第5話 科学者と、一目惚れと、厄介な誤解
「貴様……どこの研究機関の人間だ?」
黒木の問いに、俺は反射で「はぁ!?」と素っ頓狂な声を出した。
その横で、美月が冷静にスマホを耳に当てている。
「はい、もしもし警察ですか? キャンパス内で――」
「待て待て待て!」
俺と黒木の声がハモった。
音程までピッタリ。やめろその無駄なシンクロ。
俺は美月のスマホを下げさせ、黒木はゴテゴテのゴーグルを外した。
「待ってくれたまえ! 私は断じて不審者ではない!」
「私は黒木玄! 量子エネルギー力学と超常現象における幸運素を研究している科学者だ!」
「いや、知らねぇ単語多いって」
「説明しよう!」
「頼んでねぇ!」
黒木の視線が美月に突き刺さった瞬間――挙動がおかしくなる。
(……黄金比率……瞳孔開き率、平均の3.2倍……心拍上昇、体温上昇、視覚焦点収束率120%……これは――恋だ!)
「自己分析で告白すんな」
美月の一言で、理系男子の暴走は強制停止した。
「と、とにかく!」
黒木は顔を真っ赤にして咳払い。
「私は怪しい者ではない! 君たちが拾おうとしていた青色等級の幸運素を、観測目的で採取していただけだ!」
「採取とか言うな、生々しいんだよ」
「でもあなた、不審者には違いありません」
美月の声が氷点下。
「……違う! 私は科学者だ!」
「じゃあ質問。彼はどこの所属です?」
黒木が俺を顎で示す。
俺は胸を張った。
「近所のコンビニです」
「……なんだそのカバーストーリーは。あまりにも自然すぎる!」
「ほんとにレジ打ってんだよ!」
話が通じないまま、三人は近くのカフェへ。
フリーターと、お嬢様と、恋するマッドサイエンティスト。
絵面の統一感、ゼロ。
◇
「――つまり、幸運素は人間の絶望エネルギーに反応して空間に放出される!」
黒木がタブレットをバンッ。
スライドに棒グラフ。
「この棒グラフをご覧いただきたい!」
「いやグラフより声がデカい!」俺。
「公共の場です」美月。
「だがグラフは美しい!」黒木。
「うるさい!!!」三人、珍しく一致。
美月が俺へ視線を向ける。
「葛城さん。観測機器なしで、どうやって運を認識しているんです?」
「集中すると見える。キラッと。だいたい不幸なやつの足元に落ちてる」
「科学的要素、ゼロですね」
「芸術肌なんだよ、俺は」
黒木がガタンと立つ。
「やはり……君の組織は生体をラッキオン感応体に――」
「だから組織じゃねぇって!」
「“近所のコンビニ”……完璧な擬態だ……」
「聞け!!」
埒が明かない空気を、美月がスッと切り裂く。
「実証は?」
黒木が即答。タブレットを操作し、スライドを切り替える。
「今夜、駅前の倒産ビル『ミライ・テック』前にて、金色等級発生確率92.4%!」
「金色……!」俺の目がギラつく。
美月が冷静に眉をひそめる。
「社員の絶望は自宅で生じるはず。なぜビルに?」
「それこそ『絶望の震源地理論』!」
黒木の目が輝く。
「感情は“生じた場所”ではなく、向けられた対象――恨みの焦点にラッキオンが集束する!」
「……理屈は通ってます」
「だろう!? 君の理解力、実に――」
「褒めても通報はします」
「うっ……!」
黒木が俺に身を乗り出す。
「ところでデータ提供を。拾った運のエネルギー安定期間は?」
「前に白いのをポケットに入れっぱで、翌日には消えた。多分、一日」
「一日、約24時間! やはり不安定粒子! 貴重な情報だ、近所のコンビニ!」
「名前で呼べ!!」
黒木が人差し指を突きつける。
「勝負だ、葛城陸! 先に金色を手に入れた者が勝者!」
「なんで勝負!?」
「科学とは挑戦でありロマンだ!」
「ただのハイテンション理系!」
「異論は認めん!」
「異論しかないわ!」
俺の脳内では、金色の妄想がスパークしていた。
(宝くじ当選……いや推し声優の公式フォロー……いや冷蔵庫の製氷機がついに復活……!)
「現実的な夢にしなさい」
「全部現実だろ!」
美月は深くため息。
「……もう勝手にしてください。ですが私も同行します。監視対象が二人に増えましたので」
「増えてんじゃねぇか!」
黒木は恋と科学に燃え、
美月は冷静に苛立ち、
俺は巻き込まれていく。
――まあ、退屈はしない。たぶん命の保証もない。
◇
その頃田中は、定時で仕事を終え、家に帰ってテレビを見ていた。
(黒木)実に興味深い!
本日、私は“近所のコンビニ”に勤める未知の観測体を発見した。
さらに白鳥美月――奇跡的な998ptを持つ幸運体!
この2名を同時に観測できるなど、もはや宇宙の祝福と言っていい!
……データ収集のため、★やブクマによる継続支援を要請する。
協力者諸君、研究の進展に力を貸してくれたまえ!
(美月)……この人、まだ喋ってますね。
私の監視対象が二人に増えました。
今後の騒動を“観察”するためにも、記録を残しておくといいと思います。
……きっと後悔しますけど。
(陸)いやいや、誰がトラブル量産機だよ!?
……でも、読んでくれたならマジで嬉しいっす!
次回、金色の運ゲット作戦――行くぞ!




