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014 ▲ 変化の兆し⑤ *

「で? 例の変な団体はどうだったん?」


 帰って来て早々、山田さんにそんなことを訊ねられていた。


 今日は図書委員会の活動日だったため、本の整理をしに図書館にやって来ていた。

 私が居たのは図書館のセキュリティがある入り口のすぐ脇の棚だったために、異様な剣幕で入って来た同じ委員会の子の報告によって委員長が出て行ったことも、その後にやって来たダンス部の生徒のことも、この図書館から見送っていた。

 しかし、いつまで経っても帰って来ない。

 だから心配になって図書館を出て、変質者の団体の様子をバレないように覗き込んでいた。そこに同じクラスの宮本さんがやって来て飲み込まれたものだから、つい慌てて能力を使ったためにバレてしまい、仕方なく近くに用意されていた(恐らく大食堂の2階で使用される予定だと思う)鉄板で殴った、というのが事の顛末ではある。

 もっとも、まさかこの私が、香穂里以外の他人を助けるために能力を使うとは思ってもいなかったのだが。


 ちなみに、向かいに居る2組の山田さんは編入生で如月さんの親友らしく、その山田さんとペアを組んでいるのが紫だった。

 紫は山田さんに1つ1つ、やり方を教えてあげている。なお、私のペアの相方は部活に行ってしまっている。


「貸し出しから戻って来た本には、たま~に司書さんが記名カードを入れ忘れていることがあるから、こういう奴は司書さんに戻して入れてもらってから、棚に戻す …… んだけど、それでもたま~にミスがあって入っていないことがあるから、そういう場合は腕に付けた輪ゴムを付けて、棚の脇に放置しておく!」


 紫はそう言いながら本をぶん投げていた。


「ちょっ?! 本は投げちゃダメ!なのデショ!!」

 私が思わず小声で注意をすれば、今にも投げようとしていた山田さんの手が寸でで止められていた。危うく投げられてしまうところだったらしい。

 私は静かに本を棚の脇に置きに行く。


「本当はこうやって置くのが正しいのデショ。紫はもっと優しく本を労わってあげて!」

「へいへーい!」


 そう言っている間にも、紫は私に本をパスしてくる。しかも輪ゴム無しで。


「…… ゆーかーりー?」


 私が少し睨めば、紫はテヘペロッと可愛く舌を出していた。

 山田さんは私に本を直接手に渡してくれる。


「変な団体さんは、どうだったん?」


 これで2度目の質問だったので、流石にスルーしたらいけないのだと悟った。なので溜め息をついてから答えてあげることにする。


「一応、証拠になると思って黒い仮面?みたいなモノは触ってみたんだけど、砂になって消えちゃったんだよね。まぁ、ただのオカルト集団では無かった …… という感じデショ」

「それなら知ってるで」


 山田さんはそう言いながら、自分の鞄の中から適当なプリントを取り出していた。そのプリントの裏に、鞄のポケットに付いていたペンで絵を描いていく。

 そのデッサン力が凄まじい。美術の時間に2組の編入生が素晴らしい絵を描いていた、とは風の噂で耳にしていたが、ここまでとは思ってもいなかった。思い出しながら描くというより、一度描いたことがあるという感じが伝わって来る。


