第8話 アーイディオンポース城下町にて
それから1週間後。
馬車は無事にアーイディオンポースの城下町に着いた。
「やー、ほんと助かったぜ。デザートウルフどもに囲まれた時はどうなるかと思ったが」
馬車の護衛を引き受けていたBランクパーティ”銀の槍”のリーダーから声をかけられた。
道中何度か魔物に出くわしたが、いちばんヤバかったのがデザートウルフの群れに囲まれた時だった。 普段20〜30頭の群れだが、この時は100頭を超えていた。
コーディが群れのボスとみられるゴールドウルフの頭を撃ち抜いて群れをバラバラにして、あとは各個撃破していった。ただ数が多くて大変だったな。
「あんた召喚士か?あの黒い獣は強かったなぁ」
ちまちまやっつけてたら、どこからかベヒモスがやってきて、デザートウルフを蹴散らしていった。
「あ、えーと、そんなところ。じゃあそろそろ行くよ」
「ああ、気を付けてな」
俺たちは"銀の槍”の面々を別れて、検問所の列に並んだ。
アーイディオンポースは城を中心に三重の城壁にかこまれた都市だ。
城の外側が貴族街、それのさらに外側が城下町となっている。
一番外側の防壁は東西南北にそれぞれ門があり、俺たちは西門の検問所に来ていた。
「あ、お久し振りです。どこか遠出をされていたんですか?」
「ええ。女王様からの依頼でね」
門番はリナベルたちの知り合いだったようだ。
「そうなんですね。……ということはこれから謁見ですか?」
「女王様もお忙しいでしょうから、申し込みだけね」
「それなら私からお伝えしましょう。しばらくはこちらに?」
「そうね。半月亭に泊まっているから、何かあればそちらにお願い」
「承知しました」
そんなやりとりだけで、俺たちはあっさりと通ることができた。
「すごいな、リナベルは顔パスなのか」
俺もろくに調べられずに通されたけど、大丈夫だったのか?
「うふふ。何かあったら私の責任になるからよろしくね」
「う、うん、わかったよ」
さすがにリナベルを怒らせるようなことは起きないと思うんだけど。
「それじゃ、宿をとって冒険者ギルドに行きましょうか。……それから買い物と、ライト君を鍛えましょうか」
ん?最後におかしな用事が追加されてなかったか?
「な、なぁ、最後の何か変な用事じゃなかった?」
「え?……だって精霊竜に頼まれたじゃない、機神から世界を守ってくれって。まさかもう忘れたんじゃないでしょうね?」
「そ、そんな訳ないだろ」
俺は冷や汗をかきながらなんとか答えた。
「それならいいけど。……で、今のライト君の力じゃ、残念だけど上位の機神には勝てないわ。だから私が鍛えてあげる」
いい笑顔のリナベルだけど、俺は悪寒がしてきた。Sランクに鍛えられたら、それなりに強くなれると思うけど、嫌な予感しかしないんだよな。
そんなこんなで宿を取ったあと、話しながら冒険者ギルドまで辿りついた。
リナベルとコーディについて俺も中に入った。相変わらずガラの悪いのが多いよな。
二人は真っ直ぐ受付まで進んでいく。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付の女性は茶髪のかわいい雰囲気だが、油断することなかれ。こう見えて元Aランクの冒険者だったりする。絡んだヤツはたいてい返り討ちにされていた。
「素材の買い取りをお願い」
「わかりました。ではこちらへどうぞ」
受付の女性は後ろの職員へ声をかけ、俺たちを隣の建物へ案内した。
隣の建物は倉庫兼魔物の解体をする所だ。だだっ広いこっち側が魔物の査定と解体をする所で、奥が素材の倉庫になってる。
「お、久し振りじゃねえか。いい素材がとれたか?」
ガタイのいいハゲのおっさんがリナベルに声をかけてきた。査定と解体部門の長、みんなは親方って呼んでる。
案内してくれた受付の女性は一礼すると戻っていった。
「期待する程じゃないわ。ま、とりあえずどうぞ」
リナベルは宙に手を突っ込んだと思ったら、色々な魔物を引っ張り出してきた。
収納魔法だ、いいなぁ。人によって中の大きさは違うみたいだけど、荷物持たないでいいから旅とかするのに便利だよな。俺は使えないからマジックバッグだけど。
「ほう、ゴールドウルフにデザートパイソンか、良いのが混じってるじゃねえか。このデザートウルフの数はどうしたんだ?70超えてるじゃねぇか」
「乗合馬車に乗ってる時に絡まれたのよ」
「お前らが乗合馬車だって!? どんな田舎に行ってたんだ?」
あー、悪かったね、そんな田舎に住んでて。
「ま、結構いるから少し時間をもらえるか?泊まってるのはいつもの半月亭か?」
「ええ、そうよ」
「わかった。じゃ、金額が分かったら使いをやるよ。だいたい2日後くらいだな」
「ええ、よろしくね」
俺たちは親方の「ヤロウども!仕事だぞ!!」の声を聞きながら、倉庫をあとにした。
その後は雑貨店に立ち寄った。
「ん?もういいのか?」
待っていた俺の所にリナベルたちが戻って来た。
「ええ。だいたいが食料だからね。それじゃいきましょうか、ライト君」
リナベルが、がしっと俺の肩を掴んだ。どうやら逃げられないらしい。
「お、お手柔らかに……」
城壁を一度出て、近くの森へとやってきた。確かにここなら人通りがなくていい。
魔物が来ても、この辺のやつはリナベルやコーディに勝てるわけないしな。
「じゃ、さっそくはじめようかな。ライト君のメインは魔法陣符?それとも剣?」
「まぁメインと言うなら魔法陣符かな」
「なるほど。それならよけいに使えた方がいいわね、収納魔法」
「え?それって後天的に覚えられるのか?」
使える人は誰にも教わらずに、それこそ子どもの頃から使えるって話だけど。
「そうね、ちょっと強引な方法になっちゃうけど、私なら使えるようにしてあげられるわよ」
「本当か!? そりゃありがたいな」
「じゃ、同意ってことね。いいわ、私の目を見てくれる?」
「ああ、いいけど……」
リナベルの目を見たとたん、眠気が襲ってきた。あ、これって花畑で……。