004 ☴ 4月の編入生④
ホームルームが終わった後、私は少しだけ気になって、編入生の 宮本 千尋さん というクラスメイトを眺めていた。
髪はポニーテールで長めだが、長身のためか本谷 紗穂里さん の髪よりも短く感じられる。幼馴染の 羽生 紫 曰く、コスプレ雑誌の有名な美人モデルらしい。
そんな容姿ではなく、私は宮本さんのもう1つの噂の方が気になっていた。
雨雲を呼び寄せる宮本神社の巫女。御宮区では "水神様" と呼ばれているらしい。
私の血筋は元々、忍びという運命を背負って生を受ける。事実、私が住んでいるのは忍びだけが入れる隠れ里で、外部から部外者が入ることは一部の例外を除いて禁じられている。今は私の兄上が頭領を務めているし、その兄上が事故などで亡くなった場合は私か弟の貴が務めることになる。もっとも、里の城から一歩も出ない兄上が事故に遭うことはないのだが、同じ忍びに恨まれて殺されるという可能性は十分に考えられる。
そんな兄上は、祖父から受け継いだ巻物を私に見せてくれたことがあった。そこには神様の名前がずらりと書かれてあったが、幼かった私には難しくて読むことは出来なかった。それを見ながら兄上から聞かされたのは、4つの大きな神様と、5つの属性の神様が居る、ということだった。
兄上は、その4つの大きな神様の1つ、”死神" と名乗っている。実際に、兄上は強い。
その兄上が5つの属性の神様を探して連れて来いと、私を含めた一部の部下に数年前から指示を出していた。
属性の神様は5人で、それぞれ ”水"、"風"、"雷"、"炎"、"地"の属性ということと、己が属性の神様であることを知らずに育つということくらいしか、兄上も知らないという。
ただし、その属性の神様に仕える季節の神様が居るらしく、その季節の神様は誰が属性の神様であるのか知っているらしい。が、そちらの情報に関しても、有力な情報は未だに得られていなかった。
もしも宮本さんが本物の "水神" なら、兄上の元に連れて行かなければならない。しかし、もしも本物では無かった場合、里の存在を知った部外者として排除される可能性もある。
だから私は、もう少し様子を見ることに決めた。
そんな宮本さんが、一緒に帰ろうとしているだろうクラスメイト達を連れたまま、私の前までやってきていた。
心当たりが無くて私が驚いて居れば、宮本さんは素敵な笑みで私を見ていた。
「風見さん、だったよね? クラス代表の説明、ありがとう」
「あぁ、そんなこと。別に知っていたから答えただけよ」
私は内心で名前を覚えられていたことに驚きつつも、普段と変わらず単調に答えた。
「あの場でクラス代表を経験したことがあるのは私くらいだから。美川先生が答えると内容が美化されてしまうし話しが長いから、私が答えるべきだと思っただけ」
「うん。だからありがとうと言いたかったの」
ウフフと、本当に素敵な表情で宮本さんは笑っていた。
一見すると優しそうな人ではあったものの、その笑顔には何か違和感がある気がする。
「私がクラス代表の仕事のことで困ったら、相談に乗って欲しいのだけど?」
「…… 私の気が向けば」
一瞬戸惑ったものの、私は正直に答えることにした。
相談されるなんてこと、今まで一度も無かったのだから、良いアドバイスが出来る自信は無い。そもそも、私自身が誰かに相談を持ちかけるようなことも無かったので、どう答えて良いか解らなくなりそうではある。
でも、出来る限りのことはしてあげたかった。
「ありがとう。あ! 風見さんも一緒に帰ろうよ! 皆でカフェに行こうって話をしていたんだ~」
宮本さんが私に話しかけた途端、宮本さんの周囲に居たクラスメイトが慌てた様子で宮本さんを制止しにかかっていた。
しかし、時は既に遅い。話を聴き付けた美川先生が鬼のような形相で皆の後ろに立っていた。私はあーあ、とばかりにクラスメイトに同情する。
「宮本さん? 学校帰りの立ち寄りは校則で禁止されています!!」
「えっ?!」
宮本さんの様子を見るからに、どうやら校則を知らなかったようだ。クラスメイトが仕方なさそうに肩を落としている。
