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006 ⛩ 4月の編入生⑥

 帰路で結局、先生にバレないようにと1駅先の小さな駅前の喫茶店で、私はグループの一部と巨大パフェ2つを食べていた。

 話す内容はもちろん、今時のファッションやスイーツの話題。特に、"ふぇありーぷちゅプッチ" という2人組のファッションがコスプレっぽいとか、渋谷の駅前の "パブリック ホーム" というお店が本物の駅っぽくて凄いとか、普通の女子中学生らしい話題が多かった。


「円が居たら、もっと話題があったんだけどなぁ」


 誰かが笑顔のままそう言っていた。

 が、他の4人は少し驚いた表情をした後で、すぐに嫌な顔をしていた。中でも特に酷い顔をしていた1人が答える。


「え? 円なんて居なくていいじゃん ……」

「いやぁまぁ、そうだけどさ」

「今日だって、紫さんがテレパシーで話しをしていたんでしょ? あれ使われちゃうと、私達、能力者じゃないから解らないもん」


 そう言っていたのは、その隣に座っていた子だった。違う子が頷いているあたり、どうやら2人は超能力者ではないか、テレパシーを知らない能力者らしい。


「それにさ、円が居たら、絶対にこういう楽しい話題にならないじゃん? あのファッションは酷いだの、あの声がヤバイだの …… 何かこう、好きなモノを否定されているような感じがして」

「まぁねー ……」


 最終的に、笑顔で円の名前を出した子までもが暗い表情をしてしまっていた。


「1年の時より、円、変わったよね」

「あ、うん。それ、良く解るー」

「うんうん。何か、否定的になったよね」

「それで自分が嫌だと思った相手はとことん虐め通すようになったよね」

「ってかさ、あの子が3月に自殺したのって、ほとんど円の所為じゃん? 良く平気で円が学校に来れたよねー」

「それを言ったら永瀬さんでしょ? まぁ良く同じクラスになった円と岸間さん相手に普通で居られるよねぇ。私なら耐えられないよ~」

「「「確かにー!」」」


 なんて会話を目の前で繰り広げられていた。私は会話に付いて行けずにおろおろとしてしまう。

 生徒が自殺、なんて話しは祖父から一切、聞かされていない。ましてや、少し注意していた円や香穂里の名前が上げられたことにも驚きを隠せなかった。それに、咲九と同じ委員会になった永瀬とかいう子も関係しているらしい。


「あ、あのさっ」


 私は思わず、話題で盛り上がる5人にストップをかけていた。

 すると、このことに気付いたらしい1人があぁ、と更に暗い表情を私に向けていた。


「そういえば、千尋は編入生だから解らないよね?」

「う、うん。ごめんね?」

「謝る必要はないけど。…… そういえば、そうだったっけ」


 どうやら他の4人も皆、一様に私が編入生だということを忘れていたらしい。暗い表情が少しだけ明るくなったような気がした。と、違う1人が周囲を見回し、私達の他にお客さんが居ないことを確かめてから口にする。


「話すなら、今だね!」

「よし!」

「うーん、どこから話すぅ?」

「1年の時からじゃん?」

「マジかー! 長くなりそうだなー」


 と口々に話しをしていたものの、その5人の表情は少し明るくなったように私には思えた。



「去年まで鈴木 花子(すずきはなこ)っていう女が居てさ。1年の時から永瀬さんの隣の席で固定だったんだよ。

 その女、入学式からすごい悪臭で。風呂入ってんの? どうしたらホームレスと香水の臭いが混ざるの? って感じの女で。

 ま、当然だーれも話しかけなかったんだけど」


「永瀬さん、授業中はあの悪臭を鼻栓して耐えていたみたい」

「え、そうだったんだ?」

「みたいだよ。円が言ってた」


「でも、この学校、ちょっとおかしくてさ。入学早々に課外授業という名称の春合宿があって。古い建物を掃除して制服のままプールに飛び込んで庭でキャンプファイヤーするっていう内容なんだけど。

