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005 ▲ 4月の編入生⑤ *

「腹減ったー!」


 そう叫んだのは、目の前に座ってアイスを貪る香穂里だった。

 まだ4月で外は相当涼しいはずなのだが、この ”上体育館” は演劇部の先程までの練習でムシムシしている。香穂里は、体育館の隅にいた私こと紗穂里と共に休憩をとってくれていた。


「いやぁ、まさか大聖堂を先に吹奏楽部に取られているとは思ってもいなかったよ! まぁ、代わりに同じ大きさの舞台が用意出来る上体育館をダンス部に交換してもらえたから良かったけどさぁ」


 香穂里は中2から既に演劇部の副部長だった。ここは中高一貫校なので、本来なら高2の先輩が部長を務めるはずだったのだが、春休み中に足を複雑骨折した所為で舞台に上がれなくなり、自信を失くして部活動の更新最終日までに姿を見せなかったため、自然と香穂里が部長を務めることになっていたらしい。


 そういう私は、このすぐ上の階の図書館で、図書委員の仕事を高1の先輩から引き継いでいた。それは10分ほどで終了して、香穂里が休憩に入るまでの間、図書館に新しく入荷された本を読み漁ってからここに来た。

 もっとも、大半の在庫は既に読破済みで、何度読んでも面白いお気に入りの『妖怪大図鑑』と『超能力者の昔と今』という本を、司書さんに紛れて真新しい鞄の新入生に薦めてみてもいる(誰も興味を持ってくれないのだが)。


 ちなみに、遠音が学校に復帰しなかった場合は、私も漫画研究部の部長の予定ではあった。そうは言っても、活動は月1の報告会のみという少人数のまったりした部活なので、今年の新入生が活発ではない限りは、復活した遠音が部長を務めるだろうとは思う。


 一方で、香穂里の演劇部は全員が本格的。演劇を仕事にしたい人が大半なので、その実力はかなりのものだと思う。まぁ、香穂里は遊び程度に参加しているらしいのだが、そうはいっても器用と美人と義理人情が売りの香穂里なので、何事もそつなくこなしている。


 今日も本来なら大聖堂の利用権を得て練習するはずだったらしいのだが、大会で好成績を残す吹奏楽部に既に取られていたため、仕方なく余っていたここのすぐ下の階の下体育館の利用権を得た。

 が、下体育館では舞台になる大聖堂と同じサイズの仮舞台が用意できないので、上体育館の利用権を持っていたダンス部に交渉して交換してもらったらしい。

 ダンス部は規定に煩く、前に能力者同士の事件が起きたほどなので、本来であれば誰も交渉しようとは思わない。しかし、香穂里は部員のことを想って行ったのだろう。そんな口八丁手八丁の交渉術も香穂里ならではだと思う。


 しかしながら、香穂里は喧嘩っ早いのが玉に傷。特に、香穂里が下手に出て相手にも損が出ないように交渉を持ちかけているのにも関わらず、相手が特別な理由もなく断った場合、理不尽だと感じて香穂里の絶大な炎の魔力で脅迫してしまうことがある。

 その所為か、過去に何度も一般の生徒によって密告されたことがあり、一時は部活動への参加を規制されたこともあった。それによって香穂里の怒りは、生徒よりも先生に向けられてしまっている。


 それに、香穂里は一度嫌った相手をとことん追い詰める傾向にあるらしい。


「紗穂里ぃー」


 回想中に急に声をかけられ、私は驚いて香穂里を見た。


「何デショ?!」


 香穂里は逆に驚いた顔で私を見ている。


「なぁにビビってんの? 私、何かしたっけ……?」

「ボクの回想中に何も言わなかったから驚いたのデショ ……」

「あ、ごめん。だって、久々のコリコリ君、美味しかったからさー」


 なんて言いながら香穂里はアイスの棒を私に渡してきた。良く見れば、アイスがタダでもう1本貰える ”あたり” の文字が入っている。


「おお!」

「紗穂里が交換しに行って、そのまま食べて良いよ。私、練習に戻るから」


 と言って、香穂里は立ち上がってさっさと皆の方へと行ってしまっていた。

 残された私は、しばらく練習する香穂里を見守ることにした。



 しばらくして、新入生がちらほらと部活動を見学しにやって来た。新入生を案内するのは、もちろん香穂里だった。

 今は5月末の親善交流会(9月からやってくる留学生を招いて学園の紹介をする機会)のために、英語で頑張ってやっていることを伝えている。

 それを境にして、私は自分の荷物とアイスの棒を持って、この校舎の地下1階の売店を目指した。



 売店には生徒が屯っていたものの、どれも顔見知りでは無かったので、私は一番奥のおばちゃんに棒を渡し、代わりに香穂里が食べていたモノと同じ、コリコリ君の梨味を受け取った。

