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ある魔眼持ち薬剤師の日常 ~連載版~  作者: カスミ楓
第一章 白竜さんとカレー
19/33

十七


 無事亀を倒した私はその日の夜、宿で祝賀会をしていました。食材は今日倒した亀の肉で焼肉です。

 正直、亀の肉って食べたことがなかったのですが、何となくササミっぽい感じでさっぱりとしていますね。

 魔物、というより動物全般の肉は臭くてちゃんと臭みを取らないと食べられないんですけど、サルビアを見つけましたのでそれで臭みを取ってみました。

 さすがに短時間では完全に消すのは無理でしたが、食べられないことはありません。



 また亀の素材として、欠片ですけど甲羅が何枚か手に入りました。かなり堅く防具の素材として超人気なのです。

 欠片ではなくそのままだったら、白銀貨一枚(一億円だそうですよ……)はするだろうと言われたのですけどね。



 先にそれを言って欲しかったのです。



 まあ欠片でもそれなりの値段で売れるみたいですけどね。

 ただデヴィハさんの鎧や盾はもうぼろぼろで使えないので、この欠片で作り直すそうです。

 「レイジーンはナミルちゃんが倒したんだから、ナミルちゃんのものなのよ?」とシーレイさんに言われましたが、目的のウコンは採れましたので不要です、とお断りしました。

 確かにお金は欲しいですけど、さすがにあれだけぼろぼろになったシーレイさんたちを見ると……ね。




「「「かんぱーいっ!」」」


 木のコップがぶつかり合い、少し中身がこぼれました。でもそんな事は気にせず、みなさん思い思いに飲んでいます。

 ちなみにみなさんはお酒ですが、私は果物を絞った百%果汁です。お酒は十五歳からなんですよね、この世界。

 でも生前も付き合いで嗜む程度でしたから、特段飲めない事に不満はありません。

 あ、もちろん宿の中ではなく外で、焼肉パーティです。煙が出まくりですしね。


 ある程度食べて一息ついたとき、サイズさんが私の隣へとやってきました。


「ところでナミルちゃん」

「はい? なんでしょうかサイズさん」

「あれは一体なんの力なんだ? SSランクの、しかもレイジーンの甲羅を素手で意図も容易く打ち砕いたり、あの触手を完全に防御できるような魔力障壁を張ったり、あまつさえ素手で一刀両断。仮に魔法だとしても詠唱を唱えた形跡もないし、こんな力は聞いた事がない。一体ナミルちゃんは何者なんだ?」

「あれは単に魔力で身体能力向上しただけですよ」

「ナミルさん、確かに魔力で身体能力を上げることは出来るけど、それにしたって限度ってものがあるよ」


 いきなりエレシアさんが会話に参加してきました。

 片手で果実酒を飲みながら、もう片手は豪快に野菜をそのまま串に刺したものです。しかも焼いてない生の野菜ですよ。なぜわざわざ串に刺しているのか疑問ですね。


「あのー、何で生野菜を串に刺しているのですか?」

「気分だよ。私ってあまりお肉好きじゃないんだよね。でも焼肉パーティに参加する以上せめて気分だけでも味わおうとしてるの。ってそんな事じゃなく!」


 一旦区切り、手に持った生野菜に齧りつくエレシアさん。

 可愛い人なのに、なんでこうも豪快なのかな?

 やはり冒険者をやっていると可愛いよりも効率を選んでしまうのでしょうか。


「もぐもぐ、うん。聞きたかったのは一つ。今朝、ナミルさんがお尻に魔力障壁を張ってたよね。あれもものすごく難易度は高いけど、まだ帝都にいる宮廷魔導師なら出来る人もいると思うよ。でもね、あのレイジーンの甲羅をあれだけ見事に壊せるような身体能力の向上なんて、宮廷魔導師どころか英雄だって無理だと思うよ。まあ英雄サークリス=ファインなら剣技で斬るなんて芸当できるかも知れないけど、素手じゃ無理」

「英雄……サークリス=ファイン……?」

「……知っているよね?」


 寡聞にして知りません。

 ファンタジーな世界ですから、勇者が居たとしても不思議じゃないですけどね。


「誰ですか?」

「へっ?」「はぁ?」


 かなり驚かれました、というか引かれました。

 エレシアさんの持ってる生野菜がぽろっと落ちましたよ。

 まさか英雄は一般常識?


「あのね、サークリス=ファインって五年前に単独でSSSランクの赤竜を倒した英雄だよっ! 大陸最強と言われている人だよっ! 子供でも知っているのに」


 五年前って、まだ私七歳ですよ。男爵家に居た頃ですよ。

 あっ、帝国内で有名な人なのでしょうか。ならば私が知らないのも仕方ありませんよね。


「い、今覚えましたっ!」


 明日には忘れそうな名前ですけどね。

 でも英雄なんて人と会う事なんてないでしょうし、ま、関係ないでしょう。


「……まあいいけどね。それよりも何でナミルさんはあんな事ができるの?」

「うんうん、あたしもすっごく思ってた! 小さくて可愛いのに、拳で語るって漢だよね!」

「力に関してはそれなりに自信はあったが、今日のナミルを見て自信がなくなったのじゃ」

「ナミル殿は今までどれくらい神に感謝してましたか?」


 いつの間にか、全員に囲まれてました。

 ちなみに私の身長は百四十センチくらいです。当たり前ですけどデヴィハさんを除いて全員私より身長が高いのです。

 つまり、壁ができてます。威圧感ありすぎでしょ。上から見下ろすなー。


「エレシアさん、私は魔力そのものしか操れません。シーレイさん、私は女ですっ! デヴィハさん、素の力ならデヴィハさんには到底及びません! ピーリさん、祈ったり感謝したことはありませんっ!!」


 私だってあと数年もすればもっと身長伸びるはずっ!


