表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特区 若き魔法遣い改め  作者: 夏目
7/10

魔法塔の住人

ヴァンエールは、部屋を出た。

「青ザル」

呼ぶ。

「…ご用事だね」

声は、枯れた噴水からした。

魔法塔の一階部分、ちょうど中央にある。底の方に水は張ってあるが、縁が椅子代わりになる、ぐらいの機能しかない。

ヴァンエールは噴水の縁に腰を下ろした。

青ザルは噴水の底に仰向けに倒れていた。

「何してるの?」

「休憩してたら、落ちちゃったんだね」

「助けた方がいい?」

「お願いするんだね」

ヴァンエールが引き上げ、縁に座らせる。

黄色のチープなチョッキを絞ると信じられないぐらい水が出た。

「ありがとうだね。赤ザルが帰って来るまで寝てるとこだったんだね」

「それは大変。自分で上がれないの?」

「無理なんだね。青ザルは力つきちゃうんだね。みんなのお手伝いもすぐに力つきちゃうんだね」

がっくりと肩を落とす。

「じゃ、ボクのお願い頼める?」

青ザルが目を輝かせてヴァンエールを見上げる。

「フィルを呼んでくれる?」

「分かっただね!」

青ザルは元気よく階段を駆け上がった。

小さく苦笑して、ヴァンエールは辺りを見回した。

外から見た印象より広くて円いエントランスにして一階。ヴァンエールにとっては見慣れた煉瓦造り。

玄関ドアの対面の壁から階段が始まる。

螺旋状に魔法塔の壁を這う階段はずっと上まで続いている。階段の途中にドアが等間隔に並んでいて、はっきり言って、そこに本当に部屋があるんだろうか、と疑いたくなるようなドアの配置だが、ちゃんと、ある。

