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第9話 ヴェーザー演習作戦

ゲルマン、日本、デンマーク、ノルウェーの4ヶ国の軍人が額を突き合わせた。




「ここに防御線を敷こう。トーチカなどはおかない。徹底的なゲリラ戦である。地形を最大限に活かして草木を使うのだ」




「コンクリートで固めないのか」




「ソ連軍は力攻めしか能がない。ゲリラ戦に弱い」




「我々の装備は脆弱である。ゲリラ戦なら十分に可能だ」




 大ゲルマンは対ソの防共を盾にデンマークとノルウェーの保護国化を表明する。実際にゲルマンの軍隊が国境線を超えたが、日本軍やチェコ・スロヴァキア軍、オーストリア軍など多国籍軍を見た。保護国化というと物騒に聞こえる。ソビエト連邦の侵略に集団的自衛権を行使する構えを為した。




 ソビエトがバルト三国や北欧に攻め入ることは諜報員が伝える。これを裏付けるように外交官が秘密裏に接触を図った。ソビエト連邦のモロトフ外相はゲルマンのリッベントロップ外相と不可侵条約の交渉を図る。欧州分割の秘密交渉に難渋を示せどテーブルと椅子についた。イワンは極東の友の大日本の勢力圏に攻め入る蛮行を犯すと交渉決裂は決定的である。ゲルマンはイギリスとフランスを牽制することを含めて東欧に要塞線を構築した。北はフィンランドから南はオーストリアまで防共協定を結んで極東には大日本帝国の旗が翻る。




「ソビエトはいつ攻めて来る」




「わからない。外交交渉をギリギリまで引き延ばして冬季の戦争に強いる」




「冬季装備は」




「我々は常に冬と生きて来た。この屈強な肉体が冬季装備である」




「我が国も北国の狩人が冬に順応している。北国出身者で固めよう」




「雪が降り積もれば大砲は使えない。せめて懸念点とすれば航空機の不足だった」




「わが軍の旧式機を供与する」




「ありがたい」




 ノルウェーとデンマークの保護国化は一般的に『ヴェーザー演習作戦』とされた。欧米という国際社会は軍事作戦と認識するが、ゲルマンと大日本ら防共協定の大規模な合同演習に過ぎず、ノルウェーとデンマークが参加を表明した。これが一番に問題視されたのである。両国の参加表明は自主的と言われるが、軍事的な恫喝によって強制されており、一種の侵略行為と非難の対象と変わった。チェコ・スロヴァキアやオーストリアの抱き込みを領土拡大と認識されている。それ故に今回も領土拡大の侵略行為と見られた。




 それはさておき、ゲルマンが北欧を味方に引き込むことは単に社会主義の流入阻止に終わらない。ゲルマンは鉱物系の資源をスウェーデン鉱山に依存した。ここを他国に盗られると前大戦の傷を癒して骨格から鍛え上げた肉体はあっという間にやせ細る。北欧に金と物と人を動員して保護することは決して無駄でなかった。




「しかし、国民を安心させるために名称は必須じゃないか」




「それも勇名を轟かせねば予備役を招集できない。我々は狩人の誉を携えた」




「マンネルハイム戦はいかがだろうか」




「それが良い。フィンランド人の誉れに響いた」




 この場にオブザーバーとフィンランドも参加する。フィンランドはソ連と国境を接する都合で常に脅威に晒された。現に領土割譲の恫喝を受けている。ゲルマンや日本の防共協定に接近して当然と評した。北欧諸国の軍備は表面的には整っていないが、兵士の一人一人は幼い頃から過酷な自然に鍛えられ、国土の険しい地形を活かした防衛戦を得意とする。ソ連の赤い津波も兵士の個々の能力に狭隘な地形が加わって突破できないはずだ。




 とはいえ、ソ連軍は圧倒的な火力と兵力を糧に力で攻めたてる。いかに強力な防衛線を構築すれどジリ貧は否めなかった。ゲルマン軍と日本軍より旧式化した装備を供与してもらうなどの支援を引き出す。フィンランドの国民的な英雄である将軍の構想を承継した一大要塞線を建設した。




