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018 ☴ 修学旅行・1日目①

 修学旅行の当日は、早朝から生憎の天気だった。

 私が家を出る頃には小降りまでには治まっていたものの、貴曰くこれから都内は土砂降りになる予報らしい。

 一緒に溜め息をつきながらも貴と共に里を出た。


 学園の敷地の前でバスに乗り込む手筈だったので、そこまでは貴が私の大きな方の荷物を持って来てくれた。

 貴とはバスの前で分かれ、貴が見えなくなるまで見送る。

 その後で、その荷物を持ち上げて動かして隅に寄せた。


 バスは来ているものの、担任の点呼があるまでは中に入れないらしい。

 なので、添乗員や運転手らしき人達が話し合いをしているバスの傍で待つ。


 幸か不幸か、その間、雨は一時的に止んでいた。



 しばらくして美川先生がやって来た。

 私が一番乗りで驚いたらしく何か言われていたが、私としてはあまり気にせずに、1組が乗り込む予定のバスの添乗員に荷物を渡してさっさと乗り込む。


 バスの席は班ごとに分かれていて、予めあの時のじゃんけんで勝った順から好きな場所をとっている。円がとった場所が出入り口のすぐ上の席だったので、前から2列目の窓際に座った。

 というのも、円と瞳は確実に1列目に座るだろうし、あのロッカーでの件から理解しているらしい如月さんは瞳と距離を空けて3列目を選ぶと思ったから。


 他の組の生徒をバスの中から眺めていると、次第に雲の切れ間から太陽が覗き始めていた。これから土砂降りになるのか解らないような青空が広がっているように見えなくもない。

