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002 ⛩ 4月の転入生② *

 直後の休み時間。


 私は早速、皆がテスト勉強に取り組むのかと思っていた。

 が、実際はそうでも無かった。

 不思議に思っていれば、そんな私の周りに円と瞳を含めたクラスメイトが集まって来ていた。


「私、麻生 円と申しますの」


 見た目通りの声で、円がこんな私にわざわざ挨拶をしに来てくれた。

 驚きながらも立ち上がって挨拶を返す。


宮本 千尋(みやもとちひろ)です」

「存じていますわ!!」


 そう言いながら、円は手にしていた雑誌のあるページを広げて机に叩きつけた。

 そこには、私がアニメの〝アスカ・ランラン〟のコスプレをしている写真が載っている。


 少し赤面しつつ円に視線を戻した。


「同じ業界の方ですもの。見てすぐに、この方だと解りましたわ!」


 その雑誌は、去年の冬の同人誌の祭典で行われたコスプレ美少女選手権で、見事にチーム部門で優勝してしまった私とそのメンバーを数ページに渡って特集している特別号だった。

 もっとも、コスプレ雑誌故に、普通の雑誌とは少し違う場所に置かれてあるはずなのだが。


 恐らく情報収集の一環として円が入手したモノなのだろうと推測。


 ちなみにこの時、バイトができない中学生ということで金銭では無く、代わりに3つ星ホテルの高級ディナーを全員で御馳走してもらっている。

 本名も出せなかったのでコスプレ時の名前 ”ミヤッチー” で載せていたのだが、それでも円にはバレバレだったらしい。


 まぁ、何せ私、目立つからね!

 中学生にしては長身で高校生に間違われるし、ナンパされるし、痴漢されたこともあるし。


「同じ業界とは言えないんだけど」


 私の呟きに円はニコッと微笑んだ。


「そうですわね。

 でも、これを見て私、一度逢ってみたいとは思っていましたのよ?