「えーっ?! じゃ、じゃぁ私が学校帰りに雑誌に載る写真を撮りに行くのもダメじゃん??」
「その場合は、宮本さんの保護者から申請書を提出してもらい、校長先生に受理されれば大丈夫です。まぁ、もちろん中学生でのアルバイトは禁じられていますし、校則でこの学園の生徒はアルバイトを禁止していますが、入学前から芸能活動を行っていた場合は本校でも理解をした上で入学させていますから、その点は考慮していますよ」
「じゃぁ、カフェに寄ることも受理させれば問題無いのですね?」
宮本さんはニヤリと笑いながら美川先生に訊ね返していた。
が、流石に美川先生、この宮本さんの言葉の意図にすぐ気付いていたらしい。
「そうですね。全員が校長に受理されれば問題は無いですね」
その返答に、宮本さんは小さく舌打ちをしていた。
「仕方ないなぁ。皆、休みの時に行こうよ! 私、割引券持ってるし~」
そう答えながら宮本さんは歩き出していた。それにつられて、近くに居たクラスメイトも歩き出す。
そんな集団が去り、美川先生が教卓の荷物を手に教室を後にした頃、私の前方に 永瀬 遠音さん が座っているのが見えた。傍にはもう1人の編入生・ 如月 咲九さん が居る。
如月さんは、私の里でもかなり有名だった。好戦的な兄上は、常日頃から凄腕の超能力者と招待試合することで、兄上自身の能力を高めていた。
そんな兄上が唯一、如月さんが超能力者だということを解っているのにも関わらず手を出さない相手だったために、それだけ兄上が恐れているのではないかという噂が流れていたことがあった。それに、如月さんが属性の神様の1人ではないかと誰かが発言した時も、兄上はその者に、(如月さんには)決して手を出してはいけないと言ったらしい。
そんな噂の所為で、私はてっきり凄く怖い子なのだと思っていたが、本人を見る限りではそのような雰囲気は全く感じられなかった。それどころか、どこか安堵出来るような、落ち着いた雰囲気を持っている。
しかし、如月さんから目を反らすと、そんな思いはどこかに消えてしまっていた。それがどうしてなのか、私には解らない。でも、前にもこのような経験をしたような気がする。
―― もっとも、過去を思い出すと拒否反応を起こして倒れるから脳から排除するのだけど。
そうこう考える間に、永瀬さんと如月さんは教室を出て行っていた。
教室に残っていたクラスメイトの大半は着替えていることから、今日からクラブ活動することに許可が下りているのだろうと思われる。中には先生が教室から立ち去ったことを良いことに、待ち切れない様子で持参したテニスラケットをぶん回している人もいた。危険だろうに。少しだけ懐かしく思いながらも、私は鞄を手に重い腰を上げた。
去年、学年のクラス代表のメンバーの中からもリーダーに選任されていた私は、(去年の生徒会の副会長で)今年の会長によって個別に呼び出されていた。
普段なら、高校側の2号舎6階の生徒会室に呼び出されるのだが、今日に限っては2階の進路相談室という指定だった。
不思議に思いながらも教室に向かえば、その教室の前には数名の生徒が屯っている。男子校の椎名会長にはファンも多いので、あまり気にせず教室の戸をノックした。
「去年、2学年のクラス代表のリーダーをしていた風見ですが、生徒会の会長様はいらっしゃるでしょうか?」
「はいはーい♪」
普段通りの元気の良い椎名会長の声がすれば、すぐにその教室の戸は開かれた。
ここで、普段なら ”キャー!” というファンの黄色い声が上がるのだが、今日に限ってはファンが懸命に中を覗こうとしている。それを椎名会長が制していた。
「おっと。校内の追っ駆けは禁止されているだろう? でも、残念ながら教室に入らないと中が見えないようにしてあるからねっ!」
椎名会長はそう言ってドヤ顔をしていた。
「さてと。風見さん、お待たせしたね」
「はい」
「呼んだメンバーに違和感を覚えるかもしれないが、理由はちゃんと説明するから、それまでは席を立たずにいてくれるかい?」
普段、内容がどうでも良いと解り、且つ面倒な時には帰ってしまう私に対しての、椎名会長なりの精一杯の言葉だったと思われる。
そこまで重要な人物が中に居るのだろうか?
