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010 ☴ 変化の兆し③

 何も無かった放課後に、私は独り、2階分の図書館の上にある大食堂にやってきていた。

 普段なら、ここの2階席の見晴らしの良い場所を円が占領していることは、前々から知っていたこと。


 今日も案の定、見晴らしの良い席で円は外を見ながら独りでボーッと座っていた。珍しく、瞳の気配は近くに無い。

 私が円の向かいに座れば、円は気付いてこちらを向いた。


「あら? 珍しいじゃない」

「どういう意図があったの?」


 修学旅行の班分けで、幸か不幸か、1~2日目に私は円と瞳と、そして如月さんと同じ班になってしまった。本当は他の班に行きたかったのだが、班選びの2人組での最後だった私達は、余っていた円達の班に合流するしかなかった。

 もっとも、円と瞳と私は、幼馴染ではあるらしい。しかし、私の記憶が小学生のある時で途切れている為に、私はそう言われているから信じ込んでいるだけかもしれなかった。記憶が無いので、完全には信用していない。


「意図も何も無いわ。私はただ、如月さんが本当に "音神" なのか、自分の目で確かめたいだけですわ。純に関しては本当に偶然なの。…… それは解って下さる?」

「えぇ。でも、如月さんが何かしらの神様であることには間違いないと思うわ」

「純も感じ取っていたのね」


 円はそう言って窓の外を向いてしまった。



 しばらく間が空く。



「…… 純は、如月さんをどう思っているのかしら?」


 不意にそんなことを聞かれた。私は不思議に思いながらも答える。


「新しい風」

「そう思うのでしたら、瞳から距離を置きなさい」


 円の言葉に私は更に疑問を抱いていた。


「どうして?」

「瞳は、如月さんを殺すつもりで動いているわ」

「ころ …… え?」


 私は驚いて円を見つめた。円は小さく頷いて私を見る。


「利用出来る者は利用する ―― それが瞳のやり方なのは、純も知っていることでしょう? 私は何とも思っていなくても、瞳は私を利用して殺させるつもりだわ。もちろん、そんな瞳の心意が見えないから私も困惑している真っ最中なの。

 だからわざと、如月さんを同じ班に入れたわ。瞳は怒っていたけど、そうすることで何かあっても他人には迷惑をかけないで済むはずよ」


 円はそう答えつつ、目をゆっくりと閉じた。

 気付けば、大食堂の入口からこちらに瞳が歩いて来る気配がする。


「まぁ、同じ班に居たら、あの瞳でも下手には動かないと思うけど。用心することに越したことはないでしょう?」

「あれ? 珍しいなー」


 瞳は他の子と喋っていて気付かなかったらしい。私を見てすぐにそう言っていた。

 むしろ、瞳の周囲に居た子の方が私に警戒している。


「どうかしたの?」

「修学旅行に何を持って行くか、という相談ですわ」


 円は平然とそう答え、どこか嬉しそうに瞳を振り返る。


「ウノとトランプは定番過ぎますわ。もっとこう、皆さんで楽しめるモノをお持ちしましょう、という私から提案をしていたところですの」


 流石に女優。嘘が凄く上手かった。そういう私も、小さく頷いていつも通り斜め下に視線を向ける。興奮の所為で頬は少し赤く染まっているが、それが恥ずかしさだと思ってくれたらしい。

 瞳は目を丸くさせていたが、どこか嬉しそうだった。


「なるほどねー。じゃぁ、オレはジェンガでも持って行こうか?」

「やだ、瞳さん! それ凄く重そう!」


 周囲に居た子にツッコミを入れられ、円も瞳もケラケラと笑っていた。

 ジェンガは一度見たことがあって知っている。思わず私も失笑してしまう。


「こういう話題は私達にお任せして、純は早く下校した方が宜しくてよ?」

「そうだよー。早く帰らないと両親に怒られるんだろ?」


 円の一言で瞳もそう言ってくれていた。

 私はどこか安堵しつつ、小さく頷いて笑顔を見せる。


「ありがとう」


 そう言って私がタッタと歩いて行く背中から、


「風見さんの笑顔って初めて見たー! 凄く可愛い!!」

「でしょう? あの笑顔を皆さんに出せば人気者になれますのに」

「もったいないねー」


 という会話が聴こえて来た。

 が、私は内心で、少しでも瞳から離れようと、少し早めに足を進ませていた。



 ロッカーまでやって来ると、何故か私のロッカーの前に永瀬さんが座らせられていた。ここまで如月さんが連れて来たのか、奥で独りだけ顔を真っ赤にしている。

 その如月さんを仰いでいた本谷さんが私に気付いてくれた。


「あ、ロッカー、そこデショ? 今動かすねっ」


 と言って永瀬さんを如月さんの方に引っ張っているが、ビクともしなかった。

 それを見ていた如月さんが四つん這いになって本谷さんの手を握れば、驚くことにそれだけで重そうな永瀬さんが手前に引っ張られている。その気の流れを辿れば、如月さんが魔力を使って本谷さんの手に力を貸していることが解った。