 途端に生徒の数が増え始めた。



 しばらくして、宮本さんと一緒にその取り巻きがやって来る。その宮本さんが外に居た美川先生に捕まっている間にも、取り巻きが荷物を渡してさっさとバスの中に入って来た。

 一気にバスの中が騒がしくなる。


 一方、宮本さんは少し渋い表情をしていた。

 そしてその表情のまま、美川先生と話しつつ荷物を渡してバスに乗る。


「風見さん、」


 まさか名前を呼ばれるとは思っていなかったので目を丸くしていれば、宮本さんは私と真っ直ぐに向き合える位置まで来て続ける。


「風見さんの相方の佐藤さんが、忌引で今日は来られないみたい。明日も未定だって」


 なるほど。通りで美川先生が先程から電話をかけていた訳ね。

 納得して頷き、私は宮本さんを見上げてから答える。


「円と瞳と、如月さんには私から話しをしておくわ」

「一応、班を変えた後半から合流する予定だから、それまでは咲九 ―― 如月さんと隣でも大丈夫?」

「私は大丈夫」


 それよりも如月さんが心配だけど、とは流石に言えなかった。


 宮本さんは手荷物を後ろの方の取り巻きに渡してから、またバスを降りて行ってしまった。

 なので、しばらく取り巻きの話しを遠くに聞きながらも、外の様子を見ていることにした。



 しばらくして更にクラスメイトが増えてきた頃に、やっと如月さんが現れた。

 驚くことに円と一緒に居る。そして珍しく瞳の姿が無かった。


 しばらく私が眺めていると、どうやら視線で気付かれたのか、円が私を見上げて来た。

 円がどこか嬉しそうに手を振ってくる。

 順番で荷物を渡し、先に円がバスに入って来た。


「今日と明日は純も同じ班でしたわよね?」


 嬉しそうに円は訊ねて来たので頷いてから答える。


「そうね。あと如月さんも」

「話しは聞いたわ」


 そう言いながら如月さんもバスに入って来た。

 そして円を1列目の窓際に軽く押入れ、その隣に如月さんが手荷物を置いている。


「佐藤さんは忌引で、来生さんは仕事の都合で今日は来られないみたい」


 これには私が驚いていた。

 つまり、私達の班は3人ということになる。


「瞳は、明日には合流する予定ですわ。今日は3人だけで楽しみましょう?」


 うふふと嬉しそうに手を合わせて円は言っていた。

 如月さんが無表情のまま頷いたので、私も習って頷き返していた。




 修学旅行の予定では、道中寄り道をしながらバスで北都地方の庫市まで行き、その旅館で1泊。

 庫市の名所を巡って1泊目と同じ旅館で2泊。

 早朝にバスで発ち、北都で有名なアトラクション・テーマパークの近く(自由行動中なら中に入っても良いらしいが別料金)で遊び、近くのホテルで3泊。

 近くを散策した後に駅で集合し、新幹線で東都駅まで戻って来て解散、という流れだった。


 これは女子校側で、男子校側はこれの逆を辿ることになっている。


 自由行動は何をしても自由だったが班ごとで動くことが鉄則で、迷子になった時の最終手段は先生の携帯に電話をすることだったが、この旅行中も(校則なので)携帯を所持していても通話を含めた使用は出来ないことになっている。



 最初のサービスエリアでお手洗い休憩の予定だったので出発時から眠っていれば、そこまでは30分ほどで着いてしまっていたらしい。


 早くも円と如月さんが先陣切ってバスを降りて行ってしまっている。それに続けとばかりに、半数以上のクラスメイトはバスを降りていた。

 中には酔ったらしく、外で美川先生に介抱されている子も居る。


 どこにでもある、普通の光景だった。


 しかし、私はどこかで不安に思っていた。


 この修学旅行のことは、きちんと死神様に許可をとっている。もちろん、胸元に宝石は埋め込まれている。

 皆と一緒に温泉に入ることは出来ないのだが、万が一にもこの宝石のことがバレたら何て思われるのだろう。一様におかしいと思われないだろうか。

 それに、もし私が少しでも本気で走ってしまったら宝石は割れてしまうだろう。そうなれば、下手すると私は二度とこの学園に戻れないかもしれない。

 最悪、やっと学校に慣れ始めた貴にも影響は出る。それだけはどうしても避けたかった。


 そんなことを思っていると、色んな心配をよそに、円と如月さんが仲良く戻って来た。

 手には串カツのようなモノを持っている。

 確かに買い食いは禁止されてはいないが、学園のイメージ的にはあまり宜しくもない。


 その1つを、如月さんが何故か私に渡してきた。驚いている間にも、円はさっさと自分の席に腰を下ろしている。


「ここの名物、串エビカツですわ!」


 そう言いながらも円は既に食べているようだった。カツの衣を齧る音がこちらにも聴こえてくる。

 如月さんは自分の椅子の上部から私に顔を覗かせて微笑んだ。


「麻生さんが前から食べたかったモノらしいよ?」

「そうなの?」

「私はエビが大好物ですの!」


 円にしては珍しく口に入ったまま私にそう答えてくれていた。なので私もクスリと笑ってしまう。

 そんな私を見た如月さんは更に笑顔になって私に訊ねる。


「お手洗いは大丈夫? 寝ていたようだったから、起こさずに私達だけ行ってしまったのだけど?」


 心配してくれていたらしい。私は軽く頷いて答えた。


「えぇ、大丈夫よ。それよりも、このお代を ……」


 エビカツを貰ってしまったのだから悪いと思っていたのだが、如月さんは頭を横に振ってくれていた。


「ううん、それは私が勝手に買って来たモノだから、気にしないで。むしろ、エビは食べて大丈夫? アレルギーとか、」

「それは大丈夫だけど ……」

「なら、貰って頂戴。何か不安そうな顔をしていたけど、それ食べて元気出して?」


 どこか嬉しそうに如月さんは言い、そしてタイミング良く入って来た永瀬さんを振り返ってしまった。

 永瀬さんにエビカツを見せつけているが、永瀬さんはエビが嫌いらしく、代わりに後ろからやって来た岸間さんと本谷さんが笑いながら永瀬さんをおちょくっていた。



 バスが進むほど天気は快晴になってゆき、寄り道をした全ての場所で良い天気に恵まれた。

 陶芸体験をして、自由行動は如月さんオススメの風変わりな喫茶店に入ってイチゴスパゲッティや抹茶ハンバーグを食べて、バスの中でレクリエーションをして、その後の空いた時間で隣の班と合同でしりとりをやって。



