表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

第20話 メロンパンの誘惑と、絶対女王の裁き

完璧超人・白鳥美月の『方向音痴』という致命的な弱点を暴き、

俺たちが勝利の凱歌を上げたあの日の翌朝。


俺、葛城陸は、コンビニのバックヤードで完全に上機嫌だった。


いやー、昨日はマジで傑作だったな!


隣では、美月が完璧な無表情でドリンクの補充をしている。


美月さーん、今日も一人で来れましたかぁ? 交番スキップできました?


美月はピタリと手を止め、絶対零度の視線を俺に向けた。


……葛城さん。そのIQ三くらいの言動を続けるおつもりなら、

店長に『葛城さんが廃棄弁当を不正に持ち帰っている』と報告しますが、よろしいですの?


すいませんでした。


俺は光の速さで土下座した。


頭の上のウンちゃんが、きゅふ……? と困惑した声を上げる。


いや、ウンちゃん、これが生きる知恵ってやつだ。


それより葛城さん。そろそろ品出しに戻られてはいかがですの?

店長が、あなたをお探しでしたわよ。


マジで!?


俺は慌ててバックヤードを飛び出した。

背後で、美月の小さな笑い声が聞こえた気がした。



午後。


俺たちは黒木のタワーマンションに集まっていた。


おお、我が女神ミューズよ……。

今日の君も、まるで知性の女神アテナのように麗しい……!


黙りなさい、変態。


ぐふっ!


おい黒木、お前、毎回同じパターンで撃沈されてんな……。


黙りたまえ、これは私なりの挨拶だ。


どんな挨拶だよ……。


で、いつになったら俺たちは金稼ぎ始めんだよ?

ボランティアもいいけど、家賃ヤバいんだけど。


その瞬間、モニターの一つがピコン!と鳴り、赤い警告が表示された。

ウンちゃんが、きゅん!? と跳ねる。


む……?


黒木は画面を睨みつけた。


葛城くん。今朝、君のデータに異常な変動があった。

午前8時12分、幸運素が5pt上昇し、即座に消費。何か使ったかね?


ゲッ!? こいつ俺まで監視してやがるのか!


監視ではない。科学的観測だ。


美月が静かに口を開く。


……葛城さん?


氷点下の声だった。


今朝、あなたはパン屋の袋を提げて遅刻してきましたわね。

あの幻のプレミアムメロンパン、でしたわよね?


俺の背筋が凍る。


い、いや、あれは偶然買えただけで……!


ふぅん。では、なぜ周囲を見回していたのかしら?


美月はスマホを掲げた。

そこには、袋を持って挙動不審にキョロキョロする俺の姿。


うわっ! いつ撮ったんだよ!?


証拠は常に押さえておくものですわ。



美月の笑顔と黒木の「データは嘘をつかない!」の前に、俺は白状した。


リビングの中央で正座。

ウンちゃんだけが心配そうに、きゅふん……と鳴いている。


これはただのルール違反ではありません。


……。


『チームの資源を私的に流用する』という、最も悪質な背任行為です。


つまり、あなたは『人助け』を掲げながら、結果的にメロンパンを優先した人間、ということですわ。


……すんませんでした。


(俺の中で“メロンパンの悪魔”が泣いていた)


では、罰を与えますわ。


えっ。


あなたは一週間、菓子パン禁止です。


えぇ!?


さらに、今回の件に関する5000字の反省文を、明日の朝までに提出なさい。


ご、ごせんじ!?


将来的な給与査定に影響しますわよ。


まだ一円ももらってねぇんだけど!?


美月はため息をつき、宣言した。


これより、私たちの活動は『試験期間』に移行します。


……あなたがもう少しマシになれば、正式に“開運堂”を名乗ってもよくしてあげますわ。


なにそれ!? 絶妙にダサい!


お黙りなさい。


こうして、俺の一個のメロンパンのせいで、

俺たちの活動は「ボランティアの試験期間」として正式に始動したのだった。



マンションを出た俺は、ため息をついた。


はぁ……反省文5000字とか、マジで無理なんだけど……。


ウンちゃんが、きゅふん、と慰めるように鳴く。


ありがとな、ウンちゃん。お前だけが俺の味方だよ。


きゅふん♪


よし、帰りにカップ麺でも……あ、菓子パン禁止だった。クソッ。


俺は、美月の完璧な管理体制に、早くも挫折しそうになっていた。


まあ、何とかなるっしょ。


根拠のない自信だけは、相変わらず満タンだった。


その頃田中は、夕陽に照らされながら、朝焦がしたトーストの黒さを思い出していた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