「まあ隠したい気持ちは分かる。あんな異常な力をおおっぴらにすれば、国が放っとかないだろ。下手すりゃ……いやSSランクの魔物をああも容易く倒せるんだ、必ず取り込まれる。そうなりゃ自由は一切無くなる。英雄が良い例だ」

「サイズさん……」


 おおっ、さすが空気を読んでくれる人です。思わずうるっときました。

 というか、英雄さんって取り込まれているのですか。


「しかしこの件についてはギルドマスターに報告する必要はある。俺らはギルドの、しかもAランクの冒険者だ、その義務がある。ただ、ギルドマスターの心の内に秘めてもらうことはできるだろう。ナミルちゃんはそれでいいか?」

「ギルドマスターが信頼できる人物なのかは知りませんが、サイズさんがそう判断するなら多分信頼できるのでしょう。でも、本当に内密にお願いします。私は回復軟膏やおにぎり作って売る今の生活が気に入っているのですよ」


 私は宣言するようにみなさんに伝えました。腑に落ちないような顔をしているのはシーレイさんだけです。

 何かあるのでしょうか。


「サイズ、いいの?」


 それは本当にこのまま私を放置していて良いか尋ねている感じです。

 いえ、ギルドマスターにだけ事実を伝えるのが本当に良いのか、と言う事でしょう。


「正直ベースで言っていいか?」

「うん」


 あれ? 何を言うつもりなのでしょうか。

 サイズさんはちらと私の方を見てから、シーレイさんへ視線を戻しました。


「世間に公表する、何てことを言えばナミルちゃんが俺らを口封じする可能性だってある。そしてそうなれば、俺らに対抗する術はない。俺ら五人が束になってかかっても十秒持てば良い方だろ」

「……っ!」


 な、何てことを言うのですかこの人はっ!

 私はそんな殺人鬼ではありませんっ!

 そんな事するくらいなら、このままこの国を捨てて別のところへ逃げます。


「まあそんな事はしないと思うし、やるのならレイジーンの時わざわざ俺らを助ける必要ないしな。問題はこのまま別の町、いや他の国へ逃げることだ。もしかすると他の大陸へ行ってしまうかもしれん。それはリルリにとって不幸だ。ナミルちゃんほどの力があれば、万が一の時の切り札になる」


 って読まれてました。


「それって、リルリの冒険者ギルドに囲われるってことですよね……」

「まあそうなるが、別に行動制限はしない。というかギルド員でもないナミルちゃんをどうこうする権限はない。万が一の時は、お願いするだけだ」

「万が一ってことは、リルリに壊滅的な危機が来たときって事ですよね。絶対断れないじゃないですか」

「だからそんな危機が起こらない限り、何も口出さない。これだけは約束する。ギルドマスターを絶対説得する。お前らもそれでいいか?」


 ぐるりとサイズさんが他の人を見渡しました。

 その彼に向かって一番先に答えたのはデヴィハさんでした。


「サイズが決めたのならそれでいいじゃろ。わしは早くこの甲羅で防具を作りたいしの」


 案外軽い人ですね。


「私は構わないよ。これからもナミルさんとは仲良くしたいし」


 続いてエレシアさん。やはりこの二人は人族ではないですし、考え方がそもそも違うのかも知れません。

 個人主義なところが大きいのかもですね。


「僕もナミル殿にはもっと神に感謝していただかなければいけませんしね。近くに居てもらえれば布教し易いですし」


 ……ピーリさん、あなたって人はぶれませんね。


「……あたしは、できる事なら帝国の為にその力を貸してほしい。リルリなんていう一つの町じゃなくって、帝国全体の為に。でもそれって英雄と同じように自由が一切なくなるということだもんね」


 そして一番最後まで考えていたのがシーレイさんです。意外と愛国心が強いのでしょうか。自分で自分を納得させるような言葉です。


「様々な制限は必ずかかるだろう。万が一他国へ渡ったら大きな損失だしな」

「強すぎるというのも問題ね」

「宮廷魔導師だって似たようなものだろ」

「うん、まーあたしもナミルちゃんとせっかく知り合ったし、やっぱり同じ町に住みたいもんね。わかった、サイズに従うよ」

「と言う事だ。ナミルちゃんにはこれからもよろしく頼む」

「わかりました」



 一応これで良いのですよね?

 もしギルドマスターがサイズさんの提案を呑まなければ、そのまま脱出すれば良いだけですし。亀を倒したら、こんな状況になると分かっていたんですけど、でも見捨てるなんて事出来ませんでしたしね。


 私って甘いのでしょうか?


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