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019 ▲ 修学旅行・1日目② *

 私達が食事処にやって来た時には、既に半数くらいの生徒が集まってきていた。人数と広さをざっと見た感じでは、どうやら2組と一緒に食べることになっているらしい。

 席は班ごとであれば自由らしく、1組の班と2組の班が交互になっている長机もあった。


 香穂里を先頭にして比較的空いていた奥に進めば、既に円が私達用に席を確保していた。

 もっとも、香穂里は既に何となく気付いていたらしく、道形に円の傍へと向かって行っている。


「円のやることは解りやすいんだから ……」


 そう愚痴って香穂里は如月さんの隣に腰を下ろした。


 如月さんが席を交換する?という表情で香穂里を見ていたが、香穂里は気付かない様子。

 そこで私が突いて香穂里に如月さんを見させた。


 それで気付いた香穂里が少し悩んでから頷き、表情だけでやりとりして交換する。

 如月さんは更に私にも訊ねたが、私は首を横に振った。


 如月さんはそれに頷いて答え、席に落ち着く。


「何が出るのか楽しみではありませんの?」


 そんな行為を円は気にも留めていないらしく、向かいに座った香穂里にそう訊ねていた。

 香穂里は頭を横に振る。


「いやー…… さっきの自由行動の時の農園で、苺とかいよかんとか食べ過ぎたみたいで、まだちょっと(お腹が)苦しいんだよねー」

「あらあら。胃薬持ってきていますけど、部屋ですわねぇ」

「後で貰っても良い?」


 なんて会話を交わす中、向かい側の風見さんの隣に座った遠音を見ながら如月さんが訊ねる。


「何か生気ないけど、大丈夫?」


 風見さんと私が遠音を見れば、確かにどこかゲッソリしているようだった。というか、魂が抜けているかのように覇気が無い。如月さんの一言でピクッと腕だけは反応させていた。


「あー…… 、いやぁー…… 、」

「疲れたのね?」


 遠音がコクリと頷けば、如月さんは失笑していた。

 風見さんが心配そうに遠音を覗き込む。


「大丈夫?」

「いやー ……」

「『明日もこのメンバーなんだよなぁ。明後日も岸間とは一緒なんだよなぁ。4日目まで体がもつのかなぁ』」


 如月さんが遠音の口調で遠音の気持ちを代弁すれば、遠音は思い切り深い溜め息をついていた。

 風見さんは失笑し、私は口をポカンとさせる。


 円と喋っていた香穂里には聴こえていないのか、円とまた口論に発展しているように思えた。


「まぁ、こうなることは目に見えていたけど」


 如月さんはそう言ってから遠音に微笑む。


「後で私の部屋においで。良いモノあげるから」

「いや …… 別に何もいらんし ……」

「…… というか、私の部屋に来ないと、今夜はずっと寝られないのじゃないかしら?」


 如月さんが私に首を傾げながら訊ねて来たので、私は少し驚きつつも頷いた。


「え? まぁ、香穂里が『今夜は!円達と怪談だから!!』と張り切っていたけど ……」

「マジかー?!」


 遠音がそう叫んで頭を抱えたので、流石に香穂里も気付いたようだった。

 円だけではなく2つ分ほど隣の班のクラスメイトまで何事かと遠音を注目している。


「どうかしたの?」


 何も知らなさそうな香穂里の質問には、流石に私達も失笑するしかなかった。




 皆で夕食後、組ごとに決められた時間で大浴場に行く。

 ただし事情があって皆で入れない人は、先生方の部屋のシャワーを使うことになっていた。


 就寝後に私達の部屋では怪談をするそうで、それには円も参加するようだった。

 如月さんが丁寧に断っているところからも、遠音は如月さんの部屋で寝ることになるだろうとは予想出来る。


 隣の班の風見さんと円、同じ班のもう1人以外の2班で仲良くお風呂を済ませ、部屋ごとに美川先生が回って終礼した後は、(本当は寝なければいけないのだが)美川先生の目を盗んで部屋の大移動が始まった。

 もっとも他の班もやっていることなので、怒られる時は皆一緒になる。皆一緒なら怖くない!がモットーの円がやって来たので、私と遠音はそそくさと如月さんの部屋に移動した。


 その如月さんは既に解っていたらしく、布団をもう1つ準備してくれていた。しかも、(部屋ごとに数が決まっている紅茶は既に全て使い切ったらしく)お茶まで入れてくれている。


「準備良いなぁ」


 遠音が如月さんにそう言えば、一番左側の布団の上に居た風見さんが何故か軽くこちらを見て答える。


「(布団とお茶を)1つずつ増やすのに意味があるのかと思っていたけど、まさか本谷さんまで来るとは思って居なかったわ」

「まぁ、怪談してもボクは全く面白く感じないですし。香穂里も解っているからか、ボクのことを引き止めなかったし」


「遠音、」


 話している最中に如月さんは遠音を振り返った。

 遠音は如月さんを見て、不思議そうにしている。


「何?」


 遠音は目が悪い。今も厚めの眼鏡をしていたが、寝る時用の度が低い奴だと言っていた。だからほとんど如月さんのことが見えていないと思われる。

 如月さんは知ってか知らずか、湯のみと一緒に遠音に何かを渡していた。


「だからいらないって ……」


 他人の健康食が自分に効くとは思わない。それは私も同じ考えだった。

 が、如月さんは手際よく、遠音の持つ湯のみに粉のようなモノを入れている。


「ちょっ?!」

「全部飲んでくれるなら、毒味ならしてあげても良いけど?」


 意地悪そうに如月さんは言った。

 普段の遠音ならここで怒り出すのだが、今日は相当疲れていたらしい。

 黙って湯のみの中を見ている。


「味が変わる訳じゃないし、嫌なら私が飲んでも良いけどね。ただ、まぁ、こうなることは予期して持って来ただけよ」

「睡眠薬とか、そのあたりなら、効かないぜ?」

「そもそも薬じゃないわよ」


 そう言って如月さんは粉を包んでいたらしい白い紙を近くにあったゴミ箱に捨てた。


「一般的に言うなら揮発性の香料みたいなモノね。今もお姉さんの鼻から湯気が吸い込まれている、という訳。だから別に、飲まなくても良いの。ただし、飲んだ方が効き目は出やすいというだけで」