 そこで円と瞳がその2人と同じ班になっちゃったわけ」


「アンタは他の班だったんだっけ?」

「うん、そう。あ、ちなみに私以外は他のクラスだったんだけど」

「でも入学式の時ってクラス分け発表されていなかったじゃん? あの時、近くに居たから異常だと思ったよね」

「それにあの子、色んな意味で有名だったし……」


「話を戻すと、あの女、集団行動どころか班行動も出来ない奴で。プールの時はふらっと消えたし、風呂の時間になっても来ないし。どこに行ったのか探したら部屋に戻っていて。部屋の鍵は円が管理していたのに、窓の鍵を開けておいてそこから戻って寝ていたっていうハチャメチャな奴で。

 で、円と瞳のことは無視するくせに、先生や永瀬さんの話はしっかり聞き取っていた。だから先生がリーダーだった円にあの女の面倒を押し付けたんだけど、永瀬さん、はっきり言えない性格だから、結果的に評価を下げられたっていう」


「でも、永瀬さんも誰かに言われて、仕方なく面倒を見てあげていたんでしょ?」

「らしいけどね。永瀬さん、はっきり言わないから」

「誰に言われたのか、永瀬さん、最後まで言わなかったし」


「でもあれ、円も悪くない? アンタの部屋の4人と、就寝後に怪談しようとして密告されたんでしょ?」

「まーねー。こっちはプールも適当にやっていたから、評価下がっても気にしなかったけど。

 あぁ、でも確か、あの女が『永瀬さんも知っていた』って言ったから瞳がキレちゃったんだよね。それからあの女へのイジメが始まったんだっけ」


「今2組に居る 和田 凪さん だっけ? 仲介に入ってくれたの」

「それは永瀬さんと仲良くして、あの女を遠ざけようとしたって方ね。結果的に巻き込まれていたし」

「凪ちゃん、凄く良い子だよ! 2年生に上がってすぐ、3組に居たのに1組の永瀬さんのこと、心配して美川先生に問い質しに行ったし!!」

「それが脅迫と判断されて1週間の謹慎処分にされてたけどなぁ」


「それでも永瀬さん、言わなかったよね。だから多分、美川先生とかじゃなくって、もっと上の人が永瀬さんに命じたんじゃない? 永瀬さんもかわいそうだよね」

「自分は岸間さんと同じで、逆に永瀬さんに腹が立ったなぁ。ま、1組じゃないから気にしなかったけど」

「え~、「つめた~い」」


「岸間さんの場合は、仲が良い本谷さんが永瀬さんと同じ部活だったからっていうのもあるんじゃない?」

「あぁ、そういえば紫が言ってたね。あの女とのいざこざが面倒で部活辞めたって」

「聞いた話だと、副部長の本谷さんがキレたんでしょ?

 部活最中、ずっとあの子が教室の廊下で待っていたから邪魔だって。あの子のことを怖がって入部を諦めた1年生も居るとか。でも、永瀬さんはあの子に何も言えなかったっぽい」


「あー。だから苛立ちマックスだった人らで徒党を組んで永瀬さんを軽くボコった、と」

「円と岸間さんが主犯格だけど、結構な人数が集まったみたいだね。流石に全員で行くのはかわいそうってことで、他は先生が来ないように見張りに回ってもらったらしいけど」


「で、アレか? あの子がクラスメイトの前で永瀬さんにキスを強請ったっていう件」

「強請るってより、強姦?」

「その流れ、イマイチ理解も想像も出来ないんだけど。何でそうなったの?」

「さぁ? でも永瀬さん、本気であの子を殴って勝手に帰宅して、夏休み挟んだけど、そこから不登校だったから」


「その夏休み後から、…… 変わったよね」

「あの女がねー」

「確か、夏休み中に円の親戚に預けられた、とか言ってなかったっけ? それまで、暴力の酷い家庭に居たらしいじゃん? だから臭ってたらしい、とも」

「うーん、そうだったっけ?