不思議に思ったものの、説明されるのであれば待つしかない。私は小さく頷いた。
「解りました。その説明に納得出来なければ、帰ります」
「ああ …… すまないね」
そう答えた椎名会長は戸を少し大きめに開けてくれていた。
確かに教室の中は、戸を覗いただけでは奥まで見えないように、保健室に良くある白色のバリケードが置かれていた。
椎名会長が戸を閉め、私にそのバリケードの奥へ行くよう指示する。
ファンの彼女達の声が今も私の耳まで届いていたが、敢えて無視してバリケードを越えると、そこには既に先客が座っていた。男子校側の生徒も数名ほど居る。その大半は顔を知っていたが、女子校の南会長の脇に座っている男子生徒だけは、見たことすらない制服を着ている。しかも、私と同じような赤縁眼鏡をかけていた。
「(なるほど。つまり転入生の中に、知名度が高い生徒が含まれていた、ということかしら。でも、それにしてもこの呼ばれたメンバーはおかしい。共通点が見当たらない ……)」
なんて思って立っていれば、南会長が私に手招きしていた。どうやら、その席の中で唯一残っていた席に早く座れ、ということらしい。座ったらすぐに南会長は口を開いた。
「皆さん、貴重な放課後のお時間を取ってしまい、申し訳ないです。事情は聴いていますが、お呼びしたのは椎名君なので、しばらくお待ちくださいね」
しばらくして、教室の戸の鍵を閉めた椎名会長がこちらに戻って来た。
そして、何故か1つだけバリケードの傍に置かれてあった椅子に腰をかける。
「鍵は閉めました。五十嵐君、変装を解いて大丈夫ですよ」
その一言で、編入生らしき男子生徒は溜め息と共に眼鏡を取り、少し茶色の混じった髪の毛 …… ならぬカツラを頭から外した。カツラの中からはフワリと長めの黒髪が重力で舞い落ちる。
すると、集められたメンバーの男子の1人がハッと驚いた表情をした。
「りゅ、りゅ、りゅ……リュウ様っ?!」
その声によって、私以外の全員が一斉にその下向きがちな編入生の顔を覗き込んでいた。
リュウ様と呼ばれた転入生は暑かったのか、ふぅと吐息をついてから立ち上がり、私達をその鋭い眼光で見やる。
「本名は 五十嵐 厳龍 です。貴方達と同じ中学3年生なので、解らないことがあった時は、ご教授お願いします」
そう言って丁寧にお辞儀をした。
"リュウ様" の噂は、私でも知っている。整った顔立ち、長身、足長という全てが完璧に揃ったモデル。確か、モデルの後ろに写っていた一般人がカッコイイ!と噂になって大捜索された結果に見つかったという、本名不詳、年齢不詳、無口、…… 全てにおいてプロフィールが明らかにされていない、今話題のモデルのこと。
もっとも、私よりも弟の貴の方がブロマイドを買ってくる程のファンなので詳しいとは思う。もちろん、今の彼も相当なオーラを放っている。
「何で …… 何でリュウ様が ……っ」
「編入生、と言えば解りますか?」
今にも発狂しそうになりつつ、自我を必死で抑えているらしいメンバーの1人に対して、リュウ様は至極当然に答えていた。
「前の学校の統廃合で、この学園に通うことになったんですよ。まぁ、前の学校は中学生しか居なかったので大事にはなっていませんでしたが」
「今回、皆を呼んだのは、そんな五十嵐君の学校生活を守るためでもある」
急に背後から椎名会長の声がしたもので、私達は一斉にそちらを向く。
「”リュウ様” が学園内に居ることが解れば、当然ながら門の前に取材陣が待ち構えている可能性も高まる。また、校内でも女子のファンが ”リュウ様" を探して男子校を往行することになるかもしれない。
君達も知ってはいると思うが、"マドレーヌ事件" どころの話では無くなると思ったのでね」
マドレーヌ事件とは、円を含めた私達が入学した年の5月に起こった事件のこと。
門の前に数日間、ずっと張り付いていた記者の1人が生徒を拉致し、色々あって生徒は無事に保護されたものの、その記者は近くの山中で自殺するという悲惨な内容だった。