 凄く美人だということが写真からでも解りましたから」


 その笑みにも、まして発言にも嘘は無いようだった。

 私はおっかなびっくりしつつ、咄嗟にいえいえ!と答えてしまっていた。


「そんなことは! 麻生さんの方が可愛いし、綺麗ですよ!」

「綺麗な方に可愛いと言われると …… 照れ臭いですが、嬉しいですわ!」


 素直な気持ちらしく、円は頬を赤く染めていた。

 それを黙って見ていた隣の瞳が妬みのような呟きをする。


「オレが褒めても無反応なのになぁ」

「煩いわね!」


 ビシッと鋭い表情をした円が答え、そしてすぐに私に笑顔を見せる。

 あまりのギャップに驚きながらも、内心ではそれだけ仲が良いことを知った。


「千尋さん、とお呼びしても良いかしら?」

「はい。私も円さん、で良いですか?」

「円、で良いですわ。それに私の敬語はクセのようなもの。千尋さんは私に敬語でなくても問題ないですわ」


 円は笑顔でそう言ってくれた。

 要注意人物と言われていた割には、意外と普通のお嬢様らしい。


 むしろ、隣に居る瞳の方が、先程から私を睨みつけているように思えた。


「私達のグループに入りませんこと?」


 ビクッ

 私は一瞬、嫌な感じがして肩を震わせた。

 が、円は至って普通にしている。


 その震えの謎は、すぐに明らかになった。


「ちょ?! 打ち合わせと話しが ――」


 瞳が声を震わせて円に食ってかかっていた。

 が、円はそれをスルーして私に続ける。


「私、最初は千尋さんが "水神様" だとお聞きしたから、これは外部から超能力者という "敵" が来たのだと勘違いしていましたの。

 でも、こうしてお話ししてみたら、何てことはない普通の同級生 ―― しかも同じ業界の方。

 "敵" ではなく "味方" でしたのね」


「はぁ ……?」


 …… 意味が解らない。

 そもそも超能力者か否かで差別することは本来あってはならないこと。まして今、この場にも非能力者の生徒が居るというのに。


 とりあえず疑問系で返答すれば、円は隣に居た瞳を笑顔のまま軽く睨んでいた。

 その目は冷徹としか例えようがない。


「あくまでも噂は噂ですもの。例え超能力者であったとしても、一度お話ししてみなければ "敵" とは見なせませんわ。

 ねぇ?瞳」

「…… 円がそれで良いなら」


 瞳は諦めたのか、ふぅと大きめの溜め息をつきながらも、先程とは全く違う優しげな目で私を見てくれた。


「オレは、来生 瞳。まぁ、円のことを知っているくらいなら、オレのことも知っているだろ?」

「えぇ、まぁ ……」


 違う意味でも、とは流石に返答できなかった。


「なら別に、それ以上は言う必要、無いよな?」


 まるで心を読まれたように言われてしまったので、私は嫌な汗を背中に掻いてしまっていた。

 と、円が満面の笑みになる。


「うふふ。これで "ゆかり" が認めれば、千尋さんは晴れて私達のグループの一員ですわね」

「ゆかり?」


 見た覚えがない名前だけに、少し警戒する。

 私の返答に円は首を傾げていたものの、これには瞳が何故か大きな溜め息をついていた。


「2組に居るオレらの参謀だ」


 参謀という単語に反応して、私は更に背筋を凍らせていた。




 2限目は英語の抜き打ちテストだった。

 しかもここから、数学、理科と続き、お昼休みを挟んで、国語、社会、委員会を決めるホームルームと続く。

 皆がどうしてテスト勉強をしなかったのか訊ねれば、それは勉強をしてしまうと、本来の実力よりも優秀なクラスに行かされることになり、結果的に成績を維持、又は向上できなくなるから、だそうだ。




 だからお昼休みに入る時には、既に大半のクラスメイトはぐったりとしてしまっていた。

 最初こそ元気に私の席に遊びに来て自己紹介をしてくれたクラスメイトも、今ではすっかり私を忘れられたかのように各々のグループでそそくさと机を合わせてお弁当の用意をしている。


「千尋さーん」


 円が自分の席から私に声をかけてきた。

 が、別段注目されるようなこともない。


「私達と一緒にご飯食べましょう」


「え、良いの?」

 と答えたあたりで傍と気付き、私は左を辿って咲九を見た。


 咲九は(花菜子を含めて3人で食べると約束をしていたものの)良いよ、という感じで解っていたように手を振ってくれている。

 流石、咲九。


 安堵して、私は自分のお弁当を持って円達の元に向かった。


 すると、既にそこには私の席が用意されており、隣には見知らぬ顔が座っていた。

 髪の毛を2つのお団子にしている、愛らしい感じの子。


「おお、貴方が噂の "水神様" ですか!」


 元気の良い声と共に椅子を引いてくれていた。とりあえず、その椅子に座ることにする。


「ウチは羽生 紫(はにゅうゆかり)って言うんよ。よろしゅう」


 そう言いながら紫は既にパクパクと自身のお弁当を食べていた。

 それを見ていた円が呆れて口を挟む。


「ちょっと紫、食べてばかりいないできちんとご挨拶を ――」


『面倒だから、こっちでええ?』


 不意に頭の中に声が聴こえて来た。

 私は目を丸くさせて紫を見るが、紫は私を見ることなく食べ続けている。


『 "水神様" なら、この声のことも知ってるやろ?』


 これは所謂、テレパシー。

 同じ超能力者でも、自分の霊力や魔力をある程度、自由にコントロール出来ている場合にしか扱うことは出来ない。

 もちろん、私も扱うことは出来るが家族以外に使用したことは無い。


『ウチは ――』


「紫、関西弁」


 ふと瞳が紫に言った。

 紫がハタと手と口を止めて瞳を見ている。


「…… あいあ?(マジで?)」


 そう答えながら私を見たので頷けば、紫は急に赤面してモグモグと開始する。

 どうやらこのテレパシーは、同じグループの皆にも聴こえているらしい。


『ウチは2組にいて、えーと、円と瞳とは幼馴染です。

 もっと古い幼馴染が居るんだけど ―― それはどうでも良いか。

 とりあえず、食べることが大好きなので餌付けして下さいっ』


「餌付けし過ぎて太って来たって言ってなかったっけ?」


 瞳の冷静なツッコミに皆が失笑していた。

 紫は気にせず答える。


『好きなこと、やめろっていうのは酷いよ~』


 その発言に、皆がふわっと自然に笑っていた。


 どうやら、この紫という人間が、このグループの緩衝材のような役目を担っているらしい。

 参謀と聞いて恐怖していたが、皆の笑顔を見ていてあることに気付かされていた。

 それは紫がひょうきんな役を演じていて、皆がそれに対してツッコミを入れていたこと。それが皆から自然と笑いを生んでいた。こういうことが出来るということは、相当頭はキレると聞く。

