美男の屑と婚約解消した伯爵令嬢、心は自由の空と愛しい貴方と共に
「ルディアナ様は本当に幸せだわ」
「エレント第二王子殿下と結婚出来るなんて」
「本当に。羨ましいわ」
ルディアナ自身も本当に彼と婚約して幸せだと思っていた。
エレント第二王子は、王立学園で人気者だ。歳はルディアナと同い年の17歳。
美しい金の髪に青い瞳のエレント第二王子は、勉強が出来て、剣技の腕も一流で。
人づきあいも良く、皆に好かれていて。何を取ってもバレス王国の王族にふさわしいと、皆に言われている。
ルディアナ・レイド伯爵令嬢にとって、エレント第二王子は、二年前に婚約を結んだ時から本当に好きで好きで好きで。
心から大好きで。
エレント第二王子に、
「ルディアナ。将来、私が伯爵家に婿に入ってやるんだ。私を尊敬しろよ。地に這いつくばって敬え」
その通りだと思った。エレント第二王子殿下は王族なのだ。敬わなくては。
そして何かとルディアナの駄目な点を指摘してくるのだ。
でも、ルディアナは自分が未熟だから仕方がないと思っていた。
「ルディアナ。もっと皆の前で笑えよ。幸せそうに。私に恥をかかせるな。お前は私の婚約者なのだから。本当に愚かで、どうしようもない伯爵令嬢と結婚してやろうと言うのだ。感謝しろ」
ルディアナの両親であるレイド伯爵夫妻の前では彼は謙虚なのだ。
「私は王族でありますけれども、伯爵家に婿に入るにあたって、レイド伯爵に教えを請い、よき領土経営をやっていきたいと思っております」
と、謙虚な姿勢を見せたものだから、レイド伯爵は、
「王族なのに、なんて謙虚な。喜んでお教え致しましょう」
感動する両親。
ルディアナはなんて素晴らしい人だと、もっと大好きになった。
エレント第二王子は、ルディアナに向かって、
「私が婿入りした後にお前の両親は領地の隅にでも押し込めよう。私が好き勝手出来るからな。当然だろう。私の方が優秀だから領地も繁栄するだろう」
ルディアナも両親が経営するより、エレント第二王子が経営する方が領地も繁栄するだろう。両親もしっかりと経営しているが、それでも彼の言う通りだと思った。
レイド伯爵家の使用人達さえも、いつも土産を使用人にまで持って来るエレント第二王子について、
「何て出来たお人だ」
「私達にも気を使って下さる」
と、大喜びしていた。
エレント第二王子はルディアナに、
「お前、私の名で王立学園の論文を書いておけ。私が後で見直して、お前の下手な論文をしっかりと仕上げておく。これは婚約者たるお前の仕事だ」
「え?エレント様の論文を私が書くのですか?」
「しっかりと書けよ。恥をかかせたらどうなるか?お前に書かせてやると言っているんだ」
確かに、これは婚約者の仕事だ。
ルディアナは素直にそう思って、エレント第二王子の名で論文を書いた。
後で、エレント第二王子殿下の論文が最優秀論文に選ばれたと聞いて、お役に立てたのだと喜んだ。
しかし、とある日、隣国から帰って来た幼馴染の伯爵令息ディテウス・ソリドに会った。
留学していた彼が学園に編入してきたのだ。
ルディアナに声をかけてきた。
「久しぶりだな。それにしても、この学園の連中は変だな。特にお前の周りには濃い桃色の霧が。払ってやろう」
そう言いながら、ルディアナの話を色々と聞いてくれた。
ルディアナは、
「私はエレント第二王子殿下と結婚出来る事がとても光栄で幸せなのですわ」
「本当に?伯爵家を乗っ取って好き勝手されるぞ。彼は傲慢に見えるけど。私の目には見える。強力な魅了も効いている。男で魅了持ちは珍しいんだが」
「魅了?」
「人を虜にする魔法の一種だ。もし、彼と結婚したら、一生、君は蔑まれて苦労すると思うけれど」
一気に、目の前の霧が晴れる気がした。
自分を蔑むことばかり言うエレント第二王子殿下。
本当にこのまま結婚していいの?
彼のどこが好きだったの?彼の姿が素敵だから?皆が羨ましいというから?
