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009 ▲ 異変の兆し②

 私の予想通り、今日も如月さんは平然と結界を身に纏って生活をしていた。

 どうしても如月さんが目に入ってしまう香穂里の怒りのボルテージが日々上がっていく。

 挙句、2人の仲睦まじい様子は、香穂里にとっては凄く羨ましいことなのだろう。滅多に席を立つことが無い香穂里が、最近では私の席までお弁当を持って来ている。(もっとも、この時間だけは遠音も私の席にやってくるためか、香穂里の機嫌も治ってくれるのだが。)


「悔しい …… うー!」

「うー!って言われても、デショ ……」


 内心では、香穂里がこのまま遠音から気持ちを離してくれることを望んでいる。その思いを私に向けてくれたら嬉しいが、まぁそういうことは無い気がする。


「そう言えば、今日のホームルームでの修学旅行の班分けは、ボクは香穂里とペアってことで良いのデショ?」

「うん! というか紗穂里以外に考えられないし!」


 そこは素直に私なんだ、なんて思えば凄く嬉しい。

 しかし、それでも香穂里は遠音を見つめていた。本当は遠音と組みたいらしい。



 あっという間にホームルームの時間はやって来る。


 案の定、遠音と如月さんはペアを組んでいた。ジャンケンの代表は遠音 …… だが、遠音は凄くジャンケンに弱いことを知っている。

 予想通り、1~2日目の班決めでは一勝もできなかった。残った組はペアを解体して他の班にいくことになる。


「如月さん!」


 そんな如月さんに声をかけたのは、宮本さんではなく円だった。瞳が凄く嫌な表情をしていたので少しだけ嫌な予感がしたものの、円は屈託の無い笑顔で如月さんを誘っていた。


「宜しければ、私達の班に入りません?」


 一瞬、如月さんは宮本さんを見たが、宮本さんは気付いていないようだった。

 しばらく首を傾げていたものの、小さく頷いて円の方へと寄って行く。


 そんな光景を眺めていれば、隣に居た香穂里が遠音に手を振っていた。遠音が凄く嫌そうな顔をして香穂里を睨んでいる。


「おいで、おいで!」

「・・・」


 香穂里の手の振り方は、まるでペットを呼ぶ主人のようだった。あまりにおかしくてクラスメイトの何人かが吹き出している。とかいう私もその1人。


「やだ、ちょっと、香穂里ぃ~」


 ケラケラと笑いながら私は香穂里を叩いた。香穂里が不思議そうに私を見つめる。


「ん?」

「それじゃぁ、遠音が犬みたいデショ!」

「…… あぁっ?!」


 私に言われて気付いたらしく、今度は立ち上がってジャンプしていた。

 遠音がそれで溜め息をついている。


「オレはアンタのトコしか選択肢ないわけ?」

「うん!」


 香穂里は嬉しそうに頷いていた。遠音は更に深く溜め息をつきながらも、ゆっくりとこちらに向かって来る。

 ペアを組んだ相手と話をしていた宮本さんは、全員が無事に分かれたあたりで、やっと如月さんが円の班に入ったことに気付いたようだった。その時は驚いて目を丸くしたものの、すぐに全体を見回している。場慣れしている子だなぁ。


 ホームルームが終わり、私は普段通りに帰り支度をしつつ、図書館に返す本をまとめていた。

 そこに、珍しく遠音がやって来る。遠音が私のところに来たのを見て、香穂里が慌てた様子で私のところに向かおうとしている。しかし、散らばった荷物をまとめるのに苦戦している様が目の端で見てとれた。