 ちなみに、常に学年のトップから20位以内に円、瞳が入りこんでいると聞いたことがある。もしかしたら、この紫も入っているかもしれない。




 5限目の国語のテスト後、何故か早めにやって来た美川先生によって、円と瞳は早退して行った。

 グループの1人に訊ねればいつものことらしく、これから2人は仕事とのことだった。


 6限目の後のホームルームが始まっても美川先生が戻って来なくて時間があったので、私は咲九の元に行ってみた。


 咲九は本を読んでいたらしく、その手を休めて私の顔を見上げてくれる。

「どうかした?」


 前の学校と変わらぬ態度だった。安堵した私は首を傾げながら訊ねる。


「咲九はどの委員会に入るつもり?」

「……どうしようかなぁ」


 何も考えていなかったらしい。


 咲九はうーんと悩んだ末に、

「余ったので良いかな……」

 と呟いていた。


「お昼食べている時に周りの皆が話していたから、私が出来ない体育委員は麻生さんと来生さんがやってくれるみたい。だから余ったので良いかなぁ、と。

 千尋は、そっちのグループの人と組むでしょ?」


 やはりバレていたらしい。私はゴメンと思いながら1度だけ頷いた。

 咲九は、先程と同じように良いよと手で返してくれている。


「人数的にそうなるだろうな、とは思っていたから。

 でも、そうなるとクラス代表を誰がやるのかなぁ?」


 その発言に、私は肩を竦めてしまっていた。


 他の委員会は、各々に2~3名という人数が割り当てられている。大半は2名なのだが、クラスの人数によっては3名ということもあるらしい。

 咲九の言っていたクラス代表というのは、その名の通りに各クラス1名ずつ排出し、事あるごとにクラスをまとめる(振り回される)役職らしい。


「やってみたいような、面倒のような ……」

「つまり、前の学校で千尋がやっていた役目よね?」

「そうみたい」


 目立ちたい私にとってはうってつけの役職ではあるのだが、その分、かなり重労働で面倒ではある。

 特にこの1組は面倒な人間揃いなので、そういう点でも面倒臭い。


「クラス代表は成績優秀者ではないと厳しいらしいから、私は確実に無理だけど」

「えっ?! 目立ちたくないっていう咲九がやるの?! 応援しちゃうよー??」

「やる訳がないでしょ」


 冷静にツッコミを入れられて、私はガクリと肩を落としてみせた。


 咲九はいつだって目立たないように行動する。

 きっと私が皆に囲まれていた時も、咲九は花菜子と一緒に居ることで、目立っていても声をかけられないようにしていたのだろうと思う。


「優秀じゃないと出来ないなら、彼女がやるかもね」


 そう言って私が視線を移したのは、自分の席で本を読む純という少女だった。

 咲九が純を見て、首を傾げる。


「彼女、学年トップの優等生らしいから」

「(彼女は)今年はやらないよ」


 咲九の返答に違和感を覚えたものの、そこに美川先生が慌てて入って来たために、疑問を返すことは出来なかった。

 立ち歩いていたクラスメイトが私同様、一斉に席に戻る。


「すみません、お二人の手続きで遅くなってしまいました」

 美川先生は荷物を教卓に置き、早くも黒板に委員会の名前を書き出していた。




 クラス代表を始めとして、図書委員会、体育委員会、飼育委員会、美化委員会、…… 様々な委員会名が並ぶ。

 私の目当ては、放送委員会だった。


「大半の方がご存じとは思いますが、麻生さんと来生さんの希望は体育委員会でした。

 2人には是非にもクラス代表になって頂きたかったのですが、仕事に影響が出るという理由から辞退されてしまいました」

 そう言いながら、美川先生は体育委員会の下に2人の名前を書き込んでしまっていた。

 どうやら、この2人が行うことはクラスメイトにも既に周知済みらしい。暗黙の了解、という奴だろう。

 逆らえないだけかもしれないが。


「さて、実はこの体育委員会ですが、私のクジ運が悪くてですね。

 申し訳ないことに、体育委員会が3名になってしまいました ……」


