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ある魔眼持ち薬剤師の日常 ~連載版~  作者: カスミ楓
第一章 白竜さんとカレー
16/33

十四


「グルルルルル」


 唸り声を挙げ茂みから現れたダイヤウルフ。対するデヴィハさんは腰を落として盾を構え斜め下に戦槌を落とし、慎重に油断なくゆっくりと近寄っていきます。

 シーレイさんがデヴィハさんの左側から回り込み、エレシアさんは私の前に立って呪文詠唱を始めました。

 ピーリさんはデヴィハさんの背後へ移動し、彼の背に向けて手を翳しながら祈りを捧げ始めました。


 へー、神官の魔法ってあのように使うのですね。


 エレシアさんの魔力は詠唱と共にダイヤウルフの前方に流れて行っていますが、ピーリさんは自分の手に集まってます。

 呪文の形式は異なりますが、どちらも結果的には魔力を使って何らかの現象を起こすものですね。


 さすがのダイヤウルフも数人相手では分が悪いと感じたか、少しずつ後ずさりをしていきます。

 が、エレシアさんの背後にいた私と一瞬目が合った瞬間、後ろ足に力が入るのが分かりました。


 《魔眼》の一つ、《念話》。生き物であれば、知能がある限り相手の意思が読める能力です。

 それによると、『周りの奴ら強そうだけどあんなところに小さい奴がいる』、という意思が伝わりました。


 あら、私狙われている?

 確かに一番弱い敵から倒すのはセオリーだと思いますけどね。見た目で言えば私が一番弱そうですし。


 そしてデヴィハさんが一歩前に踏み出した瞬間、ダイヤウルフが後ろ足を蹴り空へと舞い上がり、デヴィハさんの上を飛び越えて一直線に私へと飛びかかろうとし……。

 エレシアさんの風の魔法が炸裂、それに後ろへと押し返され、更には「ギャン!?」と悲鳴をあげました。

 良く見ると、右目にナイフが突き刺さっています。

 サイズさんが投げたものでしょう。《魔力透視》が無ければ私でも分からない見事なまでの隠行です。

 ダイヤウルフが地面に着地したときには、デヴィハさんが既に戦槌を構え無造作に右からの横殴り、左へと吹き飛ぶダイヤウルフ。

 吹き飛ばされた先にはシーレイさん。

 剣を構え一閃、赤い血が舞い散り見事ダイヤウルフの首を切り取りました。




「みなさん強いですね」


 これは本当にそう思いました。ダイヤウルフの反撃を許さない、流れるような連携攻撃でした。敵が一匹だけと言う事もありましたが、殆ど一方的にシーレイさんたちが蹂躙した感じですよね。


「えへへ、そうでしょ」


 シーレイさんが嬉しそうにしています。

 その横ではデヴィハさんが切られたダイヤウルフの首を持ち、長い牙をナイフで削り取っていました。

 サイズさんは姿は見えないものの、引き続いて周囲を警戒している様子です。

 エレシアさんは、いまだ流れているダイヤウルフの血を魔法で出した水で洗い流し、匂いを消し、ピーリさんは相も変わらず感謝しています。


「ちなみにダイヤウルフですよね、それって強い魔物なんですか?」

「Bランクに指定されているけど、この個体は身体が小さいからそこまで強くなさそうだね」

「これで身体が小さいのですか?」

「うん、多分この個体が弱いから群れから追い出されたんじゃないかな? ダイヤウルフはもっと森の奥に居る事が多いからね。本来ダイヤウルフって五匹~六匹くらいで襲ってくるし」


 確かにそれだけの数に襲われたら、今回のように完勝は厳しいかな。


「デヴィハ、回収終わった?」

「うむ、やはり他の牙と比べて小さいの。あまり高く売れないじゃろうて」

「そっかー、それは残念」

「で、ナミルちゃんは薬草の収集は終わった?」

「もう少しだけ見てみたいですね。入ってすぐにこれだけの種類が生えていましたから、もう少し探せば色々とありそうです」


 実はもうポーチはかなり満杯でこれ以上の採取は厳しいですけど、明日また来ればいいだけですしね。


「それにしてもナミルさんって、どうやって薬草を見つけているの? 私ですらナミルさんのように簡単に見つけられないんだけど」


 エレシアさんはある程度の薬草学も知っているらしいです。しかも半分エルフの血が流れていますから、森の中は彼女にとって庭みたいなもの。だからこそ薬剤師の私がどのようにして薬草を判別しているのか気になっているようです。

