癖のモノは癖へ、フェチのモノはフェチへ
癖とフェチをテーマにした短編SFです。
軽いノリの会話劇から始まり、最後は静かに落ちます。
メカ描写が少し多めですが、難しい話ではありません。
主題に沿って、私の癖とフェチも盛り込んでみました。
気楽に読んでいただければ。
癖とフェチ。それはルール。超個人的な美意識への完全なる縛り。
がんじがらめのままに殉じていくにも、ある時に目覚め逸脱の歩に臨むにも、大きなエネルギーを必要とする。
それは精神世界に限ったことではない。現実資源としても、だ。
深刻なエネルギー資源の枯渇を理由に、政府は癖とフェチ、これらの統合と標準化に舵を切った。
紛糾する国会、議事堂の周辺では毎日の様にデモが行われた。
ある日、複数のデモ参加グループのちょっとした言い合いが暴動に発展、使用こそされなかったが、火炎瓶や手製の爆発物などの用意もあったことで、世論は一気に政府側へ傾いていった。
なお、言い合いを起こしたデモ参加者が誰かは不明で、内閣調査室のメンバーではないか、などといったデマも流れた。
そのデマは数日のうちに鎮静化、もう誰の口の端にも上らなくなっている。
国会は統合と標準化を決定、今後も同様の事態が起こることを警戒して、政府は公安に取締りのための新たな専任部署を設けた。
統合化と標準化の為された癖とフェチ、それに反するものは『虚嗜好』と命名された。
虚嗜好の根絶に際しては、あらゆる手段を講じ、すべては肯定された。
かつての統一者の行い、そしてとあるバイクのハンドルに対してかつて行われた取締りになぞらえ、『刀狩り』などと呼ばれた。
狩っていった、刀身(男)と鞘(女)のどちらも分け隔てなく。
刀狩りを行う部隊の1単位は、『指揮者』と呼ばれる人間1人と、8機のAI搭載型武装ロボット『平蜘蛛』から構成される。
政府は虚嗜好を甘く見てはいない。指揮者同士の間に流れる、極微量の虚嗜好の違い、それを発端とする裏切り、同士討ちを避けるため、人間は必ず部隊の1単位に1人とし、戦闘用のロボットを随行させた。
中華鍋を逆さに伏せた様な本体に、左右対称の関節脚が8本。前方2本は5指のマニピュレータ。他の6本は移動用の脚だ。故に、平蜘蛛。
瓦礫の地はおろか、ワイヤーアンカーを併用すれば、ビルの壁面での行動も造作ない。
昔、コミックで見た、収斂進化と言ってもいいだろう形。
ちなみに、マニピュレータに武器は握らせない。あれほど脆弱で不安定なシロモノに武器などの重量物を握らせなどしたら、まさに火を見るより明らかなどと言わざるを得ない。
ボディ色は都市迷彩。レーダー波を吸収する塗装だ。黒色はヒトの目には目立つ。
光学迷彩も搭載してはいるが、燃費と処理速度への影響がバカにならないため、使用することは殆どない。
装甲も”受ける”のではなく”弾く”ためにアングルを付けて装着されている。
武装は自律可動するミニガン1門とグレネードガンが4門。榴弾、擲弾、ガス弾、ネット弾を発射する。
これが決戦装備となると、レールガンとミサイルポッドが追加される。
重装備となるための増槽、そして重量軽減とバランス保持のためにリニアフロートが取付けられる。
この決戦装備は、パレードでしか見たことはない。
背面にはバイク様のシートを装備し、指揮者を乗せての高速移動が可能となる。
乗機中、指揮者は電磁シールドにより護られる。その強度は50口径のライフル弾に耐える程である。
視界確保を優先しての装備だが、ノイズは生じ燃費は嵩む。
が、命には代えられない。
独自の通信プロトコルを使用することで、ネットからは完全に隔離、群れとして連携して、時には奪ってしまう。人生を。
日々苛烈さを増していく取締まりに、虚嗜好サイドの多くは去っていった。
それでも、心残る者達は地下に潜り”啓蒙”と称して解放活動を展開していった。反政府、レジスタンス、そう呼ばれていった。
そうして、彼らはついに公安に追い詰められてしまう。
かつて利用されていた共同溝、その比較的広い空間で対峙している。
向こうは3人、シルエットから武装ありと認識。
ここで注意するのは跳弾だ。
「屈しろ、悪い様にはしない。公安だ」
わざわざ身分証明は見せない。見ればわかる。
「何が『くっ殺』だ、お前らは全然わかっちゃいない」
3人の中央、他の2人よりやや前寄りに立つ、この男がリーダーの様だ。
「年貢の納め時だ、大人しくお縄についてもらおうか。
…くっ? お前、何を言っている?」
「ふっ、『天狗のお面』に『縄』だとさ。
この安易すぎるSM展開、御郷が知れるぜ、高慢さんよ」
「公安だ」
「おーおー、いいご身分だよねえ、公務員。
どうせ結婚してんだろ、ええっ?