 想像するに、どうやら何クラスか集まってクジを引き、3名にする委員会を決定することになっていたらしい。

 学力重視の学校なので、体育が好きという生徒は殆ど居ない。

 そのためか、誰もがブーブーと不満を口にする中、思い出したように美川先生が話し出す。


「あとですね。転入してきた如月さんは、体が弱く体育の授業に参加することができません。

 その如月さんを体育委員会に所属させるのは可哀そうですので、如月さん以外の方から決まることになります」

 一斉に咲九に視線が移った。中には睨んでいる目もある。


 そのためか、咲九は申し訳なさそうに軽く頭を下げた。


「如月さんは悪くないですよ?! 悪いのは、私のクジ運です ……」


 申し訳なさそうに美川先生が言ってくれていたことで、全員の注目は美川先生に移った。中には同情する生徒もいる(しかし体育委員会を進んでやろうという感じでは無かったが)。


「では先に、クラス代表を選びたいと思います」


 その言葉に、誰もが視線を後ろに移していた。

 その先には純が居る。


「優秀な方から、という方針ですので、先生としては風見さんを推したいのですが ……」

「今年はやりませんよ」


 スパッと言い切って純は美川先生を睨みつけている。先程、咲九が言っていた事だろう。


「去年は仕方なくやりましたが、それは今年、やらなくても良いと先生がおっしゃってくれたからです。

 ですので、今年はやりません」


 つまり去年も純は美川先生のクラスだったのだろう。


 美川先生は大きな溜め息をついていた。


「そうですか、残念です」

「あと先生。私も体育は参加出来ないので、委員会からも外して頂きたいのですが」


 純の発言に誰もが黙って下を向いていた。

 事情を知っていても、心のどこかではやってくれることを期待でもしていたのだろうか。


「そうでしたね。解りました」


 美川先生はあっさり承諾して全員を見回す。

 しかし、誰も何も言わない。顔すら上げない。

 むしろ美川先生の視線から外れるように願っているようにも思えた。


「せんせーい」


 唐突に咲九の後ろ、香穂里から手が上げられた。全員が驚いた様子で香穂里を見つめる。


「先生は皆の中の頭の良い順番を知っているんですよね?

 なら、その順番で生徒に聞いていけばいいんじゃないんですかー?」


「それはそうですが、」


「だってそうしなかったら、確かに皆も知ってはいるけど、1人だけ聞かれた風見さんがかわいそーじゃないですか?」


 その通り。

 この美川先生が生徒を差別していることは、薄々気付いてはいた。

 が、それを敢えて遠回しに指摘した香穂里は偉いと思う。


 それに叔父からも、この先生の生徒からの悪評は聞いていた。


 もっとも、叔父からその順番を知らされていた私にとっては、はっきり言って言ってはほしくないことだったのだが。


 美川先生が私を見たので、明らかに大きな溜め息をついてから挙手することにした。


 手を完全に上げ切る前に美川先生の表情が途端に明るくなる。

 が、私は美川先生のために上げた訳ではない。


「すいません、聞いても良いですか?」


 その私の発言に美川先生は驚いていた。


 ふと全体を見れば、私とペアを組む予定の子や、先程まで同じグループとして昼食をとっていた子達も目を丸くしていることに気付いたが、咲九だけは解っていたかのように口元に笑みを浮かべている。


「クラス代表って、主にどんなことをするのですか?」

「先生のお守と雑用」


 即答した声の主を振り返れば、それが純だということに気付かされた。

 純はニコリともせずに私をじぃっと見つめて続ける。


「あとは、高校の生徒会で決定したことをホームルームで皆に伝える簡単な仕事だわ」

「私達は生徒会に参加しないの?」

「中学側には生徒会が存在しないから、大きな行事以外には、クラス代表の全員が招集されるようなことも無いわ。大きな行事の時には招集されるけど、そこでも雑用を請け負うくらいね。