 《鑑定》を使えば頭の中に次々と周りに生えている薬草の名前が浮かんでくるのですが、さすがに《魔眼》の事は秘密にしておきたいです。

 下手に《魔眼》持ちだとばれると、国に密告されて私は実験体として扱われる可能性がありますからね。


「私は小さい頃からハーブなどの薬草が好きでして、趣味が高じて薬剤師になったのですけど、何となくこの辺にはこんな薬草が生えているな、と分かってしまうんです」

「今までの経験なのかな? 私も薬草学は学んだことあるけど、それはあくまで暇つぶしみたいなものだったし、ナミルさんのように本職でもないからかな」

「これから気にするようにすれば、自然と分かってくるんじゃないですか?」

「そうかなー。ちょっと面白そうだしやってみようかな」

「冒険者ならあちこち行く事もあるかと思いますし、時間のあるとき少し気にするだけで今まで見えてなかったものが見えてくると思いますよ」

「だよねー、それとどうやって魔物をあんなに早く見つけているの?」

「あーそれも……カン……でしょうか」

「怪しいなー」

「エレシア、ナミルちゃん、そろそろ行くぞ」


 いつの間にかサイズさんが戻ってきていました。

 この人、意識しないとふっと気配が消えたりしますね。高ランクの盗賊ってみんなこんな感じなのでしょうか。


「サイズさんは、気にならない? ナミルさんの事」

「気にはなるが、ここで聞かなくとも帰ってからで十分だろ。ほら、さっさと準備」

「ぶー。わかったよ」

「エレシアちゃん、あたしも気になるからあとで問い詰めようよ」


 シーレイさんとエレシアさんが結託した模様です。帰ったら面倒な事になりそうですし、どこかタイミングを見て逃げてしまいましょうかね。


 再びサイズさんが先行したのち、残りがそれに続いて出発しました。




 あれから一時間ほど経過しました。

 その間二回ほど魔物と戦いがあったものの、難なく倒せました。

 特に二回目はアーヴェン様と知己になったきっかけの魔物、トロールでした。

 ただこちらも一体だけ。

 パワーもあり異様なまでの回復力を持ち合わせているトロールですが、攻撃の全てはデヴィハさんの盾で弾かれ、その間にエレシアさんの魔法が飛ぶという容赦ない攻めでした。

 回復する間もなくシーレイさんが隙をついてトロールの首を刎ね、苦戦することもないまま戦闘終了です。

 エレシアさんの魔法もシーレイさんの剣も凄いですが、あのトロールの馬鹿力を完璧にいなしたデヴィハさんが凄いです。

 さすがドワーフの重戦士といったところでしょう。


「そろそろ戻るぞ」


 トロールとの戦いが終わったあと、サイズさんがそう皆さんに伝えました。

 私はこの時点でポーチから溢れんばかりの薬草を手に入れてほくほく状態です。しかも今回の目的の一つ、ウコンを発見できたのです。

 カレーの重要なスパイスの一つであるターメリックはウコンの根、というか地面に生えている茎を乾燥させて粉末状にしたものなのです。


 さらにターメリックはもう一つ重要な要素を兼ねています。

 私はリルリでおにぎりを作って売っていますが、おにぎりにはやはり漬物が似合うと思いませんか?

 たくあん。これもターメリックで黄色くしているのですよ。

 カレーにはラッキョウが定番ですけど、たくあんも意外と合いますしね。



 ああ、今からよだれが……。



「ナミルちゃん上の空だよ? しかも口を半開きにしてどうしたの?」

「へっ? あ、いえ、その、な、なんでもないですっ!」


 シーレイさんに突っ込まれました。

 いけないいけない。まだクミンを見つけてないのですから、気を引き締めないと。

 ……と考えていると、ふと頭にハイル草という名が浮かび上がりました。

 ハイル草は痛み止めとなる薬草で、回復軟膏にはもちろん、痛みを伴う病気などにも使える非常に有効なものです。ただし、滅多に見つからないレアな薬草です。

 それがこんな所に。

 これを使えばより良い回復軟膏もできることでしょう。


 ふらふらと木の下へ足が向きかけたとき、またあの視線を感じました。しかも今回は射抜くような鋭さを感じます。

 足を止め視線を感じたほうへと向いた瞬間、すぐ側にとても大きな魔力のゆらぎが視えました。


 昔、男爵家で過ごしていた頃、一度だけ召喚術を使う魔法使いを見た事があります。彼は兎を召喚しましたが、その時の魔力の揺らぎが、目の前で揺らいでいる魔力と酷似しているのに気がつきました。

 もちろん大きさは全く違いますが。


 つまり、私たちの前に何か強い魔物が召喚されている、と言う事です。


「みなさん、すぐ前に魔物が召喚されます! 下がってください!」

「なにっ!?」


 私の声を聞いた途端、デヴィハさんが私の首根っこを掴まえて後ろへぽいっと投げられました。

 子供じゃないんですから、自分で逃げられますって!

 全員が距離を取ったとき、大きな何かが先ほど私たちがいたところに現れました。



 それは……五メートルはありそうな大きな亀。亀というには少し違いますけど。

 と言うのも甲羅と頭は亀そのものですが、足の代わりに赤い触手が何本もうねうねと動いていました。


 うぇっ!? 何こいつ、気持ち悪い!


「こいつは……レイジーンだっ! SSランクだぞ!!」


 サイズさんの声が飛ぶと、みなに緊張が走りました。

 その亀、レイジーンと呼ばれた魔物は私たちを一瞥すると、器用に触手をねじるように一本にまとめて足のように立ち上がります。


「グルゴアァァッァ!!」

「触手プレイキタコレ!」


 空気を振動させるようなレイジーンの雄たけびが、森の中に木霊しました。そしてシーレイさんの声もそれに合わさるように、私の耳に届きました。



 ……あとでしばき倒していいですよね。



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