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mono×cross  作者: イズチ
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第4ステージ・聖誕祭:光

 聖誕祭当日。私たちはアエリデキューブを守るためあちこち回っていると見せかけて警備を行っていた。と、いうのも瀬木ちゃんがこの情報はハンドだけの秘密にするように決めたからである。


「アエリデキューブ奪還を絶対阻止するぞ!」


 そう決意のこもった目で言われれば私たちにも反論の余地はない。

 と、言っても瀬木ちゃんは『学生』代表のスピーチのため祭壇近くのステージに待機しており、現状は私と己片、ライトで行っていた。んだけど……。


「え~、でもせっかくの聖誕祭だし……」

「あ、俺焼きそば買ってくるわ!」

「2人共、もうちょっと真面目にやらな後で瀬木ちゃんに怒られんで……」


 2人は警備なんてほったらかして、さっきから屋台に夢中である。まあ、本来聖誕祭は楽しむものだし、己片たちがダメだとは言わないけど……。


「もう、アエリデキューブがどうなってもいいん?」

「だって無くなっても僕たち困らんし?」


 己片が焼きそばを食べながら言う。


「またそんなこと言う……己片がそうやなくても、世界的……いや光サイド的に大混乱やの!」


 アエリデキューブとは世界が2つに分かれた時に突然天から降ってきたとされる白い箱で、今は守護神として祀られている。そしてここの最高峰の偶像という大事な役割も担っているのだ。


「だってそんなこと言われてもなぁ……俺なんかそんなん今まで知らんかったで? 聖誕祭とかただの祭やと思っとったわ」


 焼きそばはいつの間にか食べ終えたらしく、今度はイカ焼きに手を出そうとするライト。こんなので本当に大丈夫なのだろうか。私は思わずため息をもらす。こんな時闇サイドのみんなもいたら……いや、もっとややこしいことになっていた気がする。想像するのも恐ろしい……。


「まあ、とにかく怪しいヤツがおったらぶっ飛ばせばいいんやろ? いつもの仕事とおんなじやん!」


 『正義』と称されるだけあって、スペードの役職は警備、軍事など戦闘に関わる仕事を担当している。ライトは戦うの好きだし、何より魔法と対等に渡り合えるほどの武力を持っているから向いていると思う。――と、


「あ、あれは!」

「もしかして!」

「ダイヤの川手さんだ!」

「あちゃ~、バレちゃったね?」


 全然困ってなさそうに、むしろ笑っている己片。と、周りにどんどん人が集ってくる。さ、さすが『偶像』……。


「何してんねん、早く!」

「あ、え?!」


 ライトに首根っこを掴まれ、私たちと己片は別れてしまった。



 少し人通りが少ないところで解放してやると、小阪に睨まれた。おそらく3人でいた方がいいのに、ってところだろう。


「もう、何するん! 己片と別れてもうたし……」

「でも、あそこで人混みに紛れてた方が何かあった時対処できへんちゃうん?」


 正論を言ってやれば小阪が口をつぐむ。こんなことに関してだったら俺の方が1枚上手やって知ってる癖に。……そんなにアエリデキューブって大切な物なのか?


『次はあの大人気アイドル、紅村晴(さやか)さんによる聖誕祭ライヴでーす!』


 賑やかな会場にアナウンスが響くと、みんな一斉に祭壇もといステージを目指していく。紅村晴……前井上と一緒に見てたドラマにいたヤツだな。しかし聖誕祭とライヴには何の関連性もない。やっぱりみんなの認識はクリスマスと同じお祭り程度なのではないだろうか。


「どうする小阪? 何か始まるみたいやけど」

「こんな時には私に聞くねんな……」

「あのな、知らへんかもしらんけど今、マトモなヤツはお前しかおらんねん。悪いヤツがおるんやったら客に紛れるか……この閑散としたところで何かするかのどっちかやろ」

「た、確かに……」


 小阪は少し考える素振りを見せたが、やがて意思を秘めた目をして、


「きっとステージにやったら瀬木ちゃんと……後己片もあっちの方に行ってると思う。私たちはここら辺歩いていこう!」

「そうこなくっちゃ」


 あんなに人の密集した地域じゃ暴れようにも暴れられない。小阪は俺の意図を察したのか、


「戦わなあかん時は戦ってもええけど、物壊すのは絶対あかんで!」


 と、言ってきた。



「――案外早かったな。見つけんのも……捕まえんのも」

「そ、そうやな……」


 とりあえず結果を言うと、私たちはあっさりといきなり黒い穴から現れた黒フードの人物を発見し、ライトが忍び足で近づき、後ろから手刀をかませば不審人物はあっさりと気絶してしまった。私なんて当然出る幕も無かった。