「うーんと、こんな感じじゃなかった?」


 その絵は、まるで私が見た団体そのものだった。

 私が口をぽかーんとさせていると、その表情を覗き込んだ山田さんが歯を出してニカッと笑う。犬歯が可愛らしいが、内心ではドギマギしている。


「どうして解ったのデショ?」

「ウチの住む神社が、こういう団体に、何故か解らんが何度か襲撃されとるからなぁ」


 そう答えて山田さんはプリントをしまった。紫が何故か、少しだけ曇った表情をさせている。驚いて私は紫を見てしまっていた。


「紫?」

「…… え? 何?」


 私が思わず訊ねれば、紫はいつも通りのパッとした笑顔を見せていた。

 恐らく紫は何か知っているのだろうと思い、私はしばらく警戒することに決めた。山田さんは既に作業に戻っている。


「んまぁ、気にせんことやね。気にするとハゲるって言うやろ?」

「そう言えば、ヤマダンは能力者決定戦、参加するのー?」


 紫が明らかに話しを変えようと、かなり場違いな発言をした。が、山田さんはあっさりとつられたらしい。目を輝かせて紫を見ていた。


「何それ?! でたーい!!」

「知らんのか。読んで字の如く、超能力者同士の決定戦だよー」


 そう言いながら、紫はどこからか持って来たらしいチラシを山田さんに渡していた。


「まぁ、去年も一昨年も、香穂里が優勝を持っていっているけど」

「カホリ?」

「ボクと良く一緒に居る1組の生徒デショ」


 私が教えてあげれば、山田さんはおおーっと声を上げていた。

 正式な名前は『校内一のツワモノを決定!!超能力者決定大戦』という、超能力者を受け入れている学校では当たり前のように行われている国際公式の大勝負らしい。詳しいことは解らないが、香穂里は中学1年生の時からずっとその優勝を獲得してきている。(私は見ている方が好きなので敢えて参加はしていない。)


「あの子が …… 校内一の能力者なん?」


 山田さんが不思議そうに私達を見ていた。しかし、どこか楽しそうでもある。


「そうだよー。でも、私の中では如月さんも強そうだなって思っているけどねー」


 紫の言葉に山田さんは表情を一気に暗くしていた。むしろ怒っている、が正しいのだろうか。

 紫が慌てて訂正しようとしていたが、一歩先を山田さんに取られてしまう。


「咲九は絶対にこーいうのには出ーへん。咲九は勝ち負けが嫌いなんよ」

「ふーん。じゃぁ、如月さんは出ないのか ……」

「…… あと、あんまウチの前で咲九の話題はせんといてぇ」


 そう言いながら、山田さんは本棚を片手で持ち上げていた。元々、少しは揺れていた小さめの棚とはいえ、今は厚めの本が両面にいっぱい並んであるというのに軽々と持ち上げてしまっている。


「あわわわ ……」

「ひぃっ?! ごごごごめんなさーいっ」

「…… 解ればええ」


 山田さんは元の位置に棚を置いた。


「実を言うとなぁ。咲九と勝負して1回しか勝ったことがないんよ。しかも、その時の咲九の負け方はウチを蔑ろにしたような感じがしてて嫌なんよ …… もう1回勝負しようにも、咲九が本気を出さん」

「あーでも、何となく、如月さんの気持ちが解るかも」


 そう答えたのは紫だった。

 山田さんが不思議そうに紫を見ている。


「何で?」

「勝負って、要はどちらが上でどちらが下かを決めることになるじゃん? もし如月さんがヤマダンを親友だと思っているなら、そもそもヤマダンを傷つけたくないし、ましてや上とか下とか、そういう決まりを付けたくないんじゃないかなぁ。ウチも、もし大切にしている人と勝負しろって言われたら、その時にならないと何とも言えないけど、恐らくウチが負けを認めることになると思う」


 もし私が香穂里と戦うことになっても同じことをするだろうと思う。もっとも、香穂里も私には手を出しにくいと思う。そう思えば、如月さんのやっていることは至って普通のことだと思った。

 しかし、この説明でも山田さんは納得していないらしい。うーんと頭を捻っている。


「解らん」


 その一言で、山田さんは如月さんに対して、親友よりもライバル心の方が大きいのだと感じていた。

 そして2人の会話を聞く限り、山田さんと紫は凄く相性が良いような気がした。




 図書委員会の仕事が終わり、いつも通りなら香穂里がロッカーあたりで待っていてくれるのだが、たまに居なくて代わりに手紙が置いてあるようなこともあった。今日はそんな日で、香穂里は用事があって先に帰ってしまっていた。

