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第11話 居候決定と、エサ代問題

黒木からの電話は、嵐のように一方的に切れた。

俺は「脅迫までしてきやがった……」と呟き、ため息をつく。


……で、ふと思い出す。

「あ、そういや“白鳥くんにも声を掛けておいてくれたまえ”とか言ってたな、あの変人」


時計は朝の七時前。

「こんな早朝に大丈夫か?」と思いつつ、言わないと黒木が後でめんどい。

渋々スマホを取った。


数コールののち、冷たく澄んだ声。

『――こんな早朝に、何のご用件ですか?』

「いや、その……聞いて驚くなよ? 白いもふもふした何かが俺の部屋に現れてな!」


一拍の沈黙。

『……おかけになった電話番号は、現在使われておりません』

「おい!? なんだそのテンプレ対応は!?」


プツッ。電話は無慈悲に切れた。

「おい! 話はまだ途中だって!」


再度かけ直す。少し苛立った声。

『……今度は何ですか?』

「ほんとなんだって! で、黒木が今日これから来るって! “研究史に残る観測”とか言ってさ!」

『病人に病人を呼ぶような真似はやめてください』

「なんでだよ!? 来た方が早いって!」

『……分かりました。見届け人として伺います。黒木さんに爆発でも起こされたら困りますので』


プツッ。今度はため息混じりに切られた。

俺はスマホを見つめて肩を落とす。

「……あいつ、朝から容赦ねぇな」



十五分後、インターホン。

ドアを開けると案の定、黒木と美月。


黒木は俺を一瞥、すぐ隣の美月を見て頬をわずかに赤らめ、どもる。

「し、白鳥くん……! 朝から君の麗しい姿を拝めるとは……! 今日の幸運素ラッキオン観測は最高のコンディションだ!」

「そうですか。私は最低の気分ですが」


黒木の心が氷点下に落ちた音がした。


「……それで、葛城くんが報告した未知の生命体とやらはどこにかね?」

部屋をキョロキョロ。


俺は腕の中のもふもふを指差す。

「どこって……ここにいんだろ」

「……? 私の目には何も見えんが」

「は? だからここに――」


言いかけた時、美月が静かに口を開いた。

「……見えていますわ、私には。信じがたいですが、確かにそこに趣味の悪い毛玉がいます」


黒木の目の色が変わる。

「なにぃ!? 白鳥くんには肉眼で視認できるというのか!?」


黒木、例のゴテゴテゴーグル装着。

「おお……おおおお……! 見えるぞ! なんという美しい幸運素の集合体! この滑らかなエネルギー循環! 完璧な自己完結型フィールド! 素晴らしい! 実に素晴らしいッ! 是非サンプルを採取し、研究室で――!」

「おい黒木! 朝っぱらからデカい声出すな! 近所迷惑だろ!」

「ええ、葛城さんの言う通りです。それに黒木さん、その言動、通報されても文句は言えませんわよ」


「ふむ……!」と咳払い。少し冷静。

「なるほど、そういうことか! 白鳥くんは常に998ptという極めて高い幸運素保有量を維持している。君自身の幸運素フィールドが観測装置となり、通常不可視のこの生命体を網膜に投影しているという仮説が立てられる……素晴らしい!」


一人で興奮する黒木を横目に、俺は腕の中のもふもふを改めて見せる。

「で、こいつどうすんだよ」

「まずはエネルギー源の特定が必要だ」


試しに、そこにあったパンくずを口元へ。

ぷいっ。顔を背ける。

「やっぱ食わねぇか……」


どうしたもんかと悩む俺の腕の中で、もふもふが突然、俺のズボンのポケットに顔を突っ込む。

「うおっ、なんだ!?」


指先にビー玉の感触。昨日の運ハントの拾い残し、青い運の塊。

そいつは夢中で食らいつき、あっという間に輝きを吸い尽くした。


「……やはりエサは幸運素ラッキオンか」

黒木が確信の声。

「ふむ、仮に『幸運素捕食性不定形生物ラッキオン・ファージ』とでも名付けておくか」


学者ぶる黒木。長い。

俺はもふもふをひょいっと持ち上げる。

「いや、こいつの名前はそんなんじゃねぇ。運を食うから……『ウンちゃん』だ! な、ウンちゃん!」


「きゅふん!」


ウンちゃんはピョンと跳ね、俺の頭の上にちょこん。どうやら定位置らしい。


「……類は友を呼ぶ、と言いますものね。頭の上に得体の知れない毛玉を乗せるとは。あなたに相応しいお仲間ができて、何よりですわ」

美月、心底軽蔑の目で痛烈な一言。



その後、ウンちゃんをどうするかの会議。

消去法で、俺が飼うことに決まった。


「……まあ、いっか。よろしくな、ウンちゃん」


その時、美月が最も現実的で最も厄介な問題を冷徹に突きつける。

「ところで葛城さん。今ので、そのウンちゃんとやらのエサが『運』であることは確定しましたわね。

そのエサ代……これからどうやって安定的に供給するおつもりで?」


ハッ。

そうだ。こいつのエサ、運だ。


今まで自分の欲望のために自由気ままにやってきた『運ハント』。

それが、これからは――


ウンちゃんを養うための『労働』に変わる……?


俺の自由なラッキーライフが……終わった……!


頭を抱えて絶望する俺。

頭上のウンちゃんが「きゅふん……」と心配そうに頬へすり寄る。


「……」


……まあ、可愛いから、いっか。



その頃、田中は、なかなか治らない寝癖に悪戦苦闘していた。


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