 とりあえずスマホで瀬木ちゃんと己片に連絡する。瀬木ちゃんは何とか隙を狙って返信したのか『わかった』という短い言葉が返ってき、己片は周りの人たちに見られることを懸念したのかはたまたただ単に騒いでるだけなのかは定かではなかったが、返信は無かった。


「で、コイツどうするん?」


 手持ちぶさたなのか足で不審人物を転がして遊びながらライトが問う。

 私は目を閉じると、黒フードの人物のおでこに手を当てる。


「『リンク』」


 瞬間、私の意識は暗い底へと落ちていった。


 私の能力は他の人とは昔からちょっと違っていた。

 前来たアスカや鴨のように魔法に秀でてるわけでもなく、かと言ってライトのように拳や足で戦えるわけでもない。

 だがしかし他の人が持っていない力を私は持っていた。

 ――人の心に入り込める力――。


 目が覚めると、私は都会の中にぽつりと佇んでいた。ここがあの人の精神世界らしい。


「どこおるんかな……」


 人の心が様々であるように、精神世界も様々だがこういう普通の町並みのようなところではその人の『本当の自分』が見つけにくくて大変だ。

 とりあえず行く宛もなく車がまったく通らない車道を横切ると、ビル群の中でも一際背の高い物を見つけた。経験上、こういうちょっとした目立つところに『本当の自分』がいることが多い。

 ビルの中に入ると無人であるものの、カウンターやディスプレイがロビーにあるガラス張りの立派なものだった。この人はお金持ちになって立派な会社を作り上げたいのかもしれない。エレベーターに乗ると直通になっていて1番上の階まで上がる。降りた先には自動ドアがあって、そこに入ればホテルのスウィートルームのような空間が広がっていて私は目を丸くした。


「凄い……」

「勿論だ。全部私が造ったのだから」


 声に驚いて振り返ると、あの人と同じ容姿だが服はスーツの人物が立っていた。


「あなたが精神世界の住人?」

「ああ。それにしてもここに入って来られる人間がいるなんてな」

「まあね。それより……あなたは東雲の部下か何かなん?」


 前刺客を送ってきた『間者』のリーダー格の名前を出すと、男は思い切り眉を潜めた。


「アイツの部下? 冗談じゃない。何であんな奴の部下にならなきゃいけないんだ。あんなのに着いてる奴なんて――変わり者2人だけだ」

「でもそんなこと言う割には狙ってるものは一緒やけどね」

「それは致し方ない。思想は違えど『間者』としての目的は同じなのだから」

「『間者』の目的?」


 思えば彼らには謎が多い。戦争を止めてくれたことを考えれば感謝している人は多いだろうが、素性が知れないからと不気味に思っている人も多い。政府が彼らを特に咎めないのも、私たちに害になることをしないからであって、利益になるようなこともしていない。そもそも中間に属する彼らがどこに住んでいるのかも私たちはよく知らないのだ。

