十五
「エレシア風の障壁だっ! デヴィハ、エレシアの詠唱時間を稼げ!」
「了解っ!」「分かったのじゃ!」
シーレイさんたちの動きが止まったのも一瞬、すぐにサイズさんが指令を出しました。
エレシアさんが両手を突き出し、呪文の詠唱を始めます。それと同時にデヴィハさんがあのでかい亀の前へと立ちふさがりました。
しかし亀の大きさは五メートル、家くらいの大きさがあります。対するデヴィハさんは一メートル少々と、大きさだけで言えばほぼ絶望的。
いくらドワーフの重戦士でも、あの大きな亀の一撃を耐えられるか疑問です。
「ピーリ、デヴィハを援護! シーレイはナミルちゃんを守ってろ! 俺は牽制する!」
「分かりました」「はーい」
続けてサイズさんが叫ぶと同時に、手に持ったナイフを亀へと投げつけました。もちろん甲羅ではなく、狙ったのは……目。
狙いは正確。あれだけ大きければそうそう外すことはないでしょう。
キンッ、と甲高い音を立ててサイズさんの投げたナイフが弾かれました。何と首の周りに細い触手が何本も生え、それがナイフを叩き落したようです。
さすがSSランクの魔物、一筋縄ではいきませんね。
「ちっ」と舌打ちすると、そのままデヴィハさんの横を通り過ぎて足を狙いに行きました。
当然そのまま放置する亀ではありません。
足のように固まっていた触手のうち、二本がサイズさんへと襲い掛かります。しかしそれらを的確に避け、或いは両手に持ったナイフで逸らしていくサイズさん。
ただし、あの巨体を支えているくらいですから、触手はかなり硬度があるみたいで、斬ることはできない様子です。
カンッ、カンッと鉄と鉄がぶつかるような音がリズミカルに鳴り響いてます。
しかし当たらない事に業を煮やしたか、更にもう二本触手が追加されました。合計四本の触手が次々とサイズさんを狙いますが、それらを見事なまでに避けています。
ただ、徐々に追い詰められているようで、避け方も今まではぎりぎり当たらないように避けてたものが、バック転、横っ飛び、スライディング、などなどアクションスターさながらのように動作が大きくなっています。
あれだけ動けば、そう長く体力は持たないでしょう。
デヴィハさんは亀の正面に立ち塞がり、大きな盾を構えて完全に防御姿勢をとっています。そこへ襲い掛かる亀の触手。
凄まじいまでの数が、まるで鞭のように撓りデヴィハさんを攻撃しました。鉄を殴打する音が鳴り止まず、見る見るとデヴィハさんの着ていた鎧が凹んでいっています。
しかし彼は重心を落としそれを必死で耐えながら、たまに戦槌を振り回して触手を牽制しますが、殆ど効果はありません。
後ろに控えていたピーリさんの手が淡く光り、デヴィハさんの受けたダメージを回復しました。
しかしそれもつかの間、すぐにボロボロになっていくデヴィハさん。更に盾や鎧も限界になっています。
「ちょっとまずいわね。エレシアちゃんまだかしら」
私の前に立ったままのシーレイさんがぽつりと呟きました。苛立っているのか、焦っているのか分かりませんけど、足が小刻みに動いています。
確かにこのままでは、サイズさんとデヴィハさんが落とされてしまいます。そうなってしまえば、一瞬で瓦解するでしょう。
それにまだ亀は本気を出していない様子です。だってあの巨体ですから、そのまま前に進めば押しとどめる事など不可能でしょう。
つまりまだ遊んでいる状態です。
亀から『こいつなかなか固いな面白れぇ』という意思が感じられますし。
うーん、どうしましょう。私がやったほうがいいですよね。
「詠唱終わったよ!」
と思った矢先、エレシアさんの呪文詠唱が終わったみたいです。
「デヴィハ、ピーリ、下がれっ! エレシア派手にぶちかませっ!!」
そうサイズさんが叫び、自身も後ろへ飛びました。虚しく空を切る触手。
またデヴィハさんは盾を思いっきり亀のほうに投げつけました。さすがに意表を突かれたのか一瞬触手の動きが止まります。
