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第19話 完璧超人の弱点を探せ

店長救済作戦の、即席の成功祝賀会。

黒木のタワーマンションで、俺はコンビニで買ってきた一番高いビールを片手に、完全に上機嫌だった。


「俺たち、マジで最強じゃね!? 人助けもできて、ヒーローみてぇじゃん!」


「素晴らしいデータだ! 店長の幸福度上昇に伴い、コンビニ周辺の幸運素ラッキオン濃度が0.03%上昇したぞ!」


俺と黒木が浮かれていると、美月が冷ややかに場の空気を凍らせた。


「計画の七割は私の情報収集と誘導の賜物ですが、何か?」


くそっ……! いっつもいっつも偉そうにしやがって……!

あの完璧超人、マジで弱点とかねーのかよ? よし、暴いてやる!

あの完璧超人の、ダッセェ弱点を!


祝賀会が終わったあと、俺は黒木に声をかけた。


「おい黒木! お前もムカつかねぇか、美月のやつ! 協力しろ! あいつの弱点、暴き出すぞ!」


「なんと! 女神ミューズの脆弱性に関する考察! それは私の研究テーマの根幹に関わる、最重要課題だ!」


こうして、俺たちの、どうでもいい調査が始まった。



翌日。

俺たちは、美月の大学の前で張り込みを開始した。


「おい黒木! ちゃんと隠れろって! 体半分はみ出てんぞ!」


「問題ない! このコートは最新の光学迷彩技術が――」


「ただの黒い布だろ、それ!」


電信柱の影で俺が小声でツッコむ横で、黒木は上空のハト型ドローンの映像を満足げに眺めていた。


「ふむ……女神ミューズの歩行パターンは黄金比に基づいている……実に美しい!」


当然、俺たちのポンコツな尾行は美月にバレバレだった。

彼女は気づかないフリをして、大学の駐車場に停まっていた黒塗りの高級車へ向かう。


運転席からは、執事服を完璧に着こなした初老の紳士。

恭しく後部座席のドアを開ける。


「な……! なんだあのオッサン! まさか、パパ……!?」


「いや、違うな。あの男は使用人だ。実は先日、彼女の生態調査中に、偶然クリアな音声データを録音できてな……」


黒木はドヤ顔でスマホを操作し、録音を再生した。


『お嬢様、本日のご予定は……』『ありがとう、影山さん』


「じ、執事……!? マジかよ、どこまで完璧超人なんだよ……! ていうか、お前、それ犯罪だぞ……」



その日のバイト終わり。

急なシフト変更で、バイトが一時間早く終わった。


美月はスマホを取り出し、執事の影山に連絡しようとしたが、手が止まる。


「……まずいですわ。影山は今、別の用事で……」


ほんのわずかな動揺を、俺は見逃さなかった。


「美月さん、どうしたんすか? いつもなら、さっさと帰るのに」


にやにやしながら声をかける。


美月は一瞬気まずそうな顔をしたが、すぐに完璧な表情へ戻る。


「……あなたには関係ありませんわ」


「はーん、さては困ってんな? 一人で帰れないとか?」


からかう俺に、美月の眉がピクリと動いた。


「……失礼な。一人で帰れない訳がないでしょう」


プライドを傷つけられた美月は、自信満々に地図アプリを起動し、駅とは真逆の方向へ颯爽と歩き出した。


俺と黒木は顔を見合わせ、ニヤリ。

こっそりと後をつける。


案の定、美月はまったく知らない神社の前で立ち尽くしていた。


「おかしいですわね……この神社、地図には載っていないのですが……」


物陰で、俺は笑いをこらえる。


「ぶっ……! くくく……!」


ついに完璧超人の弱点を発見し、俺は歓喜に打ち震えた。


その横で黒木も興奮気味に呟く。


「なんと……完璧な知性を持つ彼女が、空間認識能力にのみ致命的な欠陥を……! このアンバランスさ、実に興味深いサンプルだ!」


「仕方ねぇ、助けてやるか! いいか、ウンちゃん。お前の初仕事だ! バレないように、そーっと美月を駅まで誘導するんだ!」


俺の言葉に、ウンちゃんは「きゅふん!」と力強く頷き、茂みから飛び出した。


足元で小石を転がし、「きゅ、きゅん……」と小さく鳴く。

不器用ながらも必死に誘導を試みる姿は、涙ぐましい。


「素晴らしい……! 聴覚と視覚、両方からのアプローチで、対象の行動心理を巧みに誘導している……!」


「いけいけ! ウンちゃん! その調子だ!」


俺と黒木が小声で必死に応援していた、その時。


「……いい加減に、出てきなさい」


氷のように冷たい声が境内に響いた。

美月が、ウンザリした顔で俺たちの隠れる茂みを睨む。


「あなたたちが、さっきからずっと後をつけているのは、分かっていますのよ」


ウンちゃんがビクッと飛び上がり、ゆっくり振り返る。

「ご、ごめなさい……」と言いたげなウルウルの瞳。


その人間くさいリアクションと、作戦開始からわずか三分での失敗。

こらえきれずに俺は腹を抱えて吹き出した。


「ぶっはははは! だっせー! ウンちゃん、お前、秒でバレてやんの! ていうか美月! お前、とんでもねぇ方向音痴じゃねーか!」


俺の大爆笑が、静かな境内に響く。


美月は顔を真っ赤にして俺を睨みつけた。


「ち、違いますわ! これは、その……地理的な特異点を調査していただけで……!」


しかし俺は、最高の笑顔で言った。


「いやー、安心したわ! お前も、ちゃんと人間だったんだな!」


その裏表のない言葉。彼女の『完璧さ』ではなく、『不完全さ』を初めて肯定する言葉だった。


美月は一瞬呆気に取られたが、すぐに顔をそらす。


「……うるさいですわ、馬鹿」


その横顔が、ほんの少しだけ赤く染まっていることに、俺はまだ気づいていなかった。

そして、彼女が再び駅とは真逆の方向へ、自信満々に歩き始めたことにも。



その頃田中は、会社の窓のブラインドを指で下げ、妙にカッコつけて外を見ていた。


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