 なので、先に行こうとしていた山田さんと紫を引き止めて一緒に帰ることにする。


 学園の最寄り駅は全部で4つあるため、道中で紫と分かれた私達は、大半の生徒が使う人気の高い最寄り駅に向かって進んでいた。人気が高いのは単純に様々な路線が入り乱れているからであり、4つの駅の中で2番目に遠いために、中には電車で大回りをしてでも近い所を選ぶ生徒もいるらしい。


 その主な話題は本のこと。山田さんもかなり本が好きらしく、コアなファンを持つ『乙乃』という著者がお気に入りらしい。そういう私もその著者は好きだったが、どちらかといえばその著者が尊敬するという『麻生俊語』という方に憧れを持っている。

 そんな会話を続ける内に、あっという間に駅が近づいて来ていた。入り口から更に構内を10分ほど歩かないと私の乗る路線の改札口は無い。一方で山田さんは早ければ1分ほどで電車にまで乗れてしまうらしい。


「そういえば、ウチが黒い仮面の集団のことを聞いた時、紫が反応していたやろ?」


 急に話しを変えられたので、私は少し驚いてしまっていた。


「紫が紗穂に手を出すことはせんよ。だからあんま深く気にしなくてええけど、紫は現状で敵側の内通者や。あんま紫の前で能力を使わん方がええ」

「敵って ……」

「まるで今日の変な集団が紗穂を狙ったかのようだ、って?」


 山田さんはそう言いながら私の前に飛び出て私を振り返る。


「そやで。様子を窺っていた紗穂に能力を使わせるために、奴らはわざと生徒を巻き込んだ。もしくは、生徒を操って利用した。まぁ、そういうとこやろ」

「生徒を操る? あの仮面で?」

「そや。あの仮面を着けられると一様に同じような格好になり、更に自我が残っていても、通常の悪意を快感に思えてしまう厄介な代物 …… しかも何人でも操ることが出来てまう」


 そう答えた山田さんは、紫と同じく何か事情を知っているように思えた。


「仮面が外れたら記憶は消されてまうし、外れなくても操り手の指示で一般人に戻らせることは出来る。挙句、仮面は外れたら塵と化す。調べようにも証拠が残らん。本当に厄介なんよ、アレ」

「…… やけに詳しいデショ?」


 私の一言に山田さんは目を丸くしていたが、やがて溜め息をついていた。


「アレに操られていたことがあるんよ」


 と答えて定期券を出していた。山田さんの路線の改札口はもう目と鼻の先にある。


「一度あの仮面に操られた者は、操り手が前以上の強敵では無い限り、二度とあの仮面に操られることはあらへん。あと、"神" として目覚めればあの仮面は効かへん」

「じゃぁ如月さんは効かないのデショ?」


 と言ってしまってからハタと気付いたが、既に遅い。

 山田さんは少し顔色を暗くさせてしまっていた。


「( …… まぁ、今の場合はええけど。)そういうウチも、ウチが知っとる限りあの操り手よりも強敵は知らへんから、恐らくもう操られることはあらへん …… と思うよ」

「…… あれ? ちょっと待つデショ? ということは、操り手は何人も居るってこと?」

「せやから忠告しとるんやろ?」


 山田さんはそう言って下手なウィンクをした。私は顔を真っ青にさせる。

 もしも操り手が全人類を操ることになれば、私達は誰にも気付かされることが無いまま生活を送ることになる。今日はまだ学園内の生徒だったから少人数だったものの、これが都心の、例えば新宿のような場所だったら、私の力だけでは対処出来なかったことだろう。


「香穂里さんだったっけ? 多分、紗穂の親友さんにも言っといた方がええよー」


 そう言いながら山田さんは、タイミング良く切れた人の流れから改札口の中に入って行ってしまった。私は少しだけ慌てる。


「また今度なー」


 そう言った山田さんは、後ろから来た流れに沿ってホームのある階段を降りて行ってしまった。私は茫然としながら見送る。


 山田さんが操られたということは、超能力者を操れるということに間違いない。となれば、まだ一度も仮面を着けられたことがない私もあのように操られる可能性があるということになる。

 それだけは、勘弁願いたかった。


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