 あっという間に時間は過ぎて、いつしかバスは、夕日で赤く染まる湖畔と旅館の間を走っていた。



「ここは戦後から立ち並ぶ老舗の旅館が多いの」


 私が窓の外を見ていたら、唐突に如月さんがそう説明をしてくれた。

 窓に反射して見えている円がふーんと言ってから私と同じく窓の外を見る。


「どの旅館も山から温泉を引いてあって、旅館同士で争いが起こらないように金額もほぼ統一されているらしいわ。もっとも、部屋数とサービスによって差はあるみたいだけど」


 そう言いながらも、如月さんは円の脇から外に向かって何かを指し示した。


「あの湖畔の向こう側の3軒、同じような白い建物、見える? あの右側か左側が、私達が泊まる予定の旅館ね」

「調べて来たの?」


 私の質問に如月さんは『ん?』と小さく言ってから答える。


「小学校の林間学校で泊まった曰く付きの旅館だから覚えているだけよ」

「曰く付きですって?」


 これには円が過剰な反応をしていた。しかもどこか嬉しそう。

 如月さんが頷く。


「うん。未だに、あの裏側に戦時中の防空豪が残されてあるの。中は巨大な迷路になっているから、一度入ったらなかなか抜け出せない挙句に、あそこで戦死した霊が自縛霊となって数多く居るから、例えそういうことに慣れている除霊師でも滅多に近付かないらしいよ」

「ひぃっ! そんな旅館に泊まるなんて!」

「旅館は全く問題無いよ。それに、その防空豪の入口は既に封鎖されてあるはずだから、侵入しようとしない限りは入れないようになっていると思うわ」

「そこは曖昧なのね?」

「私が小学生で行った時に、防空豪の入口がその大きな扉の設置工事中だったから、今がどうなっているのか私も解らないのよ」


 そう言った如月さんは手を下ろし、代わりに椅子の間から私の様子を覗いて来た。


「気になって聞いた時には、深層部以外は除霊してから扉を付けて封鎖する、と言っていたから、例え傍まで行ったとしても引き込まれることは無いと思う。ここの自縛霊は "生きて欲しい" という願いを持っているのが大半だし」

「自縛霊って、悪いイメージしかないですわ」


「思う以上に良い奴よ?

 人間に意地悪はするけど命までは奪わないし、むしろその土地のことなら何でも知っているから、迷子になった人間に道案内をしてくれたり、怖がる人間に灯りを探して来てくれたりするわ。

 もっとも、そこまで優しくされる前に相手が逃げ出してしまうのだけど」


「ですわね」 「解る気がするわ」


 円と私はほぼ同時にそう答えていた。



 旅館に着いてから建物を見る。

 3組と4組が右側の建物で、私達は2組と一緒に左側の建物のようだった。左側の建物は少しだけ煌びやかな装飾がされていた。


 その中央の建物の中(フロントと呼ぶらしい)で組ごとに分かれ、担任から班のリーダーが部屋のキーを受け取る。

 18時の夕食までは、旅館内で自由行動という説明を受けてから部屋に向かった。


 私達の部屋は、その左側の建物の中でも更に左側の角部屋だった。

 とは言っても3階で、下の2階の部屋には添乗員さんが宿泊する部屋があるし、上の4階には2組の班が居る。また、すぐ隣には階段があり、降りてすぐの1階には大浴場の入り口や自販機があったので、人の気配を近くに感じられる部屋だった。