「ふーん」


 遠音は適当にそう言いながらも、その湯のみを持ったまま、窓際のテーブルの上にそれを置いて近くの椅子に腰をかけていた。

 喧嘩にならなかったことに安堵して、私と風見さんの時間は動き出す。


 と、風見さんがそれに興味を持ったらしい。如月さんに近付いて行く。


「疲れが取れるのなら、私にも貰って良い?」

「良いよー、良いよー」


 そうどこか嬉しそうに答えて如月さんは風見さんに白い紙を手渡していた。

 近くに居た私はそんな光景を見つつ、荷物を壁際のスペースに置いてから湯のみだけを貰いに行く。


 如月さんは解っていたのか、湯のみだけを渡してくれた。


「それ、ちょっと薄かったらごめん」

「むしろ作ってくれてありがとう。夕飯が私には少ししょっぱくてね …… ハッ!」


 凄く今更だったが、私は驚いて如月さんを見てしまっていた。

 如月さんが不思議そうに私を見ているが、大きな声になってしまったことが恥ずかしくなり、思わず顔を赤くさせて下を向いてしまう。


「どうかしたのか?」


 遠音の疑問が私の背中に突き刺さる。

 私は顔を赤くさせたまま遠音を少しだけ振り返り、睨みつけた。


「『いつもの口癖にするのを忘れていたから恥ずかしいのデショ!』」


 如月さんが私の普段の口調を真似て代弁していたので、思わず如月さんを睨んでしまった。

 が、如月さんはニヤニヤしながら私を見ている。


「『遠音と一緒に居ると、普段が遠音と同じような口調だから、つい忘れて普段の口調に戻ってしまうのデショ』と思いつつも、『これじゃぁただの言い訳じゃないか?!』とも思っているのよね?」


 全てを言われてしまったので、私としてはそれ以上、睨みを効かせられなくなっていた。むしろ、これ以上心の声を聞かれたく無いのに、こんな気持ちすら既に読んでいそうで如月さんに恐怖する。

 温泉に浸かって体が暑いはずなのに、否、その所為か身震いが止まりそうにもなかった。


「まーた勝手に他人の心を読みやがって ……」


 何故かそう答えたのは遠音だった。

 私が驚いて振り返れば、遠音は大きく溜め息をついていた。


「如月が "美島の超人" とか呼ばれる所以だよ。勝手に他人の心を読むもんだからホント、コイツと居ると常に冷や汗モノだぜ?」

「人間が多いところじゃ使わないよ?」


 如月さんはそう言いながらも、自身の湯のみを持って、枕元にハンカチを置いて確保していたらしい一番右側の布団に座った。そして壁に寄り掛かる。


「今は学校と呼べないけど、基本的に "学校" に居る間は使わないようにしているわ。もっとも、"今" この時間は就寝後という設定だから "学校" とは思えないし、そもそも常に使わないで居続けることも大変だから、息抜きに使う時間を決めているだけ」


 難しい内容だったが、つまりは他人が少なければ他人の心を読む能力を使えるということなのだろうと解釈した。

 もっとも、他人の心を読めるということは、もしかしたら周囲に他人が多いとそれだけ多くの様々な心の声が聴こえてしまうのかもしれない。まるで聖徳太子のようだと思った。


「周囲の全ての声が聴こえるけど、頭が処理できる数は人間と同じで少ないの。いや、それよりは少しは多いかもしれないけど、基本的には処理し切れなくなってパンクするから能力を無理に抑えているだけ。本当に何もしなければ全ての心の声が聴こえてくるわ」


 私の疑問にもあっさり答えた如月さんは風見さんを見た。風見さんが異様に体をビクリとさせている。


「だから今、風見さんが思っていることも解るし、その疑問に答えることも出来る」


 すると、風見さんは立ち上がり、そのまま部屋を出ようとしていた。誰もが逃げようとしているのだと悟りながらも、そんな風見さんの態度を否定できない。

 が、何故か私が引き止めていた。何故かは私でも解らない。

 でも、風見さんがここから逃げても良いことは無い気がした。そもそも、就寝後の出歩きは禁止されている。風見さんは私の行動に素直に驚いているようだった。


「でも、このことは喋らないし、それに対しての答えも言わないから安心して?」


 如月さんはそう言って笑顔を見せていた。

 私と風見さんはほぼ同時に如月さんを振り返っている。


「人間も同じでしょ? 例え他人の気持ちが解っても、それを言わないことで、他人を守ることが出来る。気持ちには個人情報が多く含まれるからね。この場で答えを言えば、その答えからも個人情報が出てしまうことになるでしょう? そんなことはしないわ」

「そういうことを言って、情報屋として儲けたいだけだろ?」


 遠音のツッコミに如月さんは失笑を返していた。

 ということは、それが如月さんの今の発言に対しての "答え" なのだろう。


 私が風見さんを見ると、風見さんは唖然としていた。

 が、不意にクスリと笑って元の場所に戻ってくれた。


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