「明日、久々に部の報告会をしようと思うんだが ……」


 なるほど、などと納得しながら私は顔を上げる。遠音は少し顔を赤らめていた。


「ほ、ほら! オレ、戻って来たこと、まだ知らない2年とか居るだろ? 戻ってきましたって報告、した方が良いかな …… なんて」

「うんうん。じゃぁ、活動場所の確保はボクに任せて。今日、この本を返す前に、一度職員室に寄らなきゃいけないし」


 笑顔で答えてあげれば、遠音はテレながらも笑顔を返してくれていた。

 まぁ、ついでというのは嘘で、遠音が行ったら先生達に労いの言葉をかけられるのではないかと思ったからだが。

 そんな時に香穂里が小走りでやって来る。


「ながせーっ!!」


 そしてそのままの勢いで鞄を持ったまま全身で愛を伝えようと両手を広げていた。

 が、その鞄に当たった人が居た。その人は顔に手を当ててよろけている。


「大丈夫か!?」


 その人は如月さんだった。遠音が驚きすぎて如月さんを見つめる中、テンパってしまった香穂里が、


「おうのーう?!」


 と何故か英語で叫びながらも振り返っている。

 そういう私も、少しだけ頭の中はテンパってしまっている。


「お、おう……」


 そう言いつつも、私は如月さんと同じくらいにしゃがみ込む。


「大丈夫デショ?」

「う、うん ……。まさか鞄が飛んで来ると思わなくて、驚いただけ ……」

「いやいや、今の完全に当たっていたデショ?!」


 思わずツッコミを入れていたが、そのあたりで香穂里がやっと我に返ったらしい。


「ごめん! まさか後ろに人が居るとは思わなくて!」

「いやいやいや! そこは確認しようよっ?!」


 とツッコミを入れてから、私は思い切り溜め息をついていた。


 最終的に、3~4日目の班は幸か不幸か、遠音と如月さんと同じ班になった。4日間ずっと香穂里と一緒になった遠音は頭を抱えていたが、それを慰めていたのは如月さんだった。

 しかしむしろ、如月さんの方が、1~2日目の円と、3~4日目の香穂里に気をつけて欲しいとどこかで願ってしまう。

 もっとも今の溜め息は、単純にツッコミ係が私しかいないせいかもしれない。回想してしまうなんて、私も相当にテンパっているな、これは。


 やっと顔を上げてくれた如月さんだったが、しかし、鼻が真っ赤に染まってしまっていた。鼻血が出なくて良かったと思いつつ、私は持っていたハンカチを出そうと立ち上がり、鞄を漁る。

 が、それよりも早くに出したのは、驚くことに香穂里だった。


「さっきお手洗い行ったから、少しは冷たいと思う …… から、使って!」

「ええっ?! このくらい、大丈夫 ……」

「じゃないから言ってるの! もー」


 そう言いながら香穂里は如月さんの鼻に、その冷たいだろうと思われる箇所を当てていた。

 されたことがないのか、如月さんは少し恥ずかしそうに耳を赤らめている。


「…… 何だろ。心配していたけど、心配損だったデショ」


 私の呟きに、遠音は同意したのか小さく頷き返してくれていた気がする。


「ところで如月さんは、どうしてこっちに来たのデショ?」

「んー」


 そう答えて、如月さんは首を傾げていた。


「今から、旧校舎の除霊を、しに行こうかな?と思って?」

「「除霊?!」」


 これには私も香穂里も、ほぼ同時に驚いて声を合わせてしまっていた。

 如月さんは逆にその声に驚いたらしく、目を大きくさせて私達を見つめている。


「何でそんなに驚いているの?」

「いやいや! そういうのって、普通はこっそりやるモンじゃないの?!」

「ちょ …… 香穂里、そこじゃないデショ?!」


 思わず香穂里のツッコミにツッコミで返してしまっていた。とはいえ、私も興奮したまま如月さんに問い詰める。


「いくら前の学校が超能力者しか居ない学校だったとはいえ、普通は能力を隠しているものデショ!? それに、如月さんは除霊師か何かなのデショ??」

「んー、普通の巫女だけど、除霊は出来るわよ?」


 如月さんの不思議そうな答えに私は思わず脱力してしまっていた。これには、流石に香穂里もツッコミを入れられずにワナワナと唇を動かしている。

 ふと遠音を見たが、遠音は既にツッコミを諦めているようだった。私達に同情するような冷やかな目線を送っていたかと思えば、平然と如月さんを見つめている。


「この間の今日で、また行くのか?」

「この間は1階に入っただけで終わっちゃったでしょ?」

「何も居なかっただろ?」


「遠音はホラー系、キライだもんね~?」

「うんうん、もうあんなところ …… ハッ?!」


 私が口を挟んだら、遠音は慌てた様子で口元を押さえていた。

 が、もう遅い。


「よーし! 怖がる永瀬を見に行こう♪」


 とニヤニヤした香穂里が元気良く答えていたのだった。




 4人揃って旧校舎に入る。

 本当は立ち入り禁止なのだが、驚くことに如月さんは理事長に許可を貰っていたらしい。しかも "友達付き" と記していた為か、遠音だけとは言わずに何人でも連れて来ることは出来たらしい。