 しかも、隣の部屋は幸か不幸か岸間さん達の部屋らしい。円と岸間さんが仲良く口論を交わしていた。

 ちなみに、変化が無いと寂しいという理由から、明日は3、4組と交代で右側の建物に移動する予定らしい。



「疲れましたわねー」


 円はそう言いながら、部屋で最も見晴らしが良いだろう窓際に荷物を置いて、その近くにあった椅子に既に腰をかけていた。そして窓の外に広がる美しい湖畔の夕焼けを眺めている。

 円だからこそ絵になる光景だった。


 一方、私の後から部屋に入った如月さんは失笑している。


「お姉さんは口論していたから疲れたのでしょう? 私は喉が渇いたわ」


 そう言いながらも、如月さんは荷物を入ってすぐの左側の壁際に置き、早くも右側のポットの傍まで足を運んでいる。

 と、如月さんは円を振り返る。


「緑茶か紅茶、どっちが良い?」

「作って頂けるのでしたら、紅茶で」

「えー…… まぁ良いけど。風見さんは?」


 如月さんの荷物の傍で薬を探していた私は殆ど聞いていなかったので、思わず手を休めて如月さんを見つめた。

 如月さんが紅茶のパックと緑茶のパックを翳して首を傾げる。


「どっちが良い?」

「緑茶で」

「うん、解った」


 そう言いながらポットに向かい、湯のみに紙パックを入れていた。

 手探りでやっと薬を探し出して引っ張り出せば、如月さんが中央のテーブルに私と円用の飲み物を置いてくれていた。

 そして一度戻り、如月さん自身の湯のみを持ってテーブルに置いて座る。


 なので私は薬を持って、その置かれた湯のみの場所に座った。紅茶も湯呑に入っているあたりがおかしかったが、表情には現れていないと思う。


「何の薬?」


 斜め向かいの如月さんが興味を持って訊ねて来た。

 聞かれたく無かったが、仕方ない。


「魔力を抑える薬。これが無いと、たまに魔力暴走を起こしてしまうの」

「暴走には理由があるのだけど、」

「あまり深入りしない方が良いですわ」


 如月さんが答えている途中でビシッと円がそう答えてくれた。

 私が安堵して溜め息をつくと、如月さんは何か悟ったのか一度は口を閉ざした。が、すぐに口を開く。


「答える必要はないけど、魔力が暴走を起こす理由は大きく分けて2つしかないの。

 1つ目は、他者から魔力を注がれている場合。

 2つ目は、他者から魔力を制限されている場合。

 どちらにしてもあまり良いことでは無いわ」


「…… それ以上、深入りしないで下さる?」


 こちらを振り返った円が、少し怒り口調で如月さんに言い放った。

 如月さんが溜め息をつく。


「大丈夫よ。それ以上は言わないし、聞かないから。それに、私に悪気は無かったの。嫌な思いをさせたのなら、ごめんなさい」


 そう答えた如月さんは、少し寂しそうに湯のみの湯気を見つめていた。

 円はフンッと窓を振り返ったが、私は如月さんにそこまで言わせたかった訳では無かったし、そもそも如月さんは、あの兄上ですら手を出さない相手。

 もしかしたら、兄上から何か事情を聞いて居るのかもしれない。


「良いのよ、円」

「…… 純?」


 唐突にそんなことを言った所為か、円が驚いて私を振り返っていた。

 私は如月さんを見つめる。


「如月さんは神様なの?」


 またも唐突な質問をした所為か、如月さんが驚いた様子で私を見ていた。円も目を丸くしている。

 が、如月さんはすぐに表情を戻して口を開ける。


「…… うん。まぁ、そうじゃなければ、魔力が暴走する理由なんて普通は知らないと思うけど?」

「それなら、如月さんはどうして学校に通っているの?」


 前に中卒の兄上が、学校に通うのは無知だからだと言っていた。だから高校も大学も行こうとしている私は無知なのだと思っている。

 だけど、如月さんは兄上と同じように神様なら、無知ではないから通う必要はないはず。


 すると、如月さんは何を思ったのか声を上げて笑っていた。私は驚いて目を丸くしてしまう。

 これには円も驚いているようだった。


「そもそも、人間と神の違いって、解る?」


 如月さんは逆に私に質問をしてきた。私は悩みながらも答える。


「記憶している量と、魔力や霊力を蓄えられる量と、あとは ……」

「違う、違う。圧倒的な差があるの」


 そう言って如月さんは自身の胸元を指す。


「人間はここに心臓があって、血を循環することで肉体を保ち、生きているでしょう?

