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020 ☉ 修学旅行・1日目③ *

 怪談を終えた後はしばらく会話を続けていたが、やがて1人ずつ寝落ちをしていってしまった。


 残された私は眠れそうにも無くて、鍵を持ったまま部屋の外に出る。


 まだ若干肌寒かったものの、体の内側から熱を出しながらも1階に向かう。


 先生もまさかこんな時間まで出歩くとは思っていないのか、私は旅館の1階の、フロントの逆側に少しだけ置かれているソファーに腰をかけた。


 そして窓の向こう側の中庭を見つめる。


「…… カホリさん、だっけ?」


 急に声をかけられて振り返れば、そこには普段、昼食時に如月と一緒に居る2組の子が立っていた。

 この子は確か、紗穂里と同じ委員会だったと思う。少しだけ話しは聞いていた。


「えっと …… 山田さん、だっけ?」


 私の質問に対して、山田は嬉しそうに頷いた。


「うん。その席、座ってもええ?」


 頷く前に、山田は私の向かい側の椅子に座った。

 図々しい子だということは紗穂里との会話から解っていたので、先に言っておくことにする。


「下の名前で読んでも良いのは仲良くなった人だけ。上の名前は岸間よ」

「ほんなら岸間さんは、どうしてここに?」

「眠れないからよ」


 ぶっきら棒に答えて、私はまた窓の外を見た。

 山田さんはふーんと言ったきり、それ以上は何も言わずに私と同じく窓の外を眺める。



 しばらくして、そんな山田が呟いた。


「ウチは神を信じておらへん」


 その言葉に、私は驚いて山田を振り返ってしまった。

 山田が良く一緒に居る如月は間違いなく神だと思う。そんな如月を否定するとはどういうことか。


 驚いたままでいれば、山田が私を見た。


「神も人間と同じや。都合が悪くなったら切り捨てる。ウチはずっとそういう神を見て来た。せやから博愛の~とか平等の~とか言われても信じられへん」


 そういうことか、なんて思いながらも私は首を傾げていた。

 そんな話しをどうして私にするのだろうか、と。


「岸間さんが持っとるその十字架は、神の力が宿っとる」


 その一言に、私は驚愕し過ぎて思わず身構えてしまっていた。

 が、山田には敵意も何も無かったらしい。私を金色の目で見ながら淡々と続ける。


「あんまその十字架の魔力を酷使せん方がええで。ウチはそれを忠告しに来た」


 私は思わず身震いをしていた。

 が、山田は気にも留めずに立ち上がり、金色の目のまま私から目を逸らす。


「十字架の魔力が無くなったらお姉さん、死ぬで」

「…… え?」


 流石にこれには驚いていた。

 そもそも、今もポケットの中に入っている十字架を紗穂里の前ですら出した覚えは無い。


 が、説明もなく山田はそのまま去ろうとしている。


「ちょ、ちょっと待った! 死ぬってどういうこと?!」

「何をそんなに慌てとるん?」


 山田は呆れた様子で私を振り返っていた。

 その目は、まだ金色のままだった。


「咲九にでも詳細聞けばええやろ。ウチが言うたーとか言えばあっさり答えてくれるで?」

「いや、何で私が死ななきゃならないの?? そもそも理由を知っているなら、」

「そーゆうのが面倒なんよ」


 山田は答えてプイッと明後日の方向を向いてしまった。

 理由が解らずに私が愕然とする。


「説明は咲九の得意分野や。咲九に聞いて。

 ウチは貴重な神器が壊れんよう動いとるだけや。その十字架は貴重な神器や。でもな、誰でも使える代物でもない。ウチが使えるなら力ずくでも奪っとる」


 そう言って山田はさっさとこの場から立ち去って行ってしまった。


 残された私は、しかし、どうしようもなくて元の場所に座り込む。



 十字架もとい、このアンクは私のママが使っていた遺品。

 ママは亡くなる前に、このアンクをママの妹に当たる女性に渡していたらしい。


 パパが海外出張している間に、パパには内緒だと言ってこっそり出会い、そしてその女性から渡されたモノだった。優しいママとの記憶はほぼ残っていなかったので、これが唯一のママとの繋がりだと思って大切に所持している。


 一緒に渡されたママの日記によれば、生前のママは神器という神の武器を集めていたらしい。それをアンクの力で封印することで、神器を悪い人に悪用されないようにしていた。

 その女性は過去のママを知っていたので色々と聞いたから、間違いないと思う。


 だから、私もママと同じように神器を封じようと思った。

 最初こそアンクは反応すらしなかったが、次第に私の心に反応するようになってくれた。


 しかし、こんな話しは紗穂里にもしたことがない。ましてや、アンクを持っていることすら他人に話した覚えもない。


 それなのに山田は知っていた。

 アンクの魔力を使っていることも知っていた。


 もしこのことを知っているとすれば、私が思い付くのはママのアンクを渡してくれたあの女性しか居ないと思う。

 だけど、その女性であってもアンクの魔力を私が使っているとは思わない気がする。



 とはいえ、山田は既に立ち去ってしまったし、あの金色の目には逆らってはいけない気がした。

 そうなれば、聞ける相手は如月しか居ない。


 が、このことは絶対に紗穂里にはバレたくなかった。


 紗穂里には、超能力者では無く普通の友達として一緒に居て欲しいと思う。

 だから今はこの思いを無理にでも閉じ込めるしかなかった。


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