 もっとも "理事長" という単語を聞いて香穂里がピクッと眉を動かしたものの、遠音のナイスフォローで機嫌を治している。


 1階は何も無かった。それもそのはずで、旧校舎は過去に個別指導や実験室、部室などとして利用されていただけという話を聞いたことがある。過去に大火事が起きたのは4階で、木造だったために上への火の広がりは早かったらしいが、1階と2階は被害が少なかったらしい。


 2階へ上がる途中で、香穂里はブルッと身震いをさせていた。そしてそっと遠音に寄り添う。遠音は一瞬だけ驚いた表情をしたものの、すぐに香穂里の真っ青な顔を見て察したらしく、そのまま香穂里に寄り添われてあげていた。

 一方、如月さんは平然と私達の前を歩き、どんどん先に進んでゆく。


『なぁ、』


 急に遠音がそう言ったので、私達は揃って立ち止まり、後ろに居た遠音を振り返っていた。

 が、遠音が逆に驚いている。


「え? 何?」

『なぁ、どこ行くんだよ?』

「えっ」


 遠音は自分の声に驚いて口元を抑えている。

 それを見た如月さんが目をキリッとさせた。


「出たわね、幽霊が」

『幽霊なんて酷いなぁ』


 それはどう考えても遠音から吐き出されていた。

 が、遠音は必死に頭を横に振っている。


 香穂里は既に私の腕を掴んで遠音から距離を置いていた。なんだかんだ言って香穂里が一番怖がっているように思える。


『やっと本人が来てくれたんだから、少しは遊ばせてよ!』


 そう言って、遠音は信じられない速さで階段を下に降りて行ってしまった。それを如月さんが追ってゆく。


「人の体を乗っ取るなんて! どんだけ悪霊を食ったのか知らないけど、遠音の体から出て来なさいよ!!」

「え、あれ、待って?!」


 香穂里は驚きつつも、如月さんの後を追おうとしていた。なので私も追い駆けるが、2人は早くも姿が見えなくなってしまっていた。

 が、先程までの恐怖心はどこへやら。一緒に居た香穂里が勘でソッチだと私に指して待ってくれている。


「永瀬に憑いた悪霊は、恐らく普通の悪霊じゃ無い …… 多分、悪鬼」


 香穂里は私に話しながら先頭を走っていた。恐怖していた割に冷静に考えを巡らしていたようで。


「悪霊を沢山食べて進化した存在。私、何度かそんな悪鬼に襲われたことがあるから …… 何となくだけど、気配で方向は解る気がする!」


 そう説明する内に、廊下の最奥の1つの教室に辿り着いていた。

 そこは教室なのに、何故か外へ繋がる出入口の扉が反対側の壁に付けられているという、校内七不思議の内の1ヶ所。もっとも、昔の避難出口になっていたのだから不思議でも何でもないのだが、それでも一部の生徒からは恐怖されている。

 その扉の前に遠音が、向かい合って如月さんが立っていた。


『う、うがが、う、が……』

「なんだかなー」


 如月さんは頭を掻きながらもそう答えて、どこからか出していた1枚の札を構えている。


「遠音も遠音だよね。彼女の嘘を見抜けずに、同情して守ってあげようなんて思っちゃって。彼女の嘘は、遠音にだけは解って欲しくて何度も彼女なりにヒントを与えていたのに」