 でも、神には心臓が無くても生きていけるし、そもそも体を必要としていないの」


「待ちなさい。それでは、まるで幽霊ですわ」

「そう。その概念だけで言えば幽霊と大差ないのよ」


 そう円に言い切ってから、如月さんは再度、胸元に注目するよう指で示していた。

 私の胸元の宝石と同じ箇所。


「人間でいう心臓の代わりに、神には "核" とか "コア" とか呼ばれている、見た目には宝石のようなモノを持っているの」


 宝石と言われて私はドキリとしたが、如月さんには気付かれなかったのか続けられる。


「その宝石のような核が心臓であり、最も小さな肉体でもあるの。ただし、普段はその核を隠す為に人間と同じような肉体を持っているだけ。又は、人間として生を受けてから何らかしらの影響で後から核を入手した。

 どちらにしても、肉体的には人間と大差ないわ」


「それがどう学校に通うことと繋がっているというの?」


「核には様々なことが記憶されているし、神が宿る肉体は丈夫であることが多いから、確かに普通の人間よりは、神は知識的にも肉体的にも大人だと言われるわ。

 でも、全てを記憶している訳ではないし、そもそも時代は日々、進歩しているでしょ?」


 如月さんはそう言いながら、今度はテーブルの上の照明を手元のリモコンで点けていた。

 いつの間にか外は暗くなっていたらしく、点けられた照明はかなり眩しく感じられた。

 円が気付いてカーテンを半分くらいまで閉めてくれている。


「この照明は、長持ちするLED。古い核の記憶の中にあった照明器具はロウソクよ? 蛍光灯でも無いのよ?」


 私は思わず吹き出しそうになった。

 円が唖然として如月さんを振り返っている。


「つまりは、それだけ時代錯誤があるということ。だから、確かに他の人間よりも万能ではあっても、前の記憶によっては現代の流れとは異なることがある、ということよ。

 その点、学校は最も近代的な情報が集まっていると思うの。その途中の歴史も教えてくれるし、人間としての肉体を鍛えられる授業もある。まぁ、私は参加出来ないけどね」


「そうね、間違ってはいないわ」


 私の言葉に如月さんは微笑む。


「だから学校に通うの。それに、学校には様々な人間が集まるから次々に新しい情報が舞い込んで来るし、ね」

「その話しですと、如月さんが神様ならば、核をお持ちしているということですわよね?」


 不思議そうに円が訊ねれば、如月さんは頷いて円を見た。

 円はいつの間にかトランプを手にしている。それだけで察したらしい如月さんは失笑を返した。


「持っているけど、見せられないよ?」

「それが神様の弱点になるのですわよね?」


 そう言って円はこちらに向かって来た。そしてテーブルの広い所の中央あたりに腰を下ろす。

 如月さんは嬉しそうにふふふと何故か笑っていた。


「それ以上は流石に言わないわよ。こういうことを情報として提供する仕事をしているからね。

 でもまぁ、1つ言えるとすれば、弱点ではないの。確かに核を奪われると困るけど、困る程度で大きな問題では無いし、そもそも核は頑丈だから簡単に壊れるようなモノでもないから」