 そして早速、その場で開けて食べ始める。

 勉強を行う校舎での食べ歩きは厳禁だったのだが、大食堂や体育館、図書館、温水プールなどが含まれるこの施設棟では、そのフロア毎のルール内であれば食べ歩きを許可されている。

 もっとも、本が汚れるので当然ながら図書館は全面飲食厳禁ではある(しかし夏場の飲料は水とお茶なら見逃しているらしい)。


「うーん、美味しい」


 私はそんな独り事を呟いた。そして、しばらく貪るようにして食べる。



 『超能力者の今と昔』という本の中には、属性神と呼ばれる4つの神が居る、と書かれてあった。そして私は、昔から母親に、宮本神社の巫女が本物の "水神" であることを聞かされていた。

 とはいっても、私の今居る家は至って普通の家系だと思う。香穂里のように魔術師の家系でもなければ、その宮本神社の巫女のように神主の家系でもない。


 だから今日、同じクラスになった編入生の "水神" を見た時に、もしかしたら香穂里も ”炎神” なのかもしれないと素直に思っていた。

 ”水神” の綺麗な濃い青色のオーラは、それはとても綺麗だったが、香穂里も負けず劣らず綺麗な濃い赤色のオーラを持っている。しかし、その綺麗なオーラはあまり出してはくれない。最近は少し黒みかかったオーラなので、私はどこか不安を感じている。


 あとはもう1つ、不安に思っている事があった。それはもう1人の転入生の "如月" とかいう人物のこと。大人しそうに見えて実際には後ろの席の香穂里に警戒していたらしく、今日は常に結界を纏っていたらしい。そのため、香穂里が過剰に苛立ってしまっていた。

 もっとも明日も明後日も、場所を問わずに結界を張っていれば、もしかしたら警戒ではなく常に何かから身を守っているという可能性もあるのだが、香穂里は既に『私への当てつけだ!』と決めつけてしまっている。

 しかも、あろうことか香穂里の "お気に入り" の遠音とも同じ委員会になってしまった。私や、香穂里と仲が良い円あたりが遠音と仲良くする分には怒らないのに、見知らぬ他人が遠音と仲良くしていると怒るのは、正直これこそ(遠音にとっては)理不尽なのではないかと思うのだが、私は香穂里ではないので、そこまで理解が及んでいない。


 まぁ、その行為が少なからず影響していることが、去年から今年の3月にかけて事件として起きた。

 最終的に遠音の ”親友” を自称していた鈴木というクラスメイトが自殺してしまったのだが、その後で学校に復帰した遠音は何を思っているのか、私にも理解できないでいる。

 ただ、これを遠音本人に聞くのはマズイと思うし、香穂里も気になっているらしいが敢えて聞かないでいた。しかし、私達が同じ思いを持っているということは、事実を知る大半のクラスメイトはきっと同じ思いを抱いているのだろうと思う。でも、誰も聞かないのは、ここで遠音に訊ねれば、遠音がまた学校に来なくなる可能性があるからだと感じているためかもしれない。


 流石に2本目の当たりは出なかった。アイスを食べ終えた私はゴミを捨てて上の階に出て、正門の傍を通り抜けて2号舎の高校職員室の脇を通っていた。

 そこから耳に入ったのは ”修学旅行” の単語だった。中学3年生は5月中旬に、高校2年生は6月上旬に予定されている。ということは、そろそろ班分けの話しが来る頃だろうと思いながらも、その先へ進む。

 一度外の廊下に出るが、数歩ほどで3号舎に入る。3号舎の1階も中学職員室になっている。その中心あたりにある階段を上がって、私は大会議室と呼ばれる ”205号室" の傍に来ていた。が、その教室は既に人気が無かった。


「なんだ、もう終わっていたのか」


 そう呟いて覗き込もうとした時に、後ろから遠音の声が聴こえて来た。


「何してんの?」


 その言葉に驚いて、私は後ろを振り返っていた。

 そこには遠音と、転入生の如月さんが一緒に並んで私に向かって歩いている。


「会議、終わっていたのデショ?」

「ん、あぁ。如月が校内見るっていうから、案内してやってた」


 香穂里が居なくて良かった、なんて素直に安堵してしまっていた。


「全部の教室を回っていたのデショ?」

「大体かなぁ。流石に地下教室までは行くつもりないが」

「そっちの方が重要な気がするデショ ……」

「あー …… だって、先に調理室行きたいって言われたからなぁ。今から地下回ってたら、すげー時間かかって、帰りに岸間とバッタリ出くわすことになるだろ? まぁ、アンタが1人で居るってことは、まだ大丈夫なんだろうけど」