「彼女の嘘? それはどういうこと?」


 香穂里は目を丸くさせて如月さんに訊ねていた。如月さんは私達を振り返らずに答える。


「岸間さんは ”彼女" と同じ小学校で面識があったのよね?」

「えっ?!」


 私は驚いて香穂里を見ていた。"彼女" と言えば、本名を "鈴木 花子" という薄気味悪い存在しか思い当たらない。

 が、如月さんの言っていた、その事実は知らない。しかし、香穂里は渋い表情をして小さく頷いている。


「だから彼女の本性を知っていた。

 でも、遠音は知らなかったのよ。彼女は遠音に合わせて根暗でオタクでアニメ好きのゲーマーを気取っていたから、彼女が実際には普通の家庭の普通の女の子だということを知らなかったの」


「…… 私、遠音には前に忠告したわよ? でも遠音が聞く耳を持たなかった。だから、てっきり遠音が彼女と同じ(本性)なのだとばかり ……」

「ちょ …… 話しが見えないデショ?!」


 私の言葉に如月さんは溜め息をついていた。そして右手を前に出したかと思えば、遠音の周囲に結界を張っている。

 驚いた遠音はもはや何語か解らない言葉で発狂していたが、結界は相当強いモノらしく、いくら遠音が暴れても叩いても、全く微動だにしなかった。

 如月さんが私を哀れな目で振り返る。


「岸間さんは、遠音がウソツキだったら更生してやろうと思って気にかけていた。遠音が頑張って部長をやろうとしているのを本谷さんから聞いて、それならウソツキも克服できるだろう、とどこかで思った。だから余計に気にしていたのでしょう?

 でも、実際には遠音は彼女に騙されていただけなのよ。彼女は遠音を鏡のように真似ることで、遠音に近づこうとした。…… ううん。むしろ、遠音に成ろうとしていた、という表現が正しいのかもしれない。だって、彼女には遠音と同じで友達が1人しか居なかったのだから」


 言われてみて、私は何かに気付く。

 彼女は教室の一角で、遠音の両親の育児放棄の噂を聞いて、それが両親からの暴力なのだと思った。彼女は遠音が根暗でオタクで我儘そうと聞いて、そういう人間に成ろうとした。つまりは、遠音に対しての噂から勝手に遠音を想像し、その想像通りの遠音に成りきることで、先生が選んでくれた友達である遠音に近づこうとした。……要約するとこういうことらしい。

 しかし、思えば私達の想像上の遠音を演じていたかもしれないとは、一番近くで見ていた私だからこそ理解も出来た。だから "気持ち悪い" と感じた。


「ある日を境に言いふらしていた内容 ―― 彼女が両親から暴力を受けていたことは、現実では、事実では無かった。

 だって、普通は両親から暴力を受けた場合、子供は下手に抵抗出来ないから、殴り合いよりも酷い傷が体に痣となって残るものよ? それが付いていなかったとしても精神的にダメージが大きかった場合、相談された施設の人間は仕事だから彼女を匿う。そして彼女を大切にしてくれそうな家庭を探してくれるでしょうね」


 彼女は嘘を付いて両親から離れた。その結果、他の家に引き取られたことで、彼女は我儘を聞いてもらえるようになった。だから余計に我儘を言えば何でも通ると勘違いした。


「でもね。嘘を付き続けるのって、凄く大変なのよ。だから本当は、遠音には自分の嘘に気付いて欲しかったのでしょう?」


 如月さんはそう言って遠音を見た。

 遠音が狂暴化しているが、結界はびくともしない。


「遠音が学校に来なくなって、自分に嘘を付き続ける理由が無くなった。本当はファッションにも興味があったから、凄く綺麗な格好で通えるようになって、正直すっきりしたって思っていた。この気持ちを共感したくて遠音にずっとアタックしていたけど、返事は無かった。凄く、悔しかったのよね?」