 基本的には、そういう行事の時にクラスをまとめる係だから、大変というより面倒なだけだわ」


「なるほど。

 それなら、前の学校でやっていたことと大差無いので、私、クラス代表になっても良いですよ?」


 その私の発言を待っていたかのように、美川先生の顔がパッと明るくなった。

 嬉しそうに両手を口の前で合わせている。


「本当?! でも、この学園のことを知らないと、」

「美川先生、忘れられては困ります。こう見えても私、理事長の姪ですから」


 私の発言に一部のクラスメイトが目を丸くしたのが解った。

 そして口々に何かを言いながらも、一様に香穂里の方向を見ている。


 香穂里はただ、黙って煩い相手を睨んでいた。


「クラス代表、私がやっても良いですか?」


 私は自分から皆に訊ねた。

 すると、誰かが拍手をした途端、まるで皆が釣られるかのように拍手で返答をしてくれる。

 もっとも、数名ほどが不審そうな表情で私を睨んだり、ポカンと見ていたりしたが、気にしていたら負けだ。


 その間に、ペアを組む予定だった子に片手でゴメンと伝えた。

 その子は少しだけポカンとしていたものの、良いよとばかりに笑顔を返してくれる。


 ペアを組む予定だった子が円や瞳ではなく優しそうな子で助かった。


 その皆の返答を見て、美川先生がやっと動き出す。


「それじゃぁ、宮本さんにこれからの進行もやって頂きましょう」

「良いところだけ持って行きますね」


 笑顔で皮肉を答えてやり、私は教壇に上がる。


「さっさと進めて、さくっと帰りましょう?」


 私の一言で、不審顔だったクラスメイトも理解したらしく大きく頷くのが解った。




 挙手→多かったらジャンケン式で減らしていった結果、一度も手を上げなかった咲九と、ジャンケンに負けたらしい数名が残されていた。

 可哀そうなことに体育委員の残り1枠まで残っている。

 そんなメンバーを見つめていた、既に図書委員に決定していた紗穂里が、教壇近くに集まっていた子の1人に口を挟む。


「とおね、一度も手をあげてないでしょ?」

「どれもやりたくないからな」


 とおね、と呼ばれた子は失笑する。


「まぁ、それを言ったら、もう1人の転入生も手を上げてないっぽいがなぁ」

「あらまぁ。というか、仕事内容が解らないから単純に手を上げ難いのでしょ ……」

「確かに」


 こんな会話が聴こえてきていたものの、挙手の有無に関わらず、平等に決めなければならない私は先に進むしかない。


「それでは、5回目の呼び掛けです。美化委員会を希望の方は挙手をお願いします」


 と、ここでほぼ同時に2つの手が上げられた。

 それが咲九と、とおねと呼ばれたその子であることに、私は少しだけ驚いてしまう。

 これにはとおねも、声をかけた紗穂里も目を丸くしていた。


「また美化委員会をやるのでしょ?!」


 紗穂里の驚きは、とおねが美化委員会を選んだことだったらしい。言われたとおねが失笑していた。


「いやぁ、体育委員は絶対に避けたいし、飼育委員は朝が早いから無理だし、生活委員は頻繁に放課後に活動があるし、新聞委員はカメラ持って走り回らなきゃいけないし。

 色んなこと考えたら、慣れた美化委員が楽かな、と」

「まぁ、そうかも知れないけど、」

「それよりも、オレは奴が手を上げたことに驚いたわ」


 そう答えたとおねは咲九を見ていた。

 咲九は、黒板に名前を書き出していた書記委員の子に、"女" に "口" と書くのだよ、と上の名前の漢字の書き方を伝えている。


「ボクから見れば、飼育より美化の方が面倒だと思うでしょ」

「コイだったら良かったんだがな。中3って言ったら ……」

「…… あ、ウサギ?」

「その通り」

「とおね、ウサギ、嫌いだっけ?」

「トリとウサギはオレの天敵だ」


 そう言いながらも、とおねは咲九の名前をやっと書き終えた書記委員の子の元に向かった。


 書記委員の子はそんなとおねに気付き、早くも名前を書いている。

 黒板には、"如月" の下に "永瀬" と書かれていた。


「永瀬さん、よろしくお願いします」


 丁寧に咲九がとおねに声をかけていた。


 とおねは驚いて目を丸くしていたものの、

「ん、」

 とだけ答えてさっさと紗穂里の元に戻ろうとしていた。


 そんな2人を見ていた美川先生が口を挟む。


「そういえば、美化委員と図書委員の方は、本日の放課後、さっそく顔合わせがあるようですので、このホームルームが終わったら一旦、私のところに来て下さいね」


「ゲゲッ?! マジかよ~~っ」


 教室中に響いたとおねの声に、クラス全員で爆笑をしてしまった。


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