この影響で、当初はこの学園にも悪評が囁かれていた。今の理事長が学園の規定を頑なに守っただけだと記者会見の場を開いたことで、他の同じような学園や、学園内に数名ほど在籍する芸能活動を行う生徒の保護者にも支持されたことで、今ではすっかり忘れられつつある話し。
もちろん、この場に居る全員は知っていた。そのためか、中には凄く暗い顔をしたメンバーも居る。
「空気を悪くするつもりは無かった。すまない」
そう言いながら椎名会長は続ける。
「皆を呼んだのは、”リュウ様” のコアなファンではなさそうだったことと、過去にクラス代表として経験していたことと、何か起きた時にすぐ対応できるだろうと思ったからだ」
「しかしながら、会長様。この選りすぐりの中に、居てもおかしくはない生徒が居ない気がするのですが?」
私が思わず手を上げて質問すれば、椎名会長はあぁ、と少し暗い表情をした。
「声はかけたが断られたのと、一部は呼ぼうか迷ったのだがね」
「私が超能力者だからでしょう?」
そう答えたのはリュウ様だった。
私や一部の女子、椎名会長を除いた全員がリュウ様を振り返る。
私はリュウ様が超能力者であることに気付いていた。編入生の噂は私の耳にも入っていたし、リュウ様を見て相当な実力者であることは、リュウ様の纏う ”気” ―― 所謂、オーラなどと呼ばれるモノを見てすぐに理解していた。
それに、同じ里の中にリュウ様のコアなファンが居る。そのファンが何度かリュウ様を(兄上にバレない程度に)追い駆けたことがあったらしいが、近付けば逃げ切られ、遠過ぎると見失い、程度のところで粘っても、ある一定の場所では必ず消えてしまうらしい。
そもそも、この教室ごと結界で覆っているのは、恐らくリュウ様自身だろうと思う。通常の教室なら、ここで話している内容は廊下まで聴こえてしまうはず。それにも関わらず、教室の中に先程までの外のファンの声は聴こえてきていない。椎名会長は超能力者ではあるものの、この教室のような強力な結界を張れるような能力ではないし、南会長に至っては超能力者でも無い。
「私のコアなファンではないこと、過去にクラス代表として経験していること、私と同じ中3であること。この3点を考慮した結果の皆さんだった、ということですよね?」
リュウ様がそう言いながら椎名会長に訊ねれば頷き返していた。
「あぁ。それに、君は相当な実力者だと聞いている」
「私に対して挑戦者が出て来ると思ったのでしょう? 既に何名かに挑まれましたが」
驚愕した表情で椎名会長はリュウ様を見ていたが、そうでも無ければ教室ごと結界を張ることはしないだろうと私は勝手に自己完結させていた。もっとも、この結界の所為で逆に居場所がバレている可能性もあるのだが。そこまで気付いているかは解らない。
「つまり、そのような勝負になっても困るから、会長様や新しいクラス代表だけではなく、会長様の信頼がある私達にも協力をしてほしい、ということですね」
そう言ってから、私は席を立つ。
「理解はしましたが、協力は出来ません」
私のその発言と行動に、その場に居た誰もが目を丸くしていた。
「理由はいくつかあります。
1つ目に、私のクラスには問題児が多いからです。抑制しようがありません。
2つ目に、私が全ての行事に参加出来る訳では無いからです。ましてや、他の学年と被る体育の授業や全学年が共闘する体育祭は、私個人の都合で参加することが出来ないので。
それに、3つ目の最大の理由としては、私の実の弟が今年、1年生として入学しています。弟はリュウ様のコアなファンです。その姉である私が、何かが起こった時に弟まで抑制出来るとは思いません」
「…… 風見さんがそこまで言うのであれば、仕方ないですね」
全てを聞いていたリュウ様が、私を微笑みながら冷静にそう答えていた。
それ以上は言わなかったが、そうやってちやほやされる有名人の存在が凄く嫌いだった。円や瞳も同じ。それが当たり前だと思っている人は、特に私から話そうとは思わない。兄上のように、有名人ではなくても知名度以上に皆をまとめ上げているような人なら歓迎なのだが。