「いくら出せば教えて頂けるのかしら?」


 円は本気だったらしく、今度は手でお金の形を現しているあたり、如月さんに交渉を持ちかけているように思えた。

 が、如月さんにその気は無いらしい。両手をワザとらしく上げていた。


「ここは学校ではないけど、学校に居る時はどんなに積まれても応じないことにしているの。申し訳ないけど」

「少しくらい良いじゃない」

「それ以上、このことで交渉しようっていうなら、今まで話していたことの記憶を消すわよ?」


 如月さんはそう言って金色の目で円を睨んでいた。


 ―― 金色の目は、神様の証し。


 前に母上が言っていたことだった。

 私は驚きつつも円の様子を窺った。円は諦めたのか、溜め息をついてトランプをテーブルの上に出して来る。


「その目が、如月さんが神様である一番の証拠ですわね。能力では神様には敵いませんわ。…… ですが、こちらは如何でしょう?」

「トランプ、ねぇ」


 如月さんは目を細めて嫌そうな表情をしていた。


「それで勝負をして、私が負けたら話せと、そういうあたりならやらないわよ?」

「あら。初めから負けを認めるのかしら?」


 円はそう言いながらもトランプを切り始めている。円らしい挑発の仕方だと思いながらも、かなり昔に言っていた兄上の言葉を思い出す。『それが遊びであっても本気で勝負するのが風見家の仕来りだ!』と。


「神様が負けを認めるなんて!」


 今度は円も本気ではなかったのか、演技だと解るような感じに言っていた。

 如月さんが嫌だなぁ、という表情のまま円を見ている。


「言っておくけど、神が絶対に勝つと決まっている訳じゃないのよ? 確かに運は強いけど、大半の神は能力というイカサマをして凄いと思わせているだけで …… ねぇ、聞いているの?」


 如月さんが言っている間にも、円は早くも各々の前にトランプを分けていた。円はうふふと、どこか嬉しそうに如月さんを見ている。

 如月さんは諦めたらしく、手前の山を手にしていた。


「仕方ない。勝ちますか」

「イカサマなら見抜いて差し上げますわ!」

「待って。そもそも円は何をする気なの?」


 私が手前に積まれた山を見ながらツッコミを入れれば、円はうふふと、尚更嬉しそうに同じ数字のカードを2枚ずつ、計6枚をテーブルの上に出している。


「ババ抜きに決まっていますわ!!」


 その言葉に、私は失笑してしまっていた。



 悔しそうにする円を後目に18時の10分前になったからと、さっさと1人だけ上がって如月さんは自分の鞄と睨めっこしている。

 5回ほど行ったババ抜きは結果的に如月さんの完封勝利で、最後は私の敗退で終わりを告げた。


 3人揃って1階に降りれば、道中に居た美川先生に食事をする部屋の名前を教えてもらって、どの班よりも一番に食事処にやって来ていた。

 班ごとに座っていれば席は自由らしいので、円は率先して奥の壁際の、恐らく先生達が座ると思われる席に最も近い場所を確保していた。

 なのでその隣に私が座り、円の向かいに如月さんが座った。


 早くも円が器の中の料理を見ようと蓋を開けていたが、中にはまだ何も用意されていなかったらしい。小さく舌打ちをしていた。


「何のための蓋ですの?」

「器の中に埃が入らないようにしていただけかと」


 私はそう答えながらも、蓋の上を指で触ってみた。蓋には埃が少しだけ付いていることから、結構前から器が準備されていたのだと思った。

 如月さんは失笑している。


「確か名物は釜飯だったはず」

「お米の産地でしたわね」

「あと、湖畔で取れる川魚」


 円の呟きの後で私が答えれば、如月さんは頷いてから口を開ける。


「他にも、この時期なら山菜があるわね」

「何ですって?! 山菜の天ぷらなんて出されたら何杯でもご飯が食べられますわ~」


 うっとりとしながら円は言っていたが、これには流石に私も如月さんもツッコミを入れる気力を失くしてしまっていたらしい。


補足です。円は紫よりも御飯類が大好きっ子ですが、普段は役作りのため食事制限されていて自由に食べられない、という設定だったりします。

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