 すると、途端に遠音が大人しくなった。何故かじぃっと如月さんを見つめている。


「ずっと、遠音に共感して欲しかった。この気持ちを解って欲しかった。嘘を付いている自分を認めて欲しかった。更生させて欲しかった」

『な、んで、』


 不意に遠音から言葉が漏れてきた。


『何で、解るの?』

「んー、私も貴方と同じ本性だったから?」


 如月さんの言葉は過去形だった。つまりは、過去に彼女と同じように嘘を付いていたことがある、ということだろうか。


「でもね。私は、絶対に他人を傷つける嘘は付かなかったわ」

『嘘は、傷付く?』

「うん。でもね。貴方のしてきたことは、結果的にクラスメイト全員の心を蝕んでしまったの。特に遠音は、本当はあんな根暗では無かったのに本当の根暗になってしまった」


「それは違うわね。永瀬は最初から ……」

「貴方が嘘を付かなければ、噂を鵜呑みにしなければ、遠音は今頃、貴方を受け入れて仲良くやっていたと思うわ。だって、遠音にも女の子らしい趣味はあったのだから」


 と言って、如月さんは自分のポケットから1つのネックレスを取り出していた。それを見た遠音が目を丸くさせる。私はそれを見たことがあった。

 香穂里だけが頭を傾げる。


「それ、確か入学式の初日に、誰かが学年の皆の前で美川先生に取り上げられていたモノデショ!」

「うん。私も知らなかったけど、遠音にもネックレスや指輪を集める趣味はあったみたい。美川先生はこれを知って、似たような趣味をしているからってことで遠音に世話を頼んだってことよ」


 すると、遠音が目に涙を浮かべているのが解った。如月さんは徐々に結界を薄くしている。


『あたし、トーネ、傷つけてた?』

「遠音も、許してあげられるわよね?」

「……あぁ」


 急に遠音が口を開いて声を発したものだから、私は驚いて目を丸くしてしまっていた。


「え?」

「乗っ取りの力が弱まったのよ。今なら遠音でも彼女を成仏してあげられると思う」


 私に説明をしてくれた如月さんは、手にしていた札を遠音に渡していた。

 遠音は、まるでその使い方を解っていたかのように自分の胸の前に札を立てる。


「メール見なくて、すまなかった」


 遠音が目を閉じれば、遠音の頭上から黒い煙のようなモノが上空に消えて行くのが見えた。煙の後半は少しだけ金色を放っている。

 何となく、成仏できたのだと思った。


「…… でも、ウソツキは地獄行きよ」


 如月さんはそう言ってから、遠音に近付いて行く。

 と、遠音が急に膝を曲げ、床に崩れ落ちるのが見えた。それを如月さんが華麗にキャッチしている。


「お疲れ様」

「…… えっと …… 結局、今のって、永瀬が除霊したってこと?」


 香穂里が冷静に如月さんに訊ねていた。如月さんはニッコリと笑っている。


「うん。まぁ、訳あって遠音も巫女の力を持っていたことは知っていたし、遠音自身が彼女を許してあげたことで、彼女が今まで遠音に課してしまっていた束縛を解くことが出来たから、彼女に未練が無くなって成仏しやすくなったのだけど」

「でも、私が良く彼女と同じ小学校だったって …… いや、そもそも、どうして彼女のことを?」


「”美島の超人"」


 私は如月さんを見ながらそう言った。

 如月さんは嬉しそうにふっと笑い、香穂里が不思議そうに私を振り返る。


 数日前からずっと、この単語が引っかかっていた。だからインターネットで検索をかけたところ、やはり噂では、統廃合して無くなった学校に居たのではないかと囁かれていた。更に調べると、同級生らしいことも書かれてあった。しかも、長い髪が特徴の女の子らしい。しかし、如月さん以外の編入生に(水神を名乗る宮本さんを除いて)私ほど長い髪の人は居なかったし、ましてや先日の金色の目は明らかに神様であることを証明していた。

 ―― "美島の超人" の別名は "音神" 。


「超絶占い師がどうかしたの?」

「だから、如月さんのことデショ」

「え?」


 香穂里は如月さんを再度、振り返った。如月さんが口元に笑みを浮かべている。


「え? まさか ……」

「まぁ、そういう呼ばれ方もされるかな?」


 如月さんはそう言いながら、軽々と重そうな遠音を背負っている。


「お、おう」


 流石に香穂里もこれには驚いていたらしい。


「永瀬は、その …… 重くない?」

「重いというよりは、嵩張る?」

「ちょっと納得デショ ……」


 私の呟きに香穂里も頷いていたのだった。

 そして思わず、私達は揃って笑ってしまっていた。


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