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第8話 はじめまして、観測対象(ともだち)

夕方。

黒木のタワマンを出た俺は、駅前のファミレスで親友・田中に電話をかけていた。


『――でさ、そのヤバい科学者が「お前のダチに会わせろ」って言うんだよ』

「はぁ!? なんだよそれ、怖すぎだろ! 俺、絶対行かねーからな!」

『まあまあ、そう言うなって。で、今どこいんだよ?』

「駅前の本屋で立ち読み中だけど……」

『マジか! すぐそこのファミレスだからさ! 超絶美少女と、本物のマッドサイエンティスト、両方いっぺんに紹介してやるよ!』

「……すぐ行く」


ちょろいな、お前。


五分後。

ぶつくさ言いながらも、どこか好奇心まる出しの田中が現れた。


「で、こいつが俺のダチの田中! な、見るからに運悪そうだろ!」

「お前のそういうとこ、マジでどうかと思うぞ……」


俺の失礼な紹介を受けた田中は、ジト目で俺を睨む。

向かいの席には――


「はじめまして、田中さん。葛城さんのバイト先の同僚の、白鳥美月と申します」

完璧な笑顔で会釈する美月と、


「……。」


無言でギラつく目を光らせ、田中を凝視する全身黒ずくめの男。


「えーっと、陸……。こっちの、白鳥さんの隣の方は……?」

「ああ、こいつは黒木。見ての通り、ヤバい奴だ」

「ヤバい奴ではない! 私は科学者だ!」


黒木がガタッと前のめりになる。

カバンから、例のゴテゴテしたゴーグルを取り出した瞬間――


「お待ちください」


氷のような声が、黒木の動きを止めた。


「もし店内でその不審物を装着した場合、私は通報します。よろしいですね?」

「うぐっ……!」


子犬みたいにしょんぼりし、ゴーグルをしまう黒木。

だが、すぐカバンの底から別の機械を取り出した。


スマホを改造したような、小さなアンテナだらけの装置。


「ふ、ふん! これさえあれば問題ない! 我が研究室の最高傑作――『超常因果律変動観測機・MkII』だ!」

「名前が長い上に、不審物以外の何物でもありませんね」


黒木はその装置をテーブルの下に向け、田中をロックオン。


俺たちがセットメニューを頼む中、田中は少し考えて言った。

「俺、チョコバナナパフェで」


数分後。

ウェイトレスがトレーを運んでくる。


田中の前に置かれたパフェ。

――スプーンが、ない。


「あれ?」


その一言で、俺は吹き出した。

「ぷっ、ぶははは! お前、手で食うのかよ!」

「いや、食えるか! すいませーん、スプーンくださーい!」


笑い転げる俺の横で、黒木は異様なテンションでモニターを覗き込みながら呟く。


「観測完了……事象A-1『付属品欠落』を確認……! なんと興味深いサンプルだ!」


田中はパフェを半分食べてから「ドリンクバー行ってくる」と席を立った。

その背を見送った瞬間、黒木がテーブル越しに俺へ身を乗り出す。


「葛城くん。昨日の金色の幸運素ゴールド・ラッキオン……いつ使う?」

「ああ、アレか。今日の夜にでも使って、抽選全然当たらねぇ超レア限定版のゲーム機ゲットしようかと思ってんだけど」


「愚か者!」


黒木の声が低く響く。

「ただ使うなど浪費だ! 高エネルギー体は“最高の条件下”でこそ真価を発揮する!」

「条件下って、なんか厨二くせぇな」

「黙れ! 科学にロマンは必要だ!」

「はいはい」


黒木はさらに身を乗り出し、瞳をギラギラと光らせる。


「今夜、21時00分00秒! 地球の自転と幸運素粒子の共鳴がピークに達する!

その瞬間に使用すれば、どんな奇跡が起こるか――実に興味深い!」

「わーったよ。夜9時な。りょかい」

「本当かね!? 恩に着るぞ、葛城くん!」


黒木は感極まったように俺の手を握る。

……うるせぇ、手汗すげぇ。



ファミレスを出て、田中とは駅前で別れた。

「じゃあな、陸!」

「おう! またな!」


田中が雑踏に消えたあと、俺も黒木と美月に手を振る。


「じゃ、俺も帰って9時の準備すっかな。またな!」


残された二人。

黒木は怪しい笑みを浮かべ、美月は眉をひそめる。


「さて、白鳥くん。行くぞ」

「どこへ、ですか?」

「決まっているだろう。田中くんの追跡トレースだ。世紀の観測の始まりだよ」

「お断りします。私はあなたのストーカー行為に付き合う義理はありませんので」


背を向け去る美月。

黒木は「ふん」と鼻を鳴らすと、一人、田中の後を追った。


――そして、美月はため息をつく。


(非科学的で、不合理で……でも、放っておけませんわね)


ヒールの音を響かせ、黒木の消えた方向へと足を向ける。


…そして、彼女は見た。


アーケードの陰。

ヘルメットにヘッドライト、奇妙な指向性アンテナを構え、通行人にピタッと照準を合わせている完璧な不審者(黒木)。


「……。」


静かに背後に回り込み、冷たく一言。

「黒木さん。その格好、通報される前にやめた方がよろしいのではなくて?」

「おお、白鳥くん! やはり君も歴史の証人に来たのだな!」


黒木は、夜の闇に歯を光らせた。


こうして――

世紀の観測ただのストーキングが幕を開けた。

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