、起きたらナミルちゃんが部屋にいないんだもん! ザックハイドさんに聞いたら夜中に二階から飛び降りてどこかへ行ったって言うし」


 な、何ですと?

 こっそり出て行ったのに気がつく人居たのですか。隠密行動の修行がまだまだ足りませんね。


「ところでザックハイドさんってどなたですか?」

「宿のオーナーだよ」


 ああっ、あの寡黙で怖そうな元冒険者っぽい人!

 でも現役のサイズさんたちには気が付かれなかった様ですし、きっとザックハイドさんが凄腕なのでしょう。


「それよりどこへ行ってたの?」

「普通にサルクルの森ですが」

「え?」

「え?」

「いやいやまって。あれ? 昨日行ったよね? 何で今日も夜中から行ったの?」

「少々用事がありまして」

「用事って、ナミルちゃんの後ろにいるイケメン?」


 私の後ろには見事に真っ白な長い髪の、二十歳前後で長身の男性が佇んでいました。

 着物を帯で巻いて、腰には日本刀っぽい武器を持っています。露出している部分の肌も日焼け止めクリームでも念入りに塗っているのか、と問いたくなるくらい真っ白です。

 くそっ、羨ましい。

 辻斬りしそうな雰囲気ですけど、でもめちゃくちゃイケメンなんですよね。連れて歩けば、世の女子から注目を浴びること間違いないくらい。

 ただし表情は暗く、ものすごくお疲れのご様子です。


「はい、この人は私の生き別れの兄です」

「えええっ?! ほ、本当にナミルちゃんのお兄さん? 随分と似ていないけど」

「嘘をつくなよ、シーレイが信じるだろ」


 宿の扉からサイズさんが顔を出していました。どうやら一部始終見ていた様子です。


「あらサイズさん、こんにちは。いきなり嘘とは失礼ですね」

「では本当なのか?」

「嘘ですけどね」

「嘘なのっ?! 酷いナミルちゃん!」


 意外とシーレイさんって単純なのですね。


「じゃあもしかして、ナミルちゃんのカレシ?」

「違います。私はもっとのぺっとしたのが好みなんです」


 この世界、彫りの深い人が多いんですよね。やっぱり元日本人としては、しょうゆ顔が良いのです。

 もちろん観賞用としては最高ですが。


「の、のぺって。じゃあ誰なの?」

「彼の名はレイヴェンさんです。気軽にレイちゃんと呼んであげて下さい」

「レイちゃん……。あの、レイヴェンはナミルちゃんとどういったご関係ですか?」


 様付けですか。シーレイさんはイケメン好きと。


「我はナミル殿の側近だ」

「え?」

「え? ちょっとまって、いつの間に私の側近になったのですか。どっちかと言えば下僕でしょう」

「なっ?! 我を下僕と!?」

「下僕? まさかナミルちゃん、イケメンを虐げるような趣味が?」

「昨夜思いっきり虐げました」

「マジでっ?! だからレイヴェン様の表情が優れないのね」


 十発ほど殴りましたからね。いまだダメージが抜けていないのでしょう。


 ここまでくれば分かると思いますけど、レイちゃんはサルクルの森の元ボス、白竜さんです。今のあの姿は魔法で人に化けているのです。

 ですからイケメンと言っても魔法で作られた偽イケメンで、元はでかいトカゲですからね。


「昨夜はレイちゃんに手伝ってもらって、薬草を探していたのですよ。ですから帰りがこんな昼過ぎになってしまいました」


 だって……せっかくあの森まで行ったのですから、白竜さんをしばくついでにカレーの最後のスパイス、クミンを探さないとね。

 それでですね、白竜さんの背中に乗せて貰い空から探したのですが、あっという間に見つけられました。いや、マジで便利です。私もいつか舞空術を使えるようになりたいです。

 もう見つけすぎて、ウェストポーチから溢れんばかりに採りまくりました。笑いが止まらなかったです。

 レイちゃんはドン引きしてましたが。


「サルクルの森に夜入って、薬草を探していた……ね。そこの兄ちゃんも相当ヤバイ奴というのは雰囲気で分かるけどさ。お前ら少し非常識すぎやしないか?」

「今更そんな事言われましても」

「非常識って言うのは自覚があったのかよ。で、ナミルちゃんはこれからどうするんだ? 俺らは明日リルリへ戻るけど」


 シーレイさんたちは明日戻るのですか。私はあと三日ほど泊まる予定でしたけど、どうしようかな。

 既に目的のものはたくさん手に入れましたし、これ以上ここに留まる理由は無いのですよね。

 私も明日帰ろうかな。


「実は昨日、今日採取した薬草は、とある食べ物の素材でして。それを今から作ろうと思っています。今夜それを食べたあと帰ります」

「ほぅ、じゃあ一緒に帰るか? そこの兄ちゃんはどうするんだ?」

「もちろん彼も連れて行きます」


 だってレイちゃんがいると便利ですしね。

 お店の手伝いもさせられますし、魔法を教えてもらうこともできます。

 ですが私がそう答えた瞬間、レイちゃんが驚いた表情になりました。


「え? ちょ、ちょっとまてナミル殿。我はサルクルの主で……」

「帰ります、いいですよね?」

「……分かった」


 私がギロっとレイちゃんをねめつけると、途端に大人しくなりました。

 我が不在になるなど親に知られたらどのような折檻が待ち受けているか、とぼそぼそ呟いています。

 へー、レイちゃんには親がいるのですか。


「大丈夫です。レイちゃんのご両親が来られましたら、私が丁重におもてなし致しますから」

「我が父上、母上、命の危険性が在るゆえ絶対にこちらへ来ないでください」


 そう言いながらお祈りするレイちゃん。白竜も神に祈るものなのですね。

 と、そこへつかつかとサイズさんが近寄って、レイちゃんの肩を叩きました。


「あー、なんだ兄ちゃん、お前女に苦労しそうだな」


 サイズさんの視線はシーレイさんを捕らえています。

 シーレイさんは高ランクの剣士ですし、正面から戦えば盗賊のサイズさんより強いでしょうね。

 そうか、シーレイさんとサイズさんは恋人同士でしたか。気が付きませんでした。


 これは後でシーレイさんに、二人の馴れ初めとか伺わなくては!


「お主の名は?」

「俺はサイズ」

「そうか、お主も苦労しているのか」

「ああ、強い女ってのはきついよな」

「うむ、そうだな」


 何やら男二人が意気投合している様子です。

 ま、それは放っておいて、カレーでも作りますか!

 今夜はカレパですよ、カレパ!




 その日の夜、私が作ったカレーはみなさまにご好評でした。

 でも……スパイス効きすぎてものすごく辛かったです。


次で第一章が終わる予定です


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