 私が聞いたのは、夏休み中、永瀬さんとずっと2人で遊んでいたって話しかな」

「それは本谷さんが疑っていた方かな。どっちにしても、円が一番苛立ってたよね」

「円があんなに怒るんだって背筋凍らせた」


「でも、当然じゃない? あの女、実の親でもないのにブランド物の新作を強請ってたらしいじゃん。それも何個も。買ってくれないと暴れたとか」

「何それ、酷くない?」


「それでいて、ほいほい他人にプレゼントしてたとか。性格に問題ありすぎだよね」

「あー。だから学校に持ってきてたんだ。ブランド品のハンカチとかアクセとか。猪塚とか、小池あたりに渡してたっけ」

「そうそう。それで猪塚も小池も転売して金儲けして。学校じゃ仮初の友達を演じていたからか円がキレたよね」

「それを美川先生に密告されて、円が謹慎処分だもん。皆怖がって、誰も近づかなくなって」

「それで美川先生の名言ね」


「「『貴方達も謹慎処分になりたいのですか?』」」


「永瀬さんが居た時の方がマシだったよ。おかげで精神的に病んだ子が不登校になって、一部が転組(クラスを変更してもらう)して、出来なかった子は一般の学校に転校して」

「それが何故か他のクラスにも広がって学級崩壊になりかけたな」


「で、円と岸間さんがあの女をボコボコにした。美川先生にチクったら殺すと脅迫して」

「でも確か、本谷さんが美川先生にチクったんじゃなかったっけ?」

「チクったってより、直談判したって聞いたけど」

「美川先生があの子のことを信用していたから、永瀬さんから話を聞いてほしい、と訴えたんじゃなかったっけ?」

「じゃぁ、本谷さんは永瀬さんと連絡とってたってこと?」

「みたいだよ? だけど先生は本人じゃなくて、その父親から事情を聴いたらしいけど」


「あ! 確か永瀬さん、あの子に盗聴器を仕掛けられてたんでしょ?」

「「えっ!?」」

「あぁ、そういえばそう言ってたね、本谷さんが!」

「えー! それ、全っ然〝友達〟じゃなくない?」

「そーそー。流石の先生もショックを受けたみたいで、円と岸間さんの他、あの女にも1ヶ月の謹慎処分にした挙句、教壇で頭下げたからね。先生もあの女も許せないけど」


「でも学校に来たんでしょ? あの子」

「そう。授業は受けたいって」

「意味わかんないんだけど」

「"謹慎" の意味が解らなかったんじゃん?」


「でも教室に鞄置いて、本人は校内うろついてたらしい」

「それを他の先生に発見されて、精神鑑定させられたんじゃなかったっけ?」

「で、入院したんでしょ? 精神病棟に」


「それで自殺?」


 私の疑問に5人は同時に頷いた。

 酷いというか、凄いというか。良くも悪くも現実味が湧かない話で。


「まぁ、どんな理由でも虐めはダメだよね」


 私の結論に他の5人は互いに目を見合わせていた。その1人が口を挟む。


「でも …… 2年の時に1組に居たら、千尋だって流石に彼女の異常さに、精神蝕まれたかもしれないよ?」

「うん、うん。彼女、絶対におかしかったもん。他のクラスだったけど嫌だった」

「だよねー」


 既にパフェは大半を食いつくされている。

 それでも、食べながらの会話は続く。


「というかね? 永瀬さんも永瀬さんだよ。どうして彼女と一緒に居たのか解らない間に不登校になっちゃうしさー」

「ほんと。あれはワケ解らないよね」

「ってかさ、永瀬さんも暗いし、あんま喋んないし。こっちから話しかけようとしても彼女が邪魔しにきたから良く解らないしさ。なのに、彼女のこと止めないし」

「アンタ、嫌われていたんじゃないのー? ほら、見た目怖いしさ」

「いやだー! そういうの止めてっ」


 何て答えながらも本人はどこか嬉しそうではある。

 しかし、美川先生も先生だ。虐めを行った方が悪いとはいえ、理由を聞かずに謹慎処分にさせるとは。これでは、確かに生徒からの評価も下がるはずだ。

 いつの時代でも同じ。生徒は事実を知っていても、先生は事実を知らずに、又は知っていても黙って誤った判断を下してしまう。泣き寝入りするのは生徒だということに、先生は気付かない。こういう大人にはなりたくないな、とは思う。


 しばらくこんな嫌な話題をしていたが、やがて時間になったので、自然と明るい話題になって解散した。家に着く頃には、既に周囲は暗くなってしまっていたが。


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