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第13話 黒猫と、宣戦布告と、パフェおかわり

朝。

目を覚ますと、ウンちゃんがすでに窓から帰ってきていた。

俺の頭の上で満足そうに丸まり、そのお腹は拾ってきた運でぽよんと膨れている。


「お前、自分でエサ取ってこれるとか、マジで優秀すぎだろ!」


俺はウンちゃんの腹を撫でながら、思わず笑みをこぼす。

このもふもふの存在は、日々のストレスを全部持っていってくれる。


「これで俺のラッキーハント生活、完全復活だぜ!」


「きゅふん!」


誇らしげに鳴くウンちゃん。

その小さな頭を撫でていると、ふと黒い毛が一本、俺の手に付いているのに気づいた。


「ん? なんだこれ。お前、外で友達でもできたのか? やるじゃねーか!」


俺は、ウンちゃんのコミュ力(?)の高さに感心しながら笑う。

まるで学校帰りに「新しい友達できた!」って報告してくる子どもみたいだ。


「ま、友情の証ってやつか!」


ウンちゃんは「きゅふん!」と鳴きながら、なぜか目をそらした。

……おい、なんか隠してないかお前。



夕方。

完全に暇を持て余していた俺のスマホが、けたたましく鳴った。

画面には『黒木 玄(変人科学者)』の名前。


嫌な予感しかしない。


「葛城くん! 緊急事態だ! 例の被験者(田中くん)の追加観測を行う! 今すぐ駅前のファミレスに集合だ! それと、美月くんにも連絡を頼む!」


「はぁ? 俺は今、ウンちゃんの世話で忙しいんだけど」


「嘘をつけぇ!!」


「……バレたか」


「当然だ! 声に全く緊張感がない!」


「まあ、どうしてもって言うなら、お前がかけろよ」


「無茶を言うな! 私はすでに白鳥くんに着信拒否されているのだ!」


「だっさ!」


俺は心底呆れながら、仕方なく美月にLIMEを送った。

ついでに田中にも。


『おい田中、今日仕事何時に終わる?

駅前のファミレスに来い!

金持ちのマッドサイエンティストが、お前に新作のパフェおごってくれるってよ!』


数分後、田中から返信が届く。


『はぁ!? なんで俺? ……今終わったわ。疲れてんだけど。

……いや、パフェは食うけど。すぐ行く。』


食欲に正直な男だ。そういうとこ嫌いじゃない。



夜の駅前のファミレス。

明るい照明と、漂う甘いクリームの匂い。

仕事終わりの田中、講義帰りの美月。

そしてテンションMAXでパフェを待つ俺と、別方向で瞳を輝かせる黒木。


黒木は、運ばれてきたパフェには目もくれず、うっとりとした表情で美月を見つめていた。


「ああ、美月くん……。君は今日も夜空に輝く月のように美しい。

その知的な瞳で見つめられるだけで、私の研究は加速する……!」


「そうですか。私は単位が増えませんが」


黒木の心にクリティカルヒット。

だが彼は、もはや羞恥よりも情熱で生きている男だ。


「ふむ……起動シークエンス、オールグリーン。

対・田中用 しわ寄せ観測ゴーグルMarkII、起動!」


カチッ。

ゴーグルのレンズが怪しく光を放つ。


「……素晴らしい! この安定したアンラッキー波形!

まるで寸分の狂いもなく不幸へと向かう、美しい芸術作品のようだ!」


「その芸術作品とやらは、あなたの脳内だけに存在するものですわ。

公共の場で、奇行を拡散しないでくださいまし」


黒木が一人で恍惚の表情を浮かべる隣で、田中がぐったりと愚痴をこぼす。


「あー、クソ。肩が凝りやがった。マジでなんなんだよ、霊でもついてんのか?」


「どれどれ、俺のスーパーゴッドアイで見てやろうか……」


俺はパフェをスプーンですくいながら、軽い気持ちで田中に「運の可視化モード」を向けた。

その――瞬間だった。


俺の動きが、完全に固まる。


「……は? 田中、お前いつから猫飼い始めたんだよ?」


「はぁ? 猫? 寝ぼけてんのかお前」


田中が自分の肩をパッパと払う。

だが、その手は“何か”をすり抜けた。


「……葛城さん。あの猫、田中さんの手をすり抜けておりますが」


美月の冷静な声が、場の空気を一瞬で凍らせる。


「な、なんだと!? 観測不能なエネルギー反応! 違う! ウンちゃんとは別系統の……!」


黒木がMarkIIの焦点を田中の肩に合わせ、声を震わせた。


「そして美月くん! 君がその存在を肉眼で捉えられたのも、君自身の完璧な幸運素フィールドが――」


「黙りなさい、変態」


黒木、即死。


三人が凍りつく中、田中の肩に乗っていた黒猫が、億劫そうに大きなあくびをした。

その深紅の瞳は、俺たちには目もくれず――

ただ一點、俺の頭の上で震えるウンちゃんを、まっすぐに見据えていた。


「きゅ、きゅふんんっ……!」


ウンちゃんは悲鳴のような声を上げ、俺のパーカーのフードの中に必死で潜り込む。



俺たちは息を呑んで黒猫を見つめる。

空気がぴんと張りつめるその中で、当の田中が首をかしげて言った。


「……で、俺のパフェ、いつ注文してくれんの?」


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