嫁さんはどうだ、×××か。あはははっ」
「ああ、×××だ。しかも〇〇〇で◇◇◇だ」
「〇〇〇で◇◇◇だと?
信じられねえ、そんな馬鹿な。
◆◆◆じゃねえのか」
「◆◆◆ではない。△△△ではあるが、な。
そういうケースもあると、知っていた方がいい」
「マジかっ。あり得ねえっ。
それじゃお前も■■■で●●●じゃねえかっ」
「お前も■■■なのか、それならどうして…」
気付いた。これは時間稼ぎだ、と。会話を断ち切る。
「そんなことはどうでもいい。これで互いを繋ぎ合え。
8機のミニガンからは逃れられん」
3個の手錠をよく見せつけた後、連中の足元に投げる。
観念したか、右端の--よく見れば--女が拾い上げる。
右手から急にエンジン音が響く。
装甲付きのトラック、レジスタンスだ。仲間か。
スニークモード--電動で移動、発生する走行音には逆位相の音を当てて消す--に違いない。
あの装甲形状は気流制御もしている様だ。平蜘蛛が気付かないとは。
連中、どこからそんな資金を…。
トラックが3人を覆い隠す。平蜘蛛には待機させる。
跳弾を恐れた。場所が悪い。
ここは立ち去らせるのが無難だ。妥当な判断であることは、平蜘蛛達--記録と搭載されたAI--が証明するだろう。
こちらが撃たないと判断したのだろう、リーダーがトラックの前に姿を見せる。
「いいことを教えてやる。さっきの問いかけ、その回答かもな。
俺は、そう、俺はヒトがヒトらしく生きる。そのためにここに居る。
癖もフェチも、ましてや虚嗜好なんて関係ねえ。
いいか、ヒトってのは■▼■が◇〇◇で、そして●△●なんだっ!!」
トラックの運転手からリーダーに声がかかる。
乗り込む。こちらを見るリーダー。左手を軽く上げて言った。
「楽しかった、また語らおうぜ」
トラックを見送る。任務完了。不思議と気分は悪くない。
平蜘蛛の1機に跨る。全機にセイフティをかけさせる。撤収、撤退。
彼らを立ち去らせたことには何のお咎めもなかった。
あれから3日が経過した。久しぶりの休日を過ごしている。
連中の消息は杳として知れない。
そういえばあいつ、リーダーが言ってたな。
『くっ殺』とか。何だ?
政府指定のブラウザ、「ゴーグル先生」で検索をする。
何も出て来ない。
更に続けて検索する。『■▼■』、『◇〇◇』、『●△●』。
ネットに接続できていない?
切れている。切られた?
そういえば、キッチンにいるはずの妻と子供の声も…。
何かおかしい。部屋のドアがノックされた。
こうして俺は地下に潜った。妻と子供の行方はまだ掴めていない。
読んでいただき、ありがとうございました。
癖とフェチが“標準化”される世界で、
主人公が何を失い、どこへ向かうのかを書きました。
本編では触れていない部分も多く、
必要であれば続きに繋げられる構造にしてあります。
今回はここまで。
またどこかで。