その隙にデヴィハさんとピーリさんが後ろへと下がりました。
そして……。
《暴風裂》
声高らかに呪文を解放するエレシアさん。
亀の周りを渦巻いていた魔力が具現化し、それが切り裂く竜巻へと変化していきます。
おおっ、大技きましたね。
多分エレシアさんが使える中で一番強力な魔法なのでしょう。そしておそらくこの人たちの切り札だと思います。
巻き上がる土砂に亀の姿が消えていきます。それと同時に亀の苦しむ声が聞こえ、それが風の音に掻き消されました。
渦巻く竜巻の中に青い血が混じり合い、絵の具のように染めていき、それが天へと昇っていきました。
「やったか!」
そう叫ぶサイズさん。
あー、そのセリフはフラグです。
まあ竜巻の中にはまだ魔力の揺らぎが視えていますし、死んでいないのは分かりますけど、そこまでフラグを立てなくてもいいのに。
「シーレイさん」
私は前に立ったまま様子を見ているシーレイさんに声をかけました。
「どうしたの?」
「えっと、全員で逃げたほうがいいですよ?」
「え? ……まさかエレシアちゃんのあれを喰らって?!」
徐々に勢いをなくしていく竜巻。視界を取り戻していく最中、まだ竜巻の中心部には黒い影があるのが分かりました。
「あ……」
絶望の声がシーレイさんから漏れました。
そして竜巻が完全に止んだとき、甲羅の中へ退避していた亀は、再び触手を外へ出して立ち上がりました。
多少甲羅に傷は入っていて、何本か足元に触手が落ちていたものの、まだまだ元気そうです。
「シーレイ、お前ナミルちゃんを連れて逃げろ」
「……っ!」
サイズさんは亀の状態を見た後、勤めて明るくシーレイさんに伝えました。
その意味はどう考えても、シーレイさん以外のメンバーで足止めして、その間に私たちを逃がすって事ですよね。
……。
…………。
………………。
正直冒険者を舐めていました。
男爵家に居た頃、何回か出かけていくお父様の護衛をしている冒険者を部屋の窓から見た事があります。
しかし全員柄が悪く、男爵家に使える執事やメイドたちに威張り散らしながら闊歩してました。
これだけでも印象は最悪ですが、更に教育係の人に冒険者の事を尋ねた事がありましたけど、回答は野盗や強盗と変わらないような人が殆ど、という最低なもの。
荒くれ者ばかりだと思っていたのですが……。
彼らは第一印象があの冒険者たちとは違っていましたけど、内心どうせこの人たちも裏を返せば、などと思っていました。
でもお金を払っていない、シーレイさんの気まぐれで護衛対象となった私を最優先で逃がす、しかも自分の命をかけて、という行動に出るとは思いませんでした。
彼らだけがこうなのか、それとも国が違うだけでここまで冒険者の質も違うのか。
「グルゴアァァッァ!!」
亀の『さっきのはちょっと痛かった。こいつらまとめて潰す』という意思が伝わってきました。
「早く逃げろっ!!」
切羽詰まったサイズさんの声。
「みんな! 絶対死なないで!」
「ちゃんと逃げるさ」「当たり前じゃ」「何回でも《暴風裂》を使うよ」「神に感謝を」
シーレイさんがぐるりとみんなを見たあと「ナミルちゃん、急いで逃げるよ」と言いながら私の腕を掴もうとしてきました。
その腕を振り払い、《魔力操作》で身体能力を上げた私は一瞬で亀の前まで移動しました。
「え?」「なっ?!」「なにあの高圧縮魔力、すごっ」
おそらく目で追えなかったのでしょう。彼らには私が一瞬で亀の前へと移動したように見えた事でしょう。
驚くシーレイさんたちに私は一言。
「ここからはずっと私のターンですよ」
後半の文章何か変ですよね。ごめんなさい
あと5話くらいで一章終わると思いますので、その後改稿いたします
やはり毎日更新ですと確認時間が圧倒的に足りませんね
一日おきにしたほうがいいのでしょうか




