十六
今回も短いです
「馬鹿っ! 逃げろ!」
慌てたようなサイズさんの声が聞こえてきますが、スルーして私は亀と対峙しました。
それにしても大きいですね。離れた場所ではなく、こうして目の前に立つと首が痛くなるくらい上を見上げなきゃいけません。
『小さいのより、さっきの魔法使ったやつを潰したい』などと言う意思が、亀から感じられました。
それと共に、亀の目がぎょろりとエレシアさんの方を向きます。わさわさと足から触手が何本も伸び、鞭のように地面を叩きました。
何だかやる気まんまんですね。
ですけど、それを許すわけにはいきません。
『亀さん』
私が《念話》で意思を投げかけると、驚いたように私の方を振り向きました。
『はぁ? 何だよてめぇ。何でお前の言葉が分かるんだ?』
……ガラ悪いですね。
いえ、口調が丁寧な魔物というのも怖いですけど。
『私の能力ですよ。一応提案しますが、出来ればここは引いて欲しいのですけど』
『出来ねぇんだよ。何かしらねーけどお前らを潰さなきゃ帰れねーと分かるんだ。それにこんな訳の分からない場所へ無理やり呼ばれたんだ、お前らのような少しだけ壊れ難いおもちゃで遊ばなきゃやってられねぇよ』
やはりそうですか。
召喚された魔物は召喚主には逆らえません。そして召喚主は私たちを殺せと命令したのでしょう。
正直私だけならここから離脱して召喚主のところへ直談判しにいけますが、その間にシーレイさんたちは確実にお亡くなりになってしまいます。
いくら魔物とはいえ意思疎通できるのですから、出来る事なら倒したくはないのですが……。
『あなたが召喚された魔物というのは分かります。それとこんな分からない場所に勝手に召喚されたのも不幸だと思います。ですが……私たちもここで死ぬわけにはいかないのですよ。お気の毒ですがあなたはここで私に倒されてください』
『ほう、まずはお前から潰されたいと?』
亀は首の横からも触手を出して、まるで威嚇するように振り回してきました。空気の裂ける音が聞こえます。たまに地面に掠り、抉れた土が飛んでいっています。
鎖じゃないのですから、ひゃっはーしないでください。
『最初に謝っておきます。殺してしまって申し訳ありません。あなたの事はきっと召喚主にケジメを取ってもらいます』
私はそう伝えたあと、右手を前に、左手を腰に当てて構えました。
亀の甲羅はかなり強固でしょう。あれを砕くにはかなり身体能力を上げる必要があります。
普段の五倍以上の魔力を収束し、それを左右の拳へと圧縮かけながら纏わせていきます。目に映ることの無い魔力が両拳へ集まっていくたびに光りを浴びていきます。
「すごい……目に見えるほどの高圧縮された魔力って」
感嘆の声を上げるエレシアさん。私もここまで魔力を集める事など、そうそうありません。
『はっ、おもちゃが粋がるなよっ!』
亀が振り回していた触手を私目掛けて一斉に振り下ろしてきました。今までの遊びのような一撃ではありません。
これ避けるのは簡単ですけど、避けたらシーレイさんたちを巻き込んでしまいそうです。大惨事になりそうですね。
「まずい逃げろ!」
サイズさんの叫び。でも当然触手のほうが早いです。
このままだと触手の攻撃自体は当たらなくても、その衝撃だけで下手をすれば壊滅するかもしれません。
と言う事で、防ぎましょう。
私とシーレイさんたちを護るように大気に漂う魔力を薄く張り、それを瞬時に何十層も重ね合わせました。
その直後、亀の触手がぶつかり凄まじい轟音が辺り一面に鳴り響きました。
『ぬっ、堅い!?』
何本もの触手が衝撃に負け、千切れ、ばらばらになって跳ね返っていきます。それらがぼとぼとと大地へ落ち、或いは木々に当たり、また或いは亀へと飛んでいきました。
「「…………」」
シーレイさんたちもあっけに取られています。
「おお、命あること神に感謝を」
……一人を除いて。
だからそこは私に感謝してくださいピーリさん。
まあいいでしょう。さて、では反撃しますか。
私の前に張った障壁だけを解除し、まだもくもくと舞い上がる土埃の中から空へと大きく跳び上がります。丁度真下に亀がいるようにして。
まだ亀は私の位置を把握していないようです。土埃が煙幕代わりになっているのでしょう。
その亀の背に向けて一言『ごめんなさい』と言って、私は落下し亀の甲羅に向けて右拳で殴りつけました。
おおよそ人の拳で殴ったような音とは全く異なる激しい爆発音が再び周囲に木霊し、そして亀の甲羅がそれに耐え切れず木っ端微塵に吹き飛びました。
『グルアアアァァァァァ?!』
激しい痛みが亀を襲っているのか、狂ったようにやたら滅多に触手を振り回しています。それがシーレイさんたちの前にある魔力障壁に弾かれ、また千切れ跳びました。
私は粉々になった亀の背中の上に着地し、たまにくる触手を無造作に手で払いのけます。
『必ずこの礼は召喚主に致します』
もはや痛みで聞こえてないと思いますが、私はそう亀へと伝えました。
そして左拳の魔力をレーザーのように伸ばし、自分の足元にいる亀へと振り下ろしました。