 首をかしげるのは予想通りだったのか、男はふん、と鼻を鳴らす。


「仮にも『学生』のトップが聞いて呆れるな。その様子だと本当に何も知らないようだし……」

「ってことは、光サイドにも知ってる人はおるってこと?」

「さあ、どうだろうな……どっちにしろ俺は失敗した。ここは癪だが奴の独壇場になるだろう――」

「ちょっと! 待っ――!」


 強い光が溢れて、私の意識は強制的にログアウトした。



「――さか! 小阪!」

「……うん……」


 目が覚めると焦った顔をして肩を揺さぶるライトが見えた。私が目を開けたのを見て明らかにホッとした顔をする。


「よかった……いきなり彼奴が光って消えるからお前どうなるんかって焦ったわ」

「ごめんな、心配かけて。私は強制的にリンク切れさせられたから大丈夫」

「べっ、別に心配はしてへんし! それよりも何かわかったんか?」

「ああ……ごめん。特に収穫はなかったわ。わかったのは彼奴が東雲の仲間やないことと『間者』が何らかの目的でアエリデキューブを狙ってることだけやわ」


 元々アエリデキューブの存在が既に不可思議な物だ。どんな効果があるのかは知らないが、欲しいと思う人がいてもおかしくない。


「東雲は変な兵隊送って来た奴やんな……」

「うん。で、口振りからして――もうちょっとで東雲たちはここに来るんやと思う」

「え、それヤバないか?!」


 いきなりライトが大声を出すものだから私は少しビックリした。


「いやわかってたやん……あんだけ堂々と宣言しといてこうへん方がおかしいやろ……」

「ここにおったらあかんな! 小阪走るぞ!」

「えぇ~?!」


 結局私はライトとステージのある祭壇まで走り込みをするはめになったのだった。


「いやぁ、それにしても瀬木ってまさかと思っていたがやっぱり娘さんだったんだねぇ」

「まあ……はい」


 にこにこ笑いかけてくるのは『大人』のトップであり光サイドの実質トップでもある――総理大臣の神野仁志(こうのひとし)だった。父からも話をよく聞く人で、穏和で尊敬に値する人物だと言っていたが、私がハートになると同時に総理大臣に選ばれたと知った時は驚いた。


「去年は諸事情で来れなくてね。やっと会えることができて嬉しいよ」

「総理大臣にそう言っていただけるなんて光栄です」

「はは、そんな堅いところもお父さんそっくりだ」


 あの朗らかなお母さんの血は誰も継がなかったんだなぁ、とぼやくのだから私は心の中で密かに妹がバッチリ継いでます、と返す。

 それよりも私はライトと桜が心配だった。メールによればもう倒したもののやはり『間者』から刺客が来ていたらしい。川手がいなかったらしき文面が気になったが――まあ目の前にある誰かを中心にできている人だかりを見れば自ずとわかる。まったくアイツは相変わらずと言うか……。