どこらへんが二階なんだか、三階なんだか、判断出来ないが、どっかのドアから青年が出て来る。

金髪で色素の薄いサングラスをかけている。

腕には、青ザル。

「お久しぶりです」

「久しぶり。時間ある?」

「はい。腐るほど」

フィルはにこりとする。

噴水の縁に青ザルを下ろし、ヴァンエールに促されてオルディーのいる部屋の隣室へ。

「エバンシアが大変みたい。ちょ…」

「またですか?何したらいいんです?」

ヴァンエールに最後まで言わせず、フィルは怒ったように言う。

「…隣でオルディーが、しょう気について調べてる。ボクらに何が出来ると思う?」

フィルは難しい顔で首を傾げる。

「因みに、エバンシアは今?」

「里帰りだそうだから、赤ウサギの家だろうね」

カチャカチャと音を立てながら紅茶セットを青ザルが持って来る。

「白ザルがヴァンエールとフィルのお手伝いするように、って言ったんだね」

「それは助かる」

「じゃ、青ザルはエバンシアに何かあったか知らない?」

「聞かないとわからないんだね」

ヴァンエールが紅茶を淹れる。

「オルディーにも出して来るよ」

ヴァンエールが部屋を出たのを見送りながら。

「ウサギたちと話は出来ないんですか?」

「白ザルか赤ザルじゃないと難しいんだね」

「あっちの様子は、わからないんですか?」

「青ザル以外ならわかるんだね」

「青ザルは何でわからないんです?」

「青ザルは、わかっちゃダメなんだね。そういう役目なんだね」

「役目…?」

フィルが首を傾げると、ヴァンエールが戻って来た。

「ボクに内緒の話?」

「いいえ、青ザルの役目の話です」

「青ザルは雑用だからね。知らないコトに意味がある」

「知らないコト?」

「白ザルが知らないのに、青ザルが知ってたら問題が起きてるってこと」

「そんなものですか?」

「そんなものみたいだよ。秘密を聞いても覚えられないみたいだし」

紅茶セットを端に移動させる。

「さて。エバンシアは、保存食を腐らせるようなしょう気に当たって取り込み中。らしい」

「取り込み中?」

「……エバンシア自体は元気なのかも知れない」

ヴァンエールが腕組みして考え込む。

「取り込み中ってことは、何かしてるんだろうし。エバンシアが、何か面倒なことに巻き込まれたってとこかな?」

「そうでしょうね。イリスの側ならまぁ大丈夫でしょう」

フィルは小さく嘆息した。

「僕らで何が出来るんでしょう」

「あんまり役に立たないからね、ボクら」

ヴァンエールが肩をすくめる。

「青ザルは何か名案思いつかない?」

「さっぱりなんだね!」

きりりとした表情で言う。

「はっきりしてるなぁ」

フィルが苦笑する。

「あ。白ザルたちの手が開けばいいんじゃない?」

ヴァンエールが思いつく。

「…つまり、白ザルたちの手伝いの方をする?」

「そうそう。ボクらが役に立てば、の話だけどね」

「そうですよね。僕は魔法塔から出られませんし。ヴァンエールもアオザイレから動けないんですよね?」

「そうなんだよねぇ。青ザルも魔法塔から動けないしね。本当に、待つぐらいしか能がないよね」

「白ザルのお手伝い出来るか聞いてくるだね」

青ザルが、元気に椅子から飛び降りた。

「気をつけてね」

送り出す。

「青ザルって出来ないことが多いですね」

フィルが呟く。

「基本的には、癒やし担当だからね」

「癒やし担当…」

その懐疑的な表情にヴァンエールが苦笑する。

「青はいるだけで、いいんだそうだよ」

「いるだけで」

フィルが嘆息する。

「エバンシアも似たようなこと言ってました」

「へぇ」

「青いの…とりわけ、青ウサギの役立たずぶりには、脱帽するそうです」

「エバンシアも言うねぇ。珍しく」

「ええ。それで印象に残ってます。きっと、青は、一つの場所から動けない者のために、役立たずなんだろうね、って」

「そう…かもね。魔法遣いは、とても長い時を過ごすから」

隣室から派手な音がした。

「本の柱が倒れたみたいだね」

ヴァンエールが腰を上げる。

「フィルも様子見てみる?埋まってるかも知れないし」

「そうですね」

ヴァンエールとフィルが隣室で見たのは、本をバラまくオルディーの姿だった。

「…何してるんです?」

ヴァンエールが怪訝な顔で聞く。

「あ。ちょうど良かった。本をこう、出来るだけ平らって言うの?一面に広げてほしいんだよ」

「部屋一面ですか?」

「そうそう。あ。テーブルとか外に運び出してもらえる?魔法でぱっとしたいけど、迂闊に使うと酷い目に合うし」

オルディーは生き生きしている。

何だかよくわからなかったが二人はオルディーを手伝って、部屋中に本を広げた。

「ま、こんなものだね」

満足そうにオルディーは呟く。

「ちょっと下がってくれるかな?」

にこにことオルディーに言われて、ヴァンエールとフィルが下がる。

オルディーは入り口に両膝をついて、両手で、ばん!と本を叩いた。

瞬間、青白い光が、一面にバラまかれた本の表面を走る。

一瞬で駆け抜けた閃光は、何冊かの本を跳ね上げた。

空中に跳ね上がったまま漂っている本をオルディーが回収し、外に出したテーブルに乗せる。

「何したんですか?」

フィルが不思議そうに聞く。

「ざっくり読んでたんだけど、あんまりにも膨大な量だったからね」

オルディーは肩をすくめる。

「僕の『運』にかけてみた」

オルディーは呼び鈴を鳴らす。

「『運』…ですか」

「そう。ま、占いとかに近いのかな?魔法遣いってのは、強ければ強いほど、真実を引き当てるもんなんだって」

「オルディーって強い魔法遣いなんだ?」

ヴァンエールの発言にオルディーは首を振る。

「僕は運がいいだけだよ。イリスのお墨付きの」

白ザルが姿を見せる。

「お呼びですか」

「悪いんだけど、そこの本全部片付けて」

白ザルは3秒ほど室内を眺め。

「かしこまりました」

と言うと、溢れた本と一緒に部屋の中に入って、ドアを閉めた。

「サルたちが魔法使う所って見たことないんだよねぇ」

興味深そうにオルディー。

「所で、本当に役立つんですか?」

フィルがテーブルの上の本を眺める。

合計、3冊の本。

旅行記と絵本と図鑑。

「この図鑑…」

ヴァンエールが怪訝な顔をする。

『しょう気大図鑑』と表題にあるが、絵本よりちょっと太いというぐらいの薄っぺらい本である。

「役に立つんですか?」

他の2冊にしても、『しょう気はこわい』という、子ども向けの絵本と、『ニヴォーズ旅行記』という、ニヴォーズ国を旅行した時のエッセイ。

『ニヴォーズ旅行記』に関しては、およそ、しょう気が出てくるとは思えない本だった。

「多分ね」

肩をすくめるオルディーの頭に、青ザルが降ってきた。

「え」

と全員が呟いた。

「難しい話はわからないんだね」

ぐったりオルディーの頭にかぶさっている。

「この3冊読んだら何か思いつくと思うし」

オルディーは『ニヴォーズ旅行記』を手にとった。

「さて。部屋は片付いたんでしょ?運ぼうか」

青ザルを頭からはいで、テーブルに置く。

「わかっただね」

青ザルはテーブルから飛び降りて自分の身長より遥かに大きなテーブルを気楽に運ぶ。

ドアを開けると。

もぬけの殻。本と白ザルは消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