「おお …… 軽いデショ」


 そして私のロッカーのその隣まで見えたところで、如月さんは手を離す。しかし、ある程度は本谷さんに力が残っていたらしく、その力で数秒間ほど永瀬さんを引っ張っていた。


「ふぅ。あ、お待たせしました、デショ?」


 本谷さんの言葉で私は我に返る。


「あ、うん。

 それよりも、永瀬さんはどうして気を失っているの?」


 私の質問に岸間さんと本谷さんは何故か驚いてビックリしていた様子。が、如月さんは平然と答える。


「遠音に除霊をさせたら、力を使い過ぎて気を失っちゃっただけよ」

「ふーん」


 大して驚きは無かった。

 というのも、永瀬さんも超能力者ではある。この事実は薄々気付いていた。ただ、その能力のことに本人が気付いていないだけで、本当は凄く綺麗な気を持っている事は感じ取っていた。それに、その気はどこか如月さんに似ている気がする。とすれば、如月さんが永瀬さんに指導することは出来る。

 如月さんが永瀬さんを気にかけているのはそういう意味からではないかと思っていた。


 しかし、私が驚かなかった所為で、岸間さんと本谷さんが逆に驚いているようだった。2人は目線で会話をしている。


「それよりも如月さん、」


 私はこの場で、瞳に気を付けるように言おうとしていた。

 しかし、如月さんは頭を軽く横に振っている。


『来生さんのことでしょう?』


 それが如月さんからのテレパシーだと気付かされた。

 私は目を丸くしているが、どうやら岸間さんと本谷さんには聴こえていないらしい。2人は私の顔を不思議そうに見つめている。


 テレパシーは通常、超能力者であれば自然に聴こえてしまうものだと思っていた。だからもしこの場で使えば、岸間さんや本谷さんだけではなく、隣のロッカーに居るだろう超能力者にも聴こえるだろうと思う。

 しかし、如月さんのテレパシーは私にしか聴こえていない様子。ここまで高度な術を、私はもちろんのこと、幹部も知らないのではないかと思えた。そう思えば、兄上が如月さんには手を出すなと言った理由にも納得がいく。


「…… 班、一緒になったから、宜しく」


 私はそう言って、さっさと自分のロッカーから靴を出して履き替えていた。

 2人は不思議そうに如月さんを見たが、如月さんは頷いて答えてくれただけで、返事は無い。


 その間にも、私はさっさとロッカーを閉じてその場を急いで去る様に帰った。




 里に戻って来ると、何人かが忙しそうに私に挨拶をしながら通り過ぎて行く。


 元々この里は、外側に居住地域があり、内側に工場や実験施設、城などを構えている。

 本来なら私や弟の(たかし)も城に住めるのだが、当時は幼かった貴がどうしても居住地域に住みたいと我儘を言った為に、両親や兄上に会う為の城への出入りすら制限されるようになってしまっている。それほどまでに、城は厳重に保護されていた。


 里の子供は、通常なら居住地域に隣接する学校に通うことになっていた。そして、子供の間は絶対に里から出られない。また、里の中の子供も大人も黒塗りに目元の黒い仮面を義務付けられている。里の外に出た子供は厳重に罰せられ、場合によっては死刑にされることもある恐ろしい行為だった。そのため、携帯やパソコンは里内の情報交換のために使われるものの制限付きなので、大半の子供はインターネットという便利なモノを知らずに育つ。


 しかしながら、その中でも私と貴は例外だった。兄上の実の妹と弟であることも理由の1つではあったが、元々育ったのが里の外だったためらしい。記憶を失ってから里の中での暮らしになったため、正直言って里の外の暮らしをあまり覚えては居ないのだが、それでもインターネットの便利さは既に熟知してしまっているために、他の里の子供と同じような生活は酷であるという判断をされていた。そのため、今の学校に通うことが出来ている。

 その代わりに、学校に居る間は能力を制限されているし、17時までには帰宅することを義務付けされている。この制限と義務を守るため、胸元に誓約書代わりに封印の宝石を埋め込まれている。これは学校に行く朝に門番に取り着けられ、帰って来た時に割れていないか確認され、外してもらえる。

 外に出られるようになったばかりの大人もこの宝石を着けるらしい。もちろん、割れて居たら数日間の自宅謹慎になってしまう。このせいで、私は体育の時に誤って能力を使ってしまうことが解ったので、体育の授業には参加出来ないようにされていた。


 そんな規定があるためか、里の中しか知らない人にとっては、素顔の私達が制服で歩いている事ですぐに兄上の親族だとバレるようになっていた。だから顔も自然と覚えられてしまっている。