「なので、ここでの話しは聞かなかったことにして、辞退させて頂きます」
そう言って私が歩き出せば、椎名会長が慌てた様子で立ち上がり、鍵をポケットから出していた。
と、結界が消えたらしい。途端に廊下からのざわめきが教室の中に入って来た。
「色んな方が声をかけると思いますが、お帰りには十分気をつけて下さい」
やんわりとしたリュウ様の声が後ろから聴こえてきたものの、私は何も答えずに教室の外に出ようと、椎名会長に戸を開けてもらった。
が、真っ先に飛び込んで来たのは、急に開けられた戸から中に押し入ろうとした女子生徒の姿だった。更に続々と女子だけではなく男子生徒までが戸口付近にやってきている。
「ちょっと! 君達?!」
「リュウ様に会わせてー!」
「リュウ様あぁぁぁ♪」
「スリーサイズ教えてぇぇぇ」
などと口々に発狂していた。恐らく、噂を聞きつけたファンだろう。先程よりも事態は悪化している。
椎名会長と私はほぼ同時に溜め息をついてしまっていた。
そんな時に、向かい側の校舎と校舎の繋ぎ目の出入り口から美川先生が現れる。美川先生はキリッと、いつもとは違う表情でファンを睨みつけていた。
「貴方達! いい加減にしなさい!!」
途端にファン達が静かになり、美川先生を振り返る。
「1年生や2年生は知らないかもしれませんが、このようなことでは本学園の生徒として名が傷付きます! それとも、事件を起こして退学処分にされたいのですか?!」
”事件”の単語で数名は黙ったが、大半は知らなかったらしく、普通に首を傾げていた。
もっとも、ニュースで大々的に取り上げられていたのは2週間だけだったし、それ以降はマドレーヌこと円の所属する芸能プロダクションが色々と手配して黙らせたために、それ以上大きくなることは無かったらしい。そのため、今の1年生や2年生が知らない可能性は十分に考えられる。
美川先生は溜め息をついてから、冷静になって口を開く。
「それに、本学園の校則には ”廊下を妨げる行為は退学処分にする" と明記されていますが、皆さん、思い当たる節はないですか?」
ファンの誰もが、皆を見た。しかし、誰も退こうとはしない。
むしろ、睨みを利かせて相手を退かそうとさえしている。
「ちなみに、それを助長した生徒もこの行為に含まれるのですが?」
この一言で、全員が真っ青な顔をした。
そして、次第に美川先生の居る逆側からファンが1人、また1人と去って行く。そして最終的に全員がその場を後にしていた。
「やれやれ」
今更かもしれないが、確か円が事件を起こした時、円は1組に居た。そして美川先生は1組で固定の担任。つまり、あの事件のことを最も覚えている先生なのだと感じた。
「中ではまだ、会議が続けられているのでしょう?」
美川先生は何事も無かったかのように椎名会長に訊ねた。椎名会長は驚いた様子で美川先生を見ている。
「…… え? あ、はい! …… あれ? でも、この会議のこと、女子校の先生方には ……」
「理事長から聞きましたし、私は来生さんから代理で、貴方に伝言を頼まれただけですよ」
言われてみれば、確かに瞳も呼ばれておかしくないメンバーではあった。
が、傍には常に、コアなファンの1人の円が居る。だから伝えられていないものとばかり思っていたが、どうやら瞳にもきちんと伝えていたようだった。流石、女好きの椎名会長。抜け目が無い。
「あぁ、来生さんから ……。本人は仕事ですか?」
「えぇ。それで、麻生さんが相当なファンらしいので、来生さんと繋がりがあるという事実を知ったら恐ろしいことになるから内容を聞くのも辞めておく、とのことでした」
「お名前まで伝えていなかったはずなのですが …… まぁ、バレていたのであれば、どうしようもないですね」
椎名会長はそう答えていた。そして私に視線が移る。
「風見さん、お待たせしたね」
「いえ。瞳が …… 来生さんも呼ばれていたのは驚きでした。では、失礼します」
私はそう言い残して、そそくさとその場を後にした。