 どうやら遠音も、ある程度は理解しているらしい。

 私は敢えて香穂里に関する話をスルーすることにした。先に話しを出した遠音も同感だったらしい。


「で? オレを探していたのか?」

「うん。部活、どうするのデショ?」


 復帰するのか、しないのか。部長の座は残してある。

 それだけで粗方解ったらしい。遠音はうん、と頷いていた。


「部長は、やるよ」

「ほんと?」

「でも、半年とちょっとのギャップを埋められるか、正直自信は無い。それに、オレが部長をやるってことは、部長会議の時に演劇部の部長になったらしい岸間が一緒ってことだろ?」


 私の考えは甘かったらしい。

 確かに、言われてみればそういうことになる。もっとも、香穂里が部長面の時は大真面目なので、遠音に構う余裕なんてないとは思う。しかし、香穂里がどちらを優先するのか、今の私にもそこまで自信がある訳ではない。


「だから、副部長でアンタがやってくれるなら、もしオレが休んだとしてもアンタがやってくれるなら、部長になるつもりだった」


「大丈夫だよ」


 そう言ったのは、何故か如月さんだった。

 私と遠音は驚いて如月さんを見る。


「彼女は分別がある人だから」

「…… 何で解るデショ?」「…… 何でアンタが答える」


 思わず、私と遠音はほぼ同時にツッコミを入れていた。

 が、そう言えば、この ”如月” とかいう人物は、噂で有名な占い師の ”音神” ではないかと、私の周囲のクラスメイトにまで囁かれていた気がする。

 まぁ、だとしても、同じ占い師をしている母親の娘である私が驚くようなことでは無かったのだが、今こうして如月さんを見る限り、この人も凄く綺麗なオーラを持っていることに気付かされていた。

 ただ、そのオーラが真っ白だったためか、同じクラスに居ても全く気付かなかったらしい。


「というか、オレ、アンタに岸間のこと、説明したか?」

「ううん?」

「だから何で疑問形 ……」

「でも、さっき話ししてくれた内容から大体の目星は付けられたわよ。不登校の間に遠音の味方をしてくれていたのって、本谷さんなのでしょ?」


「えっ」


 これには私が驚いた。

 何て説明したのかは、解らない。でも、味方とか敵とか話をしていたのであれば、その話しとやらが紛れもなく数ヶ月前のクラスメイトの自殺の経緯な訳で。遠音にとっての敵は私達ではあったが ……。

 いや、そんなことよりも遠音が ”あの話し” を如月さんにしていたことの方が驚きだった。

 遠音は滅多に本音を口にしない。怒っていても、どうして怒っているのかさえ話さない、結構無口で根暗の部類に入る。その遠音が、まさか事情を知らない転入生に話すとは。


「まぁ、そうなんだが……」


 遠音は仕方なさそうに如月さんに答えていたが、如月さんはふーんと、あまり気にした様子は見せずに私をじぃっと見つめてきていた。その目が、少し金色に見えて私はビクッと肩を震わせてしまう。


 ―― 金色の目は、神様の証し。


 前に香穂里が寝惚けて呟いていたことだった。

 当時は何を言っているんだと思っていたものの、このことを母親に話したところ、この同じ言葉を祖父から聞いたと言っていたことで、私の頭の中に大切に保管されていた言葉でもある。

 如月さんは私の反応を見て驚いていたが、しばらくしてニコッと笑顔になった。


「話したく無ければ、話さなくても良いよ」

「…… うん」

「でも、きっと岸間さんなら大丈夫だと思う。信じてあげて」


 最後の言葉に、何故か私はホッと安堵するのと同時に、香穂里を信じていなかった自分に気付かされていた。そう …… 香穂里は確かに喧嘩っ早いけど、良い人であることに変わりはないのだから。


「ということで、遠音も信じて部長をやってみなさいよ」


 如月さんは遠音を振り返ってそう言っていた。遠音はうーんと悩みながらも小さく頷いている。

 この様子を見るに、既に遠音は如月さんに心を開いているようだった。また、香穂里が如月さんに対して苛立つ要因が増えたとは思いつつも、たった数時間でこの遠音を懐かせた如月さんを少し応援してもいる。もっと遠音の心を引き出してあげて欲しいと、どこかで願う私が居た。


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