 居住地域の一角の、外でいう古いアパートの2階の角が、私と貴の家だった。家の中も12畳くらいで、他の人から話しに聞いているアパートという所と同じ大きさだろうか。

 玄関を入ると、すぐに貴がこちらに顔を覗かせていた。


「おかえりー」

「ただいま」


 私は安堵して答えていた。貴が伸びをしているらしい。私が奥へ行くと、どうやら雑誌を読んでいたようだった。

 ちなみに、里の中にもコンビニのような場所があり、そこには里を出られる18歳以上のための雑誌が置かれてある。18歳未満が立ち読みしようものなら追い出されるが、それ以前に術をかけられて読めないようにされてある。少しでも触れようものなら電撃が走るようにされてあるらしい。

 しかし、出られる許可が下りている私達の場合は例外的に買うことが出来た。そのため、貴は里の中の子供達から虐められていたという過去がある。


「リュウ様、かっこいいなぁ」


 その一言で私はリュウ様を思い出していた。言うか言うまいか迷っている間に、不思議に思ったらしい貴が私を見上げて来る。


「どうしたの? そんなところで突っ立って …… あ、まさか姉上、同じ学年らしいし、リュウ様にもう逢っちゃったとか? あ、でも男子校と女子校だし、逢う訳がないかぁ」

「逢ったわよ」


 そう答えてあげることにした。貴が驚いて私を二度見している。


「え? 本当に?! どこで、どこでっ?!」


 眩しいほどの目で私を見つめるその様は、どう考えてもコアなファンであることを連想させられる。貴はよほど逢いたいのか、私の足を掴んでいた。


「リュウ様が同じ学年になって、且つ超能力者だからということで、クラス代表の経験者が集めさせられたの。そこで変装したリュウ様が私達の前で本性を現したから驚いたけど」

「うそー! 良いなぁ~」


 今度はうっとりとしている。

 私はまずいなぁと感じつつも、貴が足を離してくれたので、荷物を逆側に置きながら続ける。


「でも、リュウ様が困っていたら助けるっていう話しだったから、断っておいたわ」

「何で?」

「私の傍には、貴と同じくらいファンの円が居るから」


 そう言いながら台所に向かってコップを出し、冷蔵庫から牛乳を出して注いだ。ちゃっかり貴が私にコップを伸ばしてきている。どうやら、雑誌と共に持っていって飲んでいたらしい。

 それを受け取り、私は貴の分にも注ぐ。


「円を制止する行為は地獄よ」

「まぁ …… あの人、怒った時よりも興奮している時の方が怖いからなぁ」


 なんて答えながら貴が近くの壁に寄り掛かっていた。そこにコップを持って私が戻って来る。渡したらすぐに口に運んでいた。


「それよりも、貴は友達、出来た?」

「うん! あ、そうだ! 聞いてくれよ~!」


 貴はどこか興奮した様子で私に目を輝かせていた。


「もう友達出来ないと思って諦めていたんだけどさ。通路挟んで隣の席のレンって奴が、ちょっと近づきにくいオーラを放ってたんだけど、声かけてみたら意外とひょうきんな奴でさー。しかも、俺と同じで違う小学校に通っていたんだって!」


 私の学園は、男子校の場合は半数以上が付属の小学校からの持ちあがりになる(女子校は百年続く伝統と、高台にあるという立地と、多くの有名大学に行かせているという実績から倍率が高く、持ち上がり組の半数以上が不合格で他の中学に進学しているらしい)。このため、入学してしばらく経っているというのに貴には友達の1人も出来ないでいた。

 しかし、やはり中には居るものである。


「言ったでしょ? 中には貴と同じような人が居るって」

「うん! 姉上の言葉を信じて良かったよ! ありがとう」


 万遍の笑みでそう言われてしまったら、私はそれ以上に何も言えなくなってしまう。


「で、そいつにリュウ様のことを話したら、何と! 毎日リュウ様と昼食を一緒にとっているらしいんだ!」


 それは私も驚きだった。あの演技だらけのリュウ様が他の男子と、しかも違う学年の人と食事をとっている、なんて全く想像もつかない。


「だから明日、昼食に俺も同行して良いかって聞いたら、リュウ様に聞いてみるって言ってくれたんだよー! もう、嬉しくてたまらないよっ! しかもお弁当も作ってくれるってさー! …… ま、流石にウソだろうけどさ。多分、単なるそっくりさんだと思うけど」


 確かに貴は嬉しそうに手だけを躍らせていた。が、私は不安そうに答える。

 ―― もし本物だったら?


「リュウ様は凄い術を持った超能力者 ―― 能力を使ったり、正体がバレたりしたら、ダメだよ?」

「…… 大丈夫だよ」


 急にキリッとした表情になって貴はそう答えていた。

 幼い頃から私達の体には染み付いてしまっている、仕事と私用を分けて考えるという生活は未だに続いている。


「そこは今も守っているつもりだから」


 私はその言葉を信じることにした。


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