 考え込んでる私をよそに神野は話しかけ続ける。


「君はやっぱり将来はお父さんの跡を継いで厚労省に行くのかい?」

「まあ……そうかもしれませんけど、せっかくですからこのままトップを続けるのもありかなと思ってます」

「それは私に宣戦布告ってことかい?」

「いや、そう言うわけではなく……!」

「ははっ、わかってるよ。ちょっとした冗談だ」


 そう言って笑う神野は確かに穏和だが、中々一筋縄にはいかない人物だ。この人を動かそうとするなら大変だろうな、と密かに思う。


「みんなー! 最後まで聞いてくれてありがとー!」


 黒髪のツインテールの少女――紅村が頭を下げれば、ステージは一気に歓声に包まれた。ライブが終わったらしい。私の出番もそろそろだ。


「じゃーあっ! 例年通りライトアップいっちゃおう!」

「おおぉぉぉぉ!」

「いけー! さやかぁー!」

「みんなも一緒にいくよっ! せーのっ」

「「さん」」

「「に」」

「「いち!」」

『ぜろ、なんちゃってー!』


 瞬間、ステージはライトアップどころか暗闇に包まれた。


「お、おい……!」

「どうなってるの、停電?!」


 明らかに動揺している人々の声が聞こえる。

 なぜか一気に電気が落ちた。だが、私の横にあるヒーターはまだ温風を送っている。――随分都合のいい停電だ。


「『ライト』!」


 そう唱えて光を手に宿すとマイクを見つけ、迷わずスイッチを入れた。


「皆さん落ち着いてください! 今、復旧作業に当たっています。私たちは光の民。魔法を使える方は光魔法を行使し、安全のため動かないようお願いします!」


 私のスピーチが功を奏したのかはわからないが、あちこちでパニックなっている音は収まっていき、次第に光が増え、ある程度視覚は確保できるようになった。


「総理、すいません。急用ができましたのでこの場をお願いします」

「え、君急用って……?!」


 机に立て掛けてあった輪舞曲(ロンド)を腰に差して、机を踏み台にして飛び上がり、来賓席から飛び下りる。マナーなんてくそくらえだ。


「桜! ライト! 川手!」

「瀬木ちゃんこっち!」


 ぐいっと手を引っ張ってきたのは桜だった。後ろには川手もライトもいる。


「みんな集まってくれてたんやな……」

「ライブのおかげで己片の人だかりが大分マシになってたから。後はライトに無理矢理やってもらったけど」

「とりあえず祭壇に向かおう! 『スピリア・フライ』!」


 速度を上げる呪文と飛行魔法を合わせたもの――いわゆる複合魔法を唱えて一気に祭壇に向かう。速度上昇のおかげで一気に祭壇までたどり着いた。

 祭壇の上にある神殿は神聖なものとされ、アエリデキューブが取り出される時のみしか入ることは許されない。逆に言えば魔法の結界を無理矢理壊すことのできる者がいれば障害などないに等しいということだ。



 全速力で走り抜け、大きな石造りの扉を開けば――黒フードを着た男が3人立っていた。その中心には……白い光を放つ箱。


「お前らなんかに持っていかすかよ!」

「ライト!」


 制止の声も聞かずに、ライトは速攻で相手の首を狙いに定めて足を振り上げる。首は高い位置にある上、頭よりも小さいから足で攻撃するならばある意味頭部に攻撃を与えることよりも難しい。だがライトはそんなことも造作なくやってみせる――が。

 ガキッ!


「うぉっ?! 固っ!」


 ライトは目を見開いた。分が悪いと判断したらしくこちらに再び交代した。と、いうかあんな金属音で普通は反応はあれでは済まされないと思うのだが……。


「え、君サイボーグか何か? 鉄人何号機?」

「ルネ……お前黙れ」

「何で?! 超金属の防具にヒビ入れた上に平気なんて彼只者じゃないよ!」


 なぜか少し興奮気味な敵。ルネ――確か前兵隊を操っていた奴か。


「悪いがそれは光の民の宝だ。返してもらう」


 脅しの意味も込めて剣の切っ先を相手に向ける。


「……それは困るな」


 ガチャガチャと何かが組み立てられ、今まで喋っていなかった男がようやく顔をあげた。少し目付きの悪い目がこちらを捉える。ぼんやりとした光に鈍く照らし出されるのは……銃身。銃と剣なら剣の方が圧倒的に不利だ。だがここは……!


「待てシーク」


 そう言って制止をかけたのは意外にも向こうのリーダー……東雲だった。そしてシークという名前に反応する。シーク――確か正体不明の殺し屋がそんな名前ではなかったか。

 東雲の指示にシークはゆっくりと銃身を下ろす。


「……何だ今さら」

「別に戦う必要はない。下手に攻撃をしてハンドに傷を負わせなどしたら厄介だ」

「っ! ふざけてんのかよっ!」

「お待たせ~、解析終わった」

「遅い、うるさい」

「ひどっ?!」


 すっかりあちらのペースになっている。いけない、なんとか流れを作り上げなければ……。

 だがルネはとんでもない爆弾を投下した。


「うん。東雲予想通り。これ、偽物だ」

「やっぱりな……」

「……は? 偽物?」


 川手が声を震わせる。かくいう私も信じられなさすぎて時が止まっているように感じた。アエリデキューブが偽物? しかも東雲は察していた? そんなこと……。


「あり得ねーだろそんなの!」

「いやいや。ホントだって!」

「逆に俺たちが聞きたい。本物は……誰が持ってる?」

「……あ~あ、何かややこしいことになってきたけど」


 声はいつも通りだが顔は笑っていない。手には双剣がしっかりと握られている。


「それは僕らのもんやし。返してもらおっ、かっ!」


 1本を東雲の手に向かって投げ、その隙を狙ってもう1本で斬りつける。双剣だからこそできるコンビネーションだ。そして東雲も油断していたのか避けるのが甘かった。小さいが黒フードに切れ目が入る。


