第7話 リナベルの正体
気付くと、元いた神殿に戻ってきていた。
「拒否権はないのな」
俺はボソッとつぶやいた。
だってまたあいつみたいなやつらを倒さなくちゃならないんだぞ?2倍ぐらい俺が強くならなきゃ相手すらできないのにな。
「まぁまぁ。それを言うなら私達も巻き込まれてるみたいだし」
「あー、なんかゴメン。俺もちょっと楽しそうだなと思ってたら、世界を任されるなんて思ってもみなかったんだ。……じいちゃんにハメられた?」
「あははは……」
俺とリナベルの会話に、コーディが乾いた笑いをもらした。
「まぁでもライト君と精霊竜の戦いはおもしろかったわよ。……2倍ぐらいで済んで良かったわね」
「あ、そういえばありがとな、リナベル。あれがなかったらちょっとヤバかったよ。……というか、リナベルはエルフだったのか?」
声だけで魔法を発動してたよな。
「 うふふ、私がエルフかって?……残念、私はね……」
リナベルが俺の前まで歩いてきた。
え?残念ってどういう意味?
「私は永遠を生きる者の一派、吸血鬼よ」
そう言うと、目にもとまらぬ速さで俺の首筋に噛みついてきた。
「!? なっ……」
動けない。リナベルはそのまましばらく俺の血を吸っていた。
「……ふ〜、ごちそうさま」
リナベルは顔を上げると、俺の首筋に手を当てた。
「回復」
その一言で、傷はきれいさっぱり塞がったのだった。
「吸血鬼……、ほ、本物……」
数千年を生きるといわれる希少種、機神との戦いではドワーフとともに『ギガントゴーレム』を作ったとされている。
「ごめんね、ライト君の魔力が美味しそうで味見したら癖になっちゃった。これから時々貰うから、私の正体を知っておいてほしかったんだ」
何だって!?
「隠してたら堂々と貰えないでしょ? あースッキリした。あ、もちろんコーディ以外の人には内緒でお願いね」
リナベルのめちゃくちゃいい笑顔に気圧されて、俺は首を縦に振っていた。
「……それじゃ、早く隣の村まで行きましょ。ライト君のためにも」
ん?俺のため?
怪訝な顔をしていた俺に、コーディが教えてくれた。
「身体強化の反動は次の日にくるんだ。すごく痛いから覚悟しといた方がいいよ」
何だって!!?
結論から言おう。
ほんとにむちゃくちゃ痛かった!
あの後なんとか日暮れ前に隣の村タルガスに辿り着いて、宿を取ったんだけど……ベッドに寝ころがったのがマズかった。そのまま睡魔に襲われて気が付けば次の朝。
「ぎゃあああああっ……!!!」
俺の悲鳴にリナベルとコーディが飛び起き、ついでに宿屋の主人と他の宿泊客が俺たちの部屋にやってきた。
コーディが説明している間にリナベルが回復をそっとかけてくれたおかげで事なきを得たが、宿屋の主人と他の宿泊客からはけっこう文句を言われた。
「ちょっと早いけどチェックアウトしましょうか」
「うん。……ほんとごめん」
「気にしないで。後先考えずに使っちゃった私も悪かったわ」
それから俺たちはアーイディオンポース行きの馬車を探しに行った。
「丁度良かったね、お客さんたちで満席だよ。あれ、冒険者さん?もしかしたら魔物の襲撃があった時に手伝ってもらうかもしれないけどいいかな?その時はちゃんと報酬を出すからさ」
俺たちは構わないと答えて馬車に乗り込んだ。