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第21話 噂を信じて、最初の依頼人(ただし、時給は発生しない)

俺のたった一個のメロンパンが引き起こした、くだらない内戦から三日後。


俺、葛城陸は、5000字の反省文という地獄から、なんとか生還していた。


「……腕が、腕がもげるかと思ったわ……。文明開化した21世紀に、手書き5000字って何の罰ゲームだよ」


深夜のコンビニのバックヤードで、湿布だらけの右手首をさすりながら、死んだ魚のような目で呟く。


頭の上のウンちゃんが、「きゅふん……」と心配そうに俺の顔を覗き込む。


「ありがとな、ウンちゃん。お前だけが俺の味方だよ」


ウンちゃんは「きゅふん♪」と嬉しそうに鳴いた。



大学四年生・鈴木健太は、自室のベッドの上で絶望していた。


「……はぁ。またお祈りメールかよ……」


スマホに表示された「今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます」。


これで不採用通知、通算50社目。


「もう、どうすりゃいいんだよ……。履歴書書くたびに寿命縮んでる気がする」


ベッドに突っ伏し、枕に顔を埋める。


そこへ母親の声。


「健太? 夕飯、食べないの?」


「……いらない」


少し間をおいて、再び。


「ねえ健太、変な話だって分かってるんだけどね。お母さんのバイト先の若い子たち、なんか“持ってる”みたいなの」


「……」


「店長も、あの子たちに相談したら、娘さんと仲直りできたって……」


(はぁ? なんだよそれ、胡散臭すぎだろ……)


だが、五十連敗という絶望が、彼の判断を麻痺させていた。


(……藁にも、すがるか)



ある日の深夜。


湿布の匂いしかしない右手で、いつものように品出しをしていると、一人の青年が店に入ってきた。


目の下にはクマ、顔は絶望そのもの。


ウンちゃんが「きゅん!」と鳴いて、俺の髪の中に隠れる。


(うわ……面倒くさそうなのが来たな……)


青年はまっすぐ俺の前に立ち、震える声で言った。


「あの……葛城さんですよね。俺、パートの鈴木の息子です。母から噂を聞きまして……」


「え、鈴木さんの息子!?」


青年――鈴木健太は深々と頭を下げた。


「お願いします……! 相談に乗ってくれるって聞きました……! なんでもいいんです、話を聞いてもらうだけで何か変わるかもしれないって……!」


その声は、深夜のコンビニにやけに響いた。



「はぁ? 相談? 俺、カウンセラーじゃねーんだけど」


バックヤードに戻った俺は、美月と黒木がいるグループLIMEに悪態を打ち込む。


健太くんはイートインで、ゾンビのような顔で待っている。


即座に既読が二つ。


まず、女王様。


美月:『葛城さん。その方の詳細を聞き出しなさい。これは“開運堂(仮)”試験期間における第一号案件です』


美月:『それにしても、就活に失敗したフリーターが、就活に悩む大学生を救う……“溺れる者は同じく溺れる者に助けを求める”とは興味深いケースですわね』


(俺への皮肉が的確すぎて刺さる)


続いて、あの変人が噛みついた。


黒木:「おお、我が女神ミューズよ! その怜悧な分析力、そして就活50連敗という最高のサンプル! 素晴らしい! 今すぐそちらに向かう!」


すぐさま、美月の冷気を帯びた返信。


美月:「その不純な動機、実に不愉快ですわ」


黒木:「ぐふっ……!(致命傷)」


(お前、どこで誰にでも刺されるタイプのやつだな、黒木……)


(だと思ったよ)


俺はスマホの電源を切った。



その頃、田中は、動画サイトで「5分で寝られる音楽」を1時間ループ再生していた。


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