「くそっ……」

「『柳す……』!」

「させるか」


 銃声がなく、いつ銃で撃たれたのかもわからなかった。しかし川手は倒れることはない。


「瀬木ちゃん! 己片には『シールド』かけたから大丈夫!」


 うちのクラブをなめてもらっては困る。確かに戦闘には秀でてないが、人間の気配には人一倍敏感なのだ。


「おらよっ!」


 ライトがあえて戦闘タイプではないルネに蹴りを入れる。


「うわっ?! ……っと」


 そのまま壁に突っ込むかと思いきや、途中で止まって地面にふわりと飛び下りた。


「ふぅ……迷ったけど重力制御装置持ってきといてよかった」

「くそっ!」


 私は剣で東雲を突こうとする。それは懐から取り出された短剣によって防がれた。


「……聞きたいことがあんねんけど。何でアエリデキューブが偽物なんて言うん?」

「なぜって……偽物だからに決まってるだろう」

「本物は、どこに?」

「わからないから探しているんだ」

「目的は?」

「……お前ルネ並みに鬱陶しいな」

「だって敵やし」


 この会話までにすでに刃が音をたてること数十回。集中力が切れる前にそろそろ片をつけたいが……。


「……お前は魔法がどういう風に生まれたか知っているか」

「は?」

「そもそもお前らはどういう風にして人間が魔法を使えるようになったのかも知らないのだろう」


 そりゃ知るはずがないだろう。なんせある日突然使えるようになったとしか聞いたことがないのだから。


「『すべての命は輪廻で再生され、破壊される。魔法もまた、輪廻の産物なのだ』」

「……は?」


 一瞬だが隙を生ませてしまった。その間に東雲はルネの方に動く。


「ルネ、展開しろ!」

「りょー、かいっ!」


 ルネがポケットから何かを取り出したと思ったら、天井に陣が浮かび上がる。


「あっ、待て!」

「……また会うことになるだろう」


 そう言って、3人は消えた。



『と、言うことでアエリデキューブの盗難は阻止しましたが黒フードの男3人の捕縛に失敗。これから『正義』を主導に追跡し――』


 テレビには昨日あの後瀬木ちゃんが行った緊急記者会見の光景が映し出されている。


「それにしても上手く誤魔化せたなぁ」

「何とかな……」

「てか、これ俺主導なん?」

「表面上は、だ。もちろん4人で探す。できれば――闇の方とも連絡を取り合いたいな」


 アエリデキューブが偽物だということはもちろん言っていない。だが本物はどこにあるのかわからない。だからできるだけ情報網を広げたかった。


「そっ、そのことなんやけど!」


 そう言って桜が見せてきたのは懐かしいスライド式のガラケーだった。


「これ、どうしたん?」

「それルネが落としていったケータイ。ようわからへんから小阪に預けた」

「中見てみたらね……」


 小阪がアドレス帳を開くと夥しい数のアドレスがあった。ライトが『気持ち悪……』と呟くのも納得できた。自分たちの名前を見つけた時は警備部の科学班の予算を増やさなければならないと思ったほどだ。


「……で、こんな風に色んな人のがあんねんけど。グループに『闇ハンド』っていうのがあって……ほら!」


 『闇ハンド』にグループ分けされたそこには確かにあの4人の名前があった。


「世界が別れた時に色々あったけど、通信電波は変わってへん。だから……!」

「芹たちと連絡がとれるって訳ね」

「凄いな……ありがとう桜」

「どういたしまして。……絶対本物見つけようね!」

「もちろん!」


 だって私たちはハンドなのだから。



「――あ~、やっばあの武道家君に蹴られた時ケータイ落としたわ」

「それ大丈夫なのか?」


 銃を磨きながら怪訝な視線を寄越すシークに僕は笑って答える。


「大丈夫大丈夫! 入ってんのアドレスくらいだしバックアップはあるよ」

「……まあ、お前がそれでいいならいいが」


 そう言うなりシークは視線を銃に戻す。東雲はお偉いさんに報告に行ってるから不在だ。


「……う~ん。早く闇の方に行きたいなぁ」

「お前はすぐ闇に行きたがるが……何か理由でもあるのか?」

「だって闇の人の方がガツガツしてて面白いし……それに」


 僕は大画面のディスプレイにある大量の映像の内、2つをズームアップされる。1つには制服をきっちり着た気弱そうな少年が映し出される。もう1つには黒髪ツインテールの少女が新曲発表のPRの握手会をしている。


「案外どっちもおんなじ場所にあると思うんだよね~……」


 でもって、コイツらは何か隠してそうな気がするんだよね~……。1人は闇の人じゃないけどさ。


〈続〉



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