「我々の海軍に港湾施設を貸していただきたい。フィンランド湾を掌握すればバルト三国を解放できた。ソビエトの尻を蹴り上げる」




「イギリスとフランスが何と言って来るか…」




「外交のことはわからないが、口だけの連中を信じるのかね。イギリスのチャーチルは特に信用できない」




「まぁまぁ…」




 ゲルマン軍高官がイギリスとフランスに敵意を剥き出しにする。日本軍高官が穏やかに宥めた。彼らは先の大戦争を知っている故に苦笑いを強いられる。たった数十年で国際情勢は一変した。嘗ての敵国が友邦国となる。嘗ての友邦国が対立候補になった。各国の軍高官が対ソを念頭に置いた防衛戦を練っている間に首脳陣も会談の場を設けている。




~オスロ~




「まずは我々の防共協定に参加して演習作戦を盛り上げたことに感謝申し上げたい」




 ノルウェーの首都たるオスロに各国の首脳陣が大集結した。ドイツはアドルフ・ヒトラー、デンマークはクリスチャン10世、ノルウェーはホーコン7世が出席する。日本は東久邇宮稔彦首相の代理人と吉田茂特使を派遣した。日本は現在進行形でソビエト連邦と交戦中な上に地理的に遠方が過ぎる。




「極東の国境紛争はどうなっているのですか?」




「対岸の火事と傍観する程に愚か者でない」




「ご心配には及びません。すでに和平交渉に入って原状回復で妥結するように言っています。国境付近の戦闘は優位に進んでいるようです。スターリンが粛清を再開したこともあって」




「独裁者は気まぐれで行動する。現場の者が可哀想でならない」




「えぇ、事実として、ゲルマンと日本に亡命する者が増加傾向にあります」




 オスロにおける議題は積み重ねられた。極東における満蒙国境紛争は一番に浮上し、ノルウェーとデンマーク、フィンランドは対岸の火事と傍観する程に愚かではないと危機感を覚える。この場にいないスウェーデンも同様だが、ゲルマンと日本だけでなく、イギリスとフランスに便宜を図ることで独立を保持した。それも後で防共協定に加わるだろう。




 満蒙国境線の大規模な武力衝突は膠着状態を維持すれど日本側に有利と進んでいた。当初はソ連軍に押し込まれたが、航空優勢より持ち堪えることに成功し、ゲルマン義勇軍の到着から反撃に転じる。両国は事態の長期化を懸念して早期の和平交渉に入ると紛争前に戻すことの原状回復に妥結する見込みを抱いた。




「どうにかソビエト連邦を内側から切り崩せないか」




「白系ロシア人の政府をシベリアに樹立できれば」




「当分も先になります。シベリアの蜂起はまず無理です」




「やはり奴らが攻めて来るのを待つしかできないのか」




 誰もがソビエト連邦と事を構えることを回避したい。ソビエト連邦の指導者たるスターリンは大粛清の大半を終えた。自身の周りに忠実な者を配置して反対する者は誰一人も残らない。バルト三国や北欧、極東の労働者を解放すると称した侵略行為はブレーキを失った。




「大義は我らにあります。なに集団的な自衛権を行使すれば世界を味方に付けられる。イギリスとフランスは否が応でも支援せざるを得なくなった」




「アメリカは傍観者を決め込むだろう」




「どうでしょうか。もしかしたら、ソビエト連邦を支援するかも?」




「世も末だな」




「アメリカが付いた方が勝つが…」




 欧州のことは欧州で対応すると意気込むが、アメリカの存在感は微塵も薄れない。アメリカは世界最強を誇る割に孤立主義を掲げて欧州情勢に感知しなかった。イギリスのチャーチルが盛んに反ゲルマンと反ソを訴えようと微動だにしない。彼らは究極的な自己完結を以て無関心を貫徹した。いざ欧州の大地で二度目の世界大戦が勃発すれば不干渉は揺らがるを得ない。是が非でも、防共協定に入れなければならなかった。




 アメリカの資本主義の自由主義とソビエト連邦の社会主義と共産主義は根本的に反りが合わない。両国が手を組むことはあり得ないと言われた。万が一のことを考えている。アメリカの支援を取りつけなければ欧州は赤色に染まり上がった。残念ながら、防共協定は単独でソビエト連邦を受け止める力はない。日本に挟撃してもらうと雖も無茶を呈した。したがって、アメリカの助力を得ることは必要不可欠と考える。




「ここは嫌われていますからな」




続く

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