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第2話 ユーラシア共栄圏

 私は本格的にソビエトの撃滅を目指して日本との連携を強めたい。




「日本にリッベントロップを派遣した。彼に日独交渉を委ねているが不服かね?」




「マインヒューラーに異議は許されません」




「フハハハハ…」




 ゲッペルスはやや不満そうである。リッベントロップとゲッペルスの二人で上手いこと競争してもらうつもりだが、ゲッペルスにも対日の宣伝工作を担わせており、彼の扇動の才は宣伝大臣に適した。リッベントロップは彼の外交手腕を評価し外務大臣に据える。私は貴重な人材を適材適所で配置することを第一とし、己に不満をぶつけて来る者でも大歓迎した。どこぞの赤い独裁者と違って安易に粛清するような愚は犯さない。




「君は不服で不満かもしれない。私はリッベントロップのユーラシア同盟を修正した。ソビエトを大ゲルマンと大日本で分割する。大ゲルマンは東方に生存圏を見出した。極東の帝国と友邦と握手を交わそう」




「ユーラシア共栄圏は聞き及んでおります。アルプスより高き崇高な思想に敬服が止まりません」




「そうだろう。私はロシアの民は素晴らしいと思っている。彼らは気の毒にも社会主義に洗脳された。彼らの洗脳を解いてユーラシアの大地に理想郷を築き上げる」




「アメリカとイギリスに対抗するために」




「ご名答だ」




 我々の大ゲルマンは東方生存圏を基にするユーラシア共栄圏を掲げる。これは東方生存圏に大ゲルマン=大日本の同盟を追加した。東方生存圏をユーラシア共栄圏に昇華した格好である。先の大戦争の恨みからフランスやイギリスに対する復讐論も根強いが、イギリスとフランスと再度も事を構えることになれば、超大国のアメリカ参戦を誘発しかねない。じわじわとすり潰されていく末に大ゲルマンは地図上から消失した。




 イギリスとフランス、アメリカが動き辛いようソビエトを標的に定めている。ソビエトは社会主義の権化と機能した。我々はソビエトを打倒して東方に理想郷を建設する。ソビエトの広大が不適当に思われる程の大地を制覇することは不可能と考えられ、かつユーラシアの大地を独り占めすることは良くないことのため、極東の大国たる日本に協力を要請してソビエトを左右から挟撃した。




 これこそがユーラシア共栄圏たる。




 ユーラシア共栄圏は単にゲルマン民族安住の地を設けるだけでなかった。アメリカとイギリスの世界制覇に対抗する。今更にフランスを攻め落としてイギリスも蹂躙することは非合理的な非現実的と断じた。両国が広義の島国であることに注目しよう。我々は友邦国と共に大陸単位の同盟を組むことで対等に渡り合うのだ。




「イギリスとフランスは必ずや大ゲルマンの拡張とゲルマン民族の移動を危惧する」




「それは想定の中に収まっている。なぜ日本を味方に引き込んだか」




「わかっています」




「わかっているなら良い。日本による中国への侵攻は構わない。中華民国側は良き友だったが、共産党に歩み寄った時点で敵と変わり、日本への派兵と武器の供与を開始した」




「日中の戦争は長期化を見込みましたが、大ゲルマン軍の参戦と共同戦線により、昨年に終了しました。汪兆銘を首班とした新政府が設置されています。それにしても…」




「アメリカが参戦しなかったことが奇跡に等しい。私は全てを見透かしているのだ。あの国は超大国を自称する割に引き籠りがちである」




 大日本と接近を強めて防共協定を締結する。仮想敵国はソビエト連邦を共有した。大日本は中国国民党・中国共産党と戦争の真っただ中にあり、大ゲルマンは当初こそ静観を貫徹したが、国共合作が行われると態度を豹変させる。国民党は共産党に成り下がってしまった。ユーラシア共栄圏のために日本支援を決定して直ぐに義勇軍の派遣、武器弾薬の供与、技術交換など一気に解き放つ。




