第10話 深夜の訪問者と、もふもふの正体
翌朝。
俺は昨夜ゲットした限定ゲーム機の発送完了メールを眺めてニヤニヤしていた。
「明後日には届くのか。楽しみだなー」
金色の運を使った甲斐があった。
スマホには田中から『今日は調子いいぜ!』の元気なLINE。
「お、田中も元気そうでよかったわ」
満足げに頷き、バイトへ向かう準備を始めた。
◇
バイト終わり。帰り道で足元に光を感じる。
「ん? なんだ?」
“運が見えるモード”に切り替えると――
青い光の粒が、道端に大量に散らばっていた。
「うおっ!? めっちゃ落ちてんじゃん!」
すぐそこに灯りの消えたオフィスビル。
入り口の「閉鎖のお知らせ」。倒産した会社らしい。
たぶん今日が最終出社日。絶望が運になってこぼれたんだ。
「ラッキー! こんなチャンス、めったにねぇぞ!」
俺は宝探しみたいに次々と青い運を拾い集める。
1個、2個、3個……ポケットはパンパン。
「よっしゃ! これだけあれば、欲しかったもん全部買って、うまいもん食いまくれるな!」
上機嫌で家路についた。
まさか、この大量の運が“訪問者”を呼ぶとは知らずに。
◇
その夜。時刻は深夜2時。
部屋でスマホをいじっていて、「さて寝るか」と伸びをした瞬間――
カタカタ……チリ……。
窓ガラスを引っ掻くような無機質な音。
「……ん? 風か?」
窓を見ると、向こう側にテニスボールくらいの真っ白な球体がふよふよ浮いていた。
「うおっ!? なんだアレ!?」
白い球体は俺の驚きを無視して、
“スゥ……”と音もなく窓ガラスをすり抜け、部屋へ侵入。
「うおおおお!? 今、壁抜けたよな!? 完全にホラーだろ!」
球体はふよふよ漂い、俺には目もくれずテーブルの上へ。
そこには昼間拾った“大量の運のビー玉”。
「く、来んな! 変な玉!」
クッションを投げる――すり抜けて、壁にポスリ。
「マジかよ! 物理法則どこ行った!?」
白い球体はビー玉に近づくと、
表面から掃除機みたいに青い光を吸い込み始めた。
「え、ちょ、待て! 俺の運!!」
押さえようとするが止まらない。
1個、2個、3個……凄まじい勢いで全部吸い尽くす。
「あああああ! 俺の運があああ!」
一瞬で空っぽ。球体は“ぷるん”と満足そうに震え――
部屋の空気が止まった。温度が少し下がる。
次の瞬間、白い球体がビカビカと発光。
「うおっ!? な、なんだ!? 進化イベントか!?」
眩い光。思わず腕で目を覆う。
数秒後、光が収まり――
さっきより一回り大きくなり、真っ白でふわふわの毛に覆われた“子犬みたいな生物”。
黒くて丸い目がちょこん。
「……え?」
そいつは俺を見上げて「くぅ〜ん」と鳴き、
足元にすり寄って膝へポフッ。
「……軽っ! お前、重力どこやった!」
恐る恐る触る。温かい。ふわふわ。気持ち良すぎる。
「……何だコイツ」
白い生物は満足そうに目を細め、膝の上で丸くなった。
小さな寝息。
「……寝てる?」
困惑。だが憎めない。
いや、むしろ永遠になでていたい。
「……まぁ、いっか」
その夜、俺はソファに倒れ込むように眠った。
いつの間にか、謎の生物は腹の上で丸くなって一緒に寝息を立てていた。
◇
翌朝。
俺は慌てて黒木へ電話。腹の上では白い生物がまだ寝ている。
「おい黒木! 昨日の夜、ヤバいもんが部屋に来たんだけど!」
『……何が来た?』
寝起きらしい声。
「白い球体が来て、俺の運を全部食った! そしたら光って、もふもふの子犬みたいになって、今部屋で寝てんだけど!」
電話の向こうで息を呑む音。
『……運を、食う球体だと?』
「ああ! ビー玉状の運を全部!」
数秒の沈黙――からの、黒木の声が興奮で震え始める。
『葛城くん! その球体の特徴は古代文献に残る“運喰い”の伝承と一致する!
だが捕食後に別の生物に変化した記録は一切ない……!』
「運喰い……?」
『ああ! 球体が消え、新たにもふもふした生物が現れただと!?
形態変化――変態したというのか!?』
声がどんどん大きい。
『素晴らしい……! 青色の運(不幸の運)を短時間に大量摂取したことが引き金になった仮説が立てられる! これぞ科学の醍醐味だ!』
「いや、喜んでる場合かよ! で、こいつどうすんだよ!」
『……今、そちらに向かう。絶対に動かすな! 白鳥くんにも声を掛けておいてくれたまえ!』
電話は一方的に切れた。
腹の上で寝ている白い生物を見下ろす。
「……お前、何者なんだよ」
「くぅ〜ん」
無防備すぎる寝顔。ため息――そして、なでる手は止まらない。
「……まぁ、可愛いからいっか」
黒木たちが来るのを待つことにした。




