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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
大襲撃からの焦燥感
100/254

100 ⛩(☴) 試験

 去年と変わらず、艶様は速かった。

 だけど、純の前では良い所を見せたいと思っていた為か、自分でも驚くほど見失わないで進めている、気はする。


 それでも厳しいと思ったのは、今も間一髪で避けた大木だった。(私の)神社の傍の林では、直径1メートルは超えているだろう大木はまず無い。ましてや、木々の合間を走り抜ける修行を疎かにし、代わりに街中を走っていただけの私では、動物や人間のオーラを感じ取って避けることは容易でも、オーラの薄い、又は壁のように見える大木を避けることはかなりきつかった。


 一方で、純は私の数メートル先を平然と進んでいる。

 恐らくは純の後を付ければ楽なのかもしれなかったが……それはそれで、純に負けた気がして嫌だった。

 純は私を気にしているのか、たまーに振り返っては道を示してくれている。だけど、私はそれに従わなかった。……いや、だから余計に大木にぶつかりそうになっているのかもしれないのだけど。


『ふむ』


 不意に艶様の声がした。

 私達はほぼ同時に艶様を目で捉える。


『面白くないのう……』


 その一言に思わずツッコミを入れそうになっていた。

 が、頑張って気持ちをぐっと抑え込む。


『そうじゃ、こうするとしよう』


 と言った傍から、艶様が3人に増えていた。


 ……え?と思っている間にも、艶様はバラバラな方角を進み出す。

 頭が追い付かずにいたものの、これに瞬時に対応していたのは純だった。


 純が右手で右を示す。


『こっち』


 言われるがまま、90度くらい右側に方向転換した純の後を付いて行く。

 すると、先程別れた3人の内の1人の艶様に、いつの間にか見える位置まで追い付いていた。


『流石は風見の末裔というところか……あっぱれじゃ』


 艶様はそう言ったかと思えば、木々の間から下に降りて行った。

 純に連れられるがままに、艶様が降りて行った場所から下に降りる。


 すると、そこはもう里の門の目の前だった。


「(あれ?)」


 私は違和感を覚えて周囲を見回す。去年と里の場所が違うような気がした。

 確か……去年は里の周囲にお堀のようなモノがあったはず。


 この里にはそれが無かった。


「おお、良くぞ参られました!!」


 そう言ったのは門番だった。

 艶様が門番に何かを伝えるのを見ながら、私はその門番に歩いて近付いて行く。


 門番は笑顔で続けた。


「去年ぶりですねー。ささ、お部屋までご案内しましょう!」

「部屋に荷物を置いたら、ワシの部屋まで来なさい」


 しっかりとした口調で艶様はそう言って、先に里の奥へと進んで行ってしまう。

 だけど、それもいつも通りだった。


 だから私は先程の違和感など忘れて、門番に案内されるがままに付いて行く。




 6階の日当たりの良い部屋のようだった。

 いつもよりも良い部屋だと感じつつも、窓際まで向かって荷を下ろしながら外を見れば、里が綺麗に一望出来る部屋だということが解った。


 里の門は北と南に1ヶ所ずつで、外部用の宿舎は里の東側にあたる。

 入って来たのは南の門だけど、修行の時は櫓付きの北の門を使うことが、この里のルールになっている。


 そんな説明をしつつ、純と共に艶様の住まいがある離れに向かった。


 離れと言っても外部用の宿舎のすぐ脇にある藁葺き屋根の小屋のような建物で、いくつかある内の一番大きなモノを指している。

 純が何も言わずに付いて来たことからも、すぐに見て理解したのだと思った。


「失礼します」


 私がそう言って中に入る。

 扉は無いものの結界によって仕切られた内部は、外側から見たよりも想像以上に広く感じられた。


 純は部屋を見回して、呟く。


「空間圧縮の応用……」

「流石は風見の末裔……面白い子が来たものよのう」


 カーテンで仕切られた奥から艶様の声が聴こえた。

 純は何もかも、風習すら理解しているかのようにカーテンに向かってお辞儀している。


 むしろ、私の方が出遅れてしまっていることに気付き、同じように頭を下げた。


「畏まらなくても良い……大昔は、風見家とも繋がりがあったものじゃ」

「大昔……ですか?」

「もう100年以上は昔のこと。恐らくは、もう誰の記憶にも、記録にも残ってはいないじゃろう」


 純の疑問に答えた艶様はふぅと溜め息をついていた。


「奴が生きているならば、話しくらいには耳にしたこともあったじゃろうがね」

「奴、とは?」

風見 千春(ふうみちはる)という男じゃよ」


 名前を耳にした純が驚いた様子で頭を上げる。

 そんな純の行為に、私の方が驚いてしまっていた。


「それは……!」

「ソナタの亡き祖父じゃろう?」


 艶様はケタケタと笑い、そしてまた溜め息をついた。


「ソナタらを呼んだのには、理由がある。もう時効だと思ってな……その昔の話しをしようと思う」


 その艶様の発言に、何故か私達は目を合わせ、唾を飲み込んでいた。


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