 国民党はアメリカやイギリスの支援を受けた。大ゲルマンが日本を支援して何が悪いと言いたい。両国が本格的に参入して来る可能性が急上昇する大博打だった。ラインラント進駐や再軍備宣言が可愛く思えてくる。私も日中戦争に参戦することは二の足を踏むもリッベントロップが強引に押し通した。最新の兵器を出し惜しみせず投入したことで国共合作を火力で粉砕する。




「義勇軍の上げた報告書を読んだが非常に興味深い。日本軍の兵器は古臭い割によく考えられていた。戦闘機もメッサーシュミットと互角かそれ以上と纏めている」




「にわかには信じられません」




「認識を改めるべきかもしれん」




 義勇軍と称して正規軍に限らず武装親衛隊も派遣した。正規軍と親衛隊は日本軍に参加すると装備の差に苦笑を強いられる。日本軍は未だに古臭い小銃と軽機関銃、重機関銃を運用した。こちらの機関銃がベルト給弾式で猛烈な射撃の弾幕を張るのに対し、日本軍の機関銃は保弾板な上にノロノロとしており、とても機関銃とは思えない。戦闘機も固定脚の軽戦闘機でメッサーシュミットの前に旧式を主張した。




 それが一緒に戦うと評価は一変する。日本軍の兵士は体格に劣れど持久力に優れた。特に集団の戦闘力は親衛隊を上回る。武器の特性を最大限に理解した戦法は見事に尽きた。戦闘機もメッサーシュミットと模擬戦を行えば互角の戦いを見せつけられる。日本が驚異的なスピードで列強に台頭して先の世界大戦で敗北を喫した理由がようやく判明した。




「まずはイギリスとフランスを黙らせる必要がある。デーニッツは何と言って来たと思う?」




「宣伝大臣は口を出せない領域です」




「よくわかっているじゃないか。流石はゲッペルス君だな」




「恐れ入ります」




「デーニッツは日本海軍の連合艦隊と合同演習を提案してきた。海軍の大艦隊整備計画を廃案に追い込んだ。それの代案が日本海軍連合艦隊と合同演習とは予想だにしていないぞ」




「それは宣伝大臣としてもあり難いです。陸軍ばかり宣伝しても響き辛い。海軍の方が派手に勝りました。きっと、いえ、必ずや素晴らしい演劇となりましょう」




 日本軍の強さを理解したところでイギリスが遂に宥和政策の転換を検討し始める。チェンバレンの体調不良も囁かれた。同内閣の海軍大臣であるチャーチルが次期首相を確実視される。彼は何よりも大ゲルマンに対して強硬姿勢を崩さないことで知られた。彼が首相に就任するタイミングは読めない。牽制球を投げるための策を欲した。




 海軍大臣に就任したカール・デーニッツ元帥は自ら大ゲルマン海軍がイギリス海軍に遠く及ばないことを認める。私も大艦隊整備計画が到底間に合わないことを渋々認めてやった。その代案が日本海軍と合同演習を行って牽制するとは予想していない。デーニッツは「大ゲルマン=大日本の連合艦隊を組む」と弁舌を走らせた。




「まだ想像の段階に過ぎんが笑みがこぼれて来る。デーニッツは素晴らしいが…」




「ゲーリングですな。奴はいかがなさいますか」




「英雄な故に扱いが難しいが、決して、無能ではなかった。優秀な補佐を付けてやれ」




「外向けの顔にはちょうど良い人物です。穏健派の看板を掲げさせます」




「面倒をかけるな」




「お気になさらないでください。我が命はマインヒューラーのために」




 海軍に限らず空軍と陸軍にもメスを入れることを怠らなかった。私は全軍を掌握する立場にいる。自らの意思を三軍に幾らでも反映できた。神より預けられたギフトたる知識を糧に強権を振り上げながらも有用性を追求する。




「そろそろグデーリアンが来る頃か。君も新型戦車は見ただろう?」




「三号戦車ですね。主力戦車と聞きましたが不都合がありましたので?」




「いいや。グデーリアンの言うことを汲み取らねばならん。私は陸軍の中でグデーリアンを一番に信頼している」




 かのグデーリアンと機甲部隊の運用を語りたい。




続く

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