疑問
オルディーは、レティクラタを辞してランバーに戻った。
すっかり夜になっている。
オルディーは、弟子のクラムウェルと住んでいる。クラムウェルは、十代中頃から後半ぐらいの少年である。
「…何かあったんですか?」
「へ?」
「難しい顔してます」
オルディーは苦笑する。
「エバンシアは元気そうだったんだけど。ただの里帰りじゃないみたいでね」
「気になるんですか」
「なる。首突っ込んだらイリスに怒られるかも知れないけど」
「それはないんじゃ…」
クラムウェルが、僅かに首を傾げる。
「その時は釘さすでしょうし。オルディーが動くのはおおよそ、分かりきったことですし」
「え。そうなの?」
オルディーが心外そうな顔をする。
「知りたがりじゃないですか」
「好奇心旺盛とか、言いようがあるでしょ」
クラムウェルは肩をすくめる。
「とりあえず、お茶の用意しますから、オルディーは頭の中でも整理しといて下さい」
オルディーは憮然としながらも、そうすることにする。
ダンフォルディアがエバンシアを迎えに来た。
やたら濃いしょうきが流れ込んで来た。
エバンシアが倒れた。これは、エバンシアだから、なのか、誰であってもそうなのか。
保存食が痛むほどのしょうき。
ダンフォルディアが笑った。…これは関係ないか。
情報が少な過ぎてよく分からない、というのが感想だ。とりあえず、今回の事はしょうきが関係しているようだが。
「しょうき、ねぇ」
イリスに再び聞きに行きたい所だが、あいにく暫く来るな、と言われてしまった手前、もう少し自分で調べてみる必要がありそうだった。
「お茶の用意が出来ました」
クラムウェルが紅茶を運んでくる。
「ありがとう。いつの間にか、僕より上手に淹れるようになったよね」
「修行の賜物ですかね」
「軽口も叩くようになったしね」
「……エバンシアの件ですが」
クラムウェルが矛先を変える。
「元気そうなのに、隷が分からない、というのは…」
「ああ、それは簡単。イリスの家だから」
隷は遠く離れていてもある程度、主の体調やら精神状態やらが分かる。
リンのように、隷の方が強い場合は尚更である。キスリムは主と隷を繋いでいる。
但し。その絆をぶった切るような場所もある。
そう言う場所を『特区』という。
「知ってるだろうけど、特区だからね。あそこ」
「あぁ。なるほど。あの結界はキスリムでも通さない、ということですか」
特区は結界に覆われた場所を指す。
その結界は並みの結界ではない。一体、誰が何の目的で張ったのか、謎が謎呼ぶ場所である。
ちなみに、世界に知られている特区は3つ。
魔法士の聖地『魔法塔』。
魔法士養成所『ベヘシュト・パウニ』、『ヴァントーズ・パウニ』。
それ以外にもあるとは言われているが、確認されてはいない。
当然のことながら、イリスの家は、知られざる特区のうちの1つだった。
「だから、凜慄公はエバンシアが里帰りするのが嫌いなんだよ」
「生死さえも分からないからですね」
「そ。隷にとっては死活問題だからね。発狂するかしないか、生きるか死ぬか」
「魔獣にとってはそんな大問題なんですね」
クラムウェルが感心したように言う。
「らしいよ。僕、人外だし、クラムウェルは魔生だしね」
「ですね。魔獣か人魔に分類されると思ってたんですけど。魔法で作られた生物とは」
クラムウェルは大げさに首を振った。
「正直、信じられなかったですけど、今は、魔生だわ、と実感しますよ」
「え。そうなの?どこらへんが?」
オルディーは興味深々。
「それが、魔法遣いたる所以だと思うよ?オルディー」
「自覚はあるよ。イリスにも指摘されたし。で?」
「隷みたいにしょうき吐かないし、主に一生を捧げる気にならないし」
「そこは魔獣によって違うみたいだよ?凜慄公も自分は隷にならない、って思ってたみたいだし」
「そうなんですか」
「ちなみに人魔じゃない実感は?」
「魔力のケタが違いますし。どちらかと言うとおれは魔獣に近い体質な気がします」
「…確かに」
オルディーは、納得して紅茶を飲む。
「明日、魔法塔に行こうと思う。イリスんちは、暫く行けないし」
「そうですか。おれは、フロレアルにでも買い出しに行って来ます」
「……クラムウェルも少しは興味あるんだね」
「他ならぬエバンシアのことですから…と言うことにしときます」
「あれ。本当に用事があるの?」
「ありますよ。ご実家から伝書鳩下さい、って言われてますし」
「あぁ、そうだった」
「何か適当に持って行きますよ」
「宜しく」
クラムウェルは怪訝な顔をした。
「ハチドリしかいませんけど…いいんですね?」
オルディーが、げっとおもわず口にしたものの。
「…とりあえずいいよ。魔法塔で相談してみる」
「お願いします」
クラムウェルが苦笑する。