ディテウスのお陰で頭の霧が晴れたような気がした。
両親に根気強く、エレント第二王子の言っていた事を、両親に言う事にした。
「エレント第二王子殿下は婿入りしたら、お父様、お母様を領地の片隅の屋敷に追いやると言っております。この家を乗っ取る気満々ですわ」
父であるレイド伯爵は、
「あの謙虚な第二王子殿下が?何を言っているんだ?」
レイド伯爵夫人も、
「そうよ。それに王家からの婚約、断れると思って?」
確かにそうだ。だったら、エレント第二王子殿下の兄、ベルク王太子殿下に直訴することにした。
「話があると聞いているが?ルディアナ・レイド伯爵令嬢」
「私はエレント第二王子殿下との婚約を解消したいと思っております」
「王家の命だと父である国王陛下から聞いている」
「解っております。でも、私の心が持ちません」
「エレントは人づきあいも良く、出来た男だ。結婚するそなたは幸せものだ」
「違います。影では私は色々と言われているのです。心が傷つく事を。第二王子殿下は外面がいいだけですわ」
「エレントを貶める気か?」
「違います。そんなつもりは」
「さては、浮気をしているのか?そなたは。そういえば、ディテウス・ソリド伯爵令息と話をしていたと報告があがっているな」
学園で少し話をしただけだというのに、王太子殿下に報告が?
何て恐ろしい。
ルディアナは叫んだ。
「浮気はしていません。どうかお願いです。エレント第二王子殿下との婚約解消を」
あまりにも真剣にルディアナが頼むものだから、ベルク王太子も仕方なく、
「まったくそなたは見る目がない。弟みたいな素晴らしい男と婚約解消を願うだなんて。仕方がない。父上に話して婚約解消するようにしよう。後悔するなよ」
婚約解消することになった。
幼馴染のマリーナ・カレント伯爵令嬢はいつも、ルディアナと張り合っていた。
彼女はまだ婚約者がいない。
そして、マリーナ・カレント伯爵令嬢が次の婚約者に指名されたのだ。
「ルディアナ。私が次の婚約者に選ばれたわ。あんな素敵な人と婚約解消しただなんて信じられない」
「マリーナ。あの人は二人きりになると、私を蔑んでくるのよ」
「信じられないわ。あんな謙虚な素敵な人が。悪口は良くないわ」
「悪口なんかじゃないわ。貴方も今に解るわよ」
しかし、マリーナは幸せそうだ。エレント第二王子とイチャイチャしている。
両親のレイド伯爵夫妻からも、
「本当に婚約解消してよかったのか?お前の我儘では?」
「そうよ。我儘だったのではないの?」
と言われた。
再びディテウスに相談した。
「私の力では君の魅了は解いたが、完全に王国の彼の魅了を解く事が出来ない。あまりにも力が強いからだ。彼の婚約者になったマリーナという令嬢も苦労するだろうな」
何だかモヤっとする。
エレント第二王子に蔑まれて、それでも彼の事が好きだった。
本当に別れてよかった。未熟な私が悪いのではないの?
ディテウスはルディアナに、
「帝国へ旅行に行こうか?帝国は広い。君の心も変わるかもしれない」
「ええ、そうね。旅行してみようかしら」
そして、今、帝国にルディアナはいる。
隣にはディテウスが。
はっきりと今なら解る。
私が悪いのではないわ。女性を蔑んでくるエレント第二王子殿下が悪いのよ。
いつも自分が悪い。自分が未熟だって震えていた。
でも、今は‥‥‥ディテウスに教えて貰った。
私は悪くない。私は悪くないわ。私だってしっかりと頑張ってしっかりと輝いてしっかりと生きる権利がある。
青い空を見上げた。
どこまでも続いて行く青空。
今、自分は自由だと。心はどこまでも飛んでいけると、ルディアナはそう思った。
ディテウスと改めて恋をした。
目を覚ましてくれた愛しい人。
彼の微笑みを見ていたら、背に羽が生えたような、とても幸せな気持ちになった。
聖国から聖騎士が遣わされて、エレント第二王子は連れて行かれた。
これ程の強い魅了持ちは珍しいという。
彼は閉じ込められて、研究材料にされるだろう。
ルディアナはディテウスと後に結婚して、帝国で幸せに暮らしたと言われている。
とある変…辺境騎士団(彼らは屑の美男をさらって愛でる変…集団だ)
「どこに屑の美男がいるんだ?」
「あそこの王国にはいなかったよな」
「エレント第二王子?彼は素晴らしい男だ。屑ではない」
「屑ではないな」
騎士団長「あいつらをも騙す魅了は怖いものだな。聖国に連絡をしておこうか」




