第6話 契約
「どこだろう、ここ……」
コーディがあたりを見回していた。夜空……に浮いてるように見えるけど、ちゃんと地面に足をついてる感じがある。
〝我等の呼びかけによく応えてくれた〟
夜空に突然、4体の竜が姿を現した。
「この感じ……あなた達が精霊竜か」
〝いかにも。我はサラマンダー〟
赤い体躯に炎の翼を持つ竜が名乗った。
〝我はレヴィアタン〟
青い鱗に覆われたヘビのような長い身体で、翼のある竜が名乗った。
〝我はティアマト〟
エメラルドグリーンの流線形で6枚の翼を持つ竜が名乗った。
〝我はヨルムンガンド〟
巨大でアースクリスタルのごつごつとした鱗と小さな翼を持つ竜が名乗った。
「……俺はライト。こっちがリナベルで、そっちがコーディだ」
精霊竜たちは順番に俺たちを眺めていた。
この世界の成り立ちとして、俺たちは精霊竜の存在を教えられる。親や教師が繰り返し語ることで、おそらく知らない人はいないと思う。
原初の精霊竜がこの世界に降り立ち、次々といろんな精霊竜を生み出して世界の形を整えた。その結果、様々な種類の生き物が生まれて、今の世界になったってわけ。まぁどこまで本当かよくわからないんだけどな。
ただ100年ぐらい前に『機神』との戦いで力を消耗したせいで、大地を維持する力が弱まって徐々に世界が荒廃しているってことは本当だと思う。それまでは結構頻繁に人々の前に姿を現してたらしいけど、最近は見ればラッキーなぐらいまで希少になってるもんな。
〝機神が再び目覚めた〟
唐突にサラマンダーが口を開いた。
〝あやつらを自由にさせてはならぬ。これ以上、この世界を疲弊させる訳にはいかぬ〟
レヴィアタンがサラマンダーの言葉を引き継いだ。
「そうだな……。だけど俺は……俺の力じゃ手も足も出なかった。もし仮に、あなた達の力を借りられても、勝てるかどうか分からないんだ……」
俺はうつむいた。あの恐怖はなかなか拭えない。
〝……よかろう、お前たちに試練を与えよう〟
ティアマトはそう言うと、残りの3体に合図した。それと同時に4体の精霊竜が合体し、とある姿を形作った。
「!! アクセラバード……!」
見間違えるハズがない、俺に重傷を負わせた機神の姿だ。
〝 我を倒してみせよ〟
アクセラバードの姿を模した精霊竜が襲いかかってきた。
「……三巨頭の一角、天のヴァルドファードの1の斧ね……。ライト君、ほんとよく生きてたわね」
リナベルが何か呟いていたけどよく聞こえなかった。
精霊竜は俺を狙って斧を振り下ろしてきた。やっぱり速い。
なんとか回避が間に合ったが、この感じは……。
「ぐっ……!」
返しに振られた斧を受け止めてしまった。頭じゃ分かってるのに身体が動かない。
かなり吹き飛ばされたが、壁がないのが幸いして、受け身をとることができた。
さらに俺に追撃しようとした精霊竜だったが、コーディの銃撃で牽制された。
「僕たちがいることもお忘れなく」
コーディは連続で銃撃を放つ。だが、やはり当たらない。
それどころか素早く前に出てコーディに肉薄した。
「リナベル、頼む」
コーディはそれを見越していたようだった。
「OK」
精霊竜の死角からリナベルが回し蹴りを放ち、精霊竜は吹き飛んでいった。
「すげえ……」
俺は思わず呟いていた。
だが精霊竜はすぐに体勢を立て直し、リナベルに襲いかかった。
しかしコーディがそれを許さない。再び銃撃を放ち、精霊竜を寄せ付けない。
「ライト君、大丈夫?」
その間にリナベルが俺の近くまで来ていた。
「そんなにダメージは喰らってないから大丈夫だ。だけど、どうやってあいつを倒せば……。俺じゃ明らかに力不足……」
言いかけた俺の唇にリナベルの人差し指が当てられた。
「これは多分、ライト君への試練よ。……初めて会った機神があいつだなんて気の毒すぎるけど、あれは精霊竜が姿を変えているだけだから。心を強く持って、惑わされないで」
そのリナベルの言葉で、俺は幾分か冷静になれた。
「そうだな……。わかった、ありがとう。……乗り越えなきゃ、だな」
俺はコーディと戦っている精霊竜を見据えた。
「前向きになれたご褒美に、おまじないをかけてあげる。身体強化〈全〉200%」
リナベルの指先から放たれた光が俺に吸い込まれた。同時に力がみなぎってきた。
「ライト君の全ての能力を2倍に強化したわ。頑張ってね」
全ての能力を2倍!? そんなことできるのか!? ていうか、リナベル魔法陣描かずに魔法使ったよな!?
「ゴメン!そっち行ったよ!」
コーディの銃撃の隙をついて、精霊竜が俺の方に向かってきた。
「こうなりゃやってやる!」
俺は「氷」の魔法陣符を使用、少し魔力を流して形態変化させた。
「喰らいやがれ!」
無数のつららが精霊竜に降り注ぐ。
さすがに多すぎて全ては避けきれず、アーマーにダメージが入った。
「うおお!? すげえ、ほんとに2倍だ!……お次はコレだ!」
「雷」の魔法陣符を使用、動きの止まった精霊竜に雷が直撃した。
「 もういっちょいくか!……ちっ!」
ダメージを受けたものの、精霊竜は気にも止めず俺に向かって突っ込んできた。
抜き身の剣で斬撃を受け流す。
「身体が軽い…!」
精霊竜が次に放った斬撃も余裕で受け流せた。
その後も何度か回り込まれるが、そのたびに攻撃を受け流す。
「やるじゃない」
「……しばらくは大丈夫そうだね」
リナベルとコーディは見守ることにしたようだ。
しばらく俺と精霊竜は打ち合っていたが、精霊竜の方がじれてきたようだった。
一度俺と距離を取ると、あの無数の斬撃を飛ばす技を放ってきた。
「くそっ……!」
半分ぐらいは対応できたが、残りを喰らってしまった。
だけど、最初の時とは雲泥の差だ。
俺は「回復」の魔法陣符で傷を癒した。
「!全快できた!これなら……!」
回復力まで2倍になってるとは驚きだ。
また精霊竜が突っ込んでくる。
俺は「風刃」の魔法陣符を使用、精霊竜は全てを避けきれず怯んだ。
その隙を見逃す手はない。俺は精霊竜に斬りかかった。
精霊竜は驚いていた。おそらく魔法陣符の使用を予測していたのだろう。
俺は斧を叩き落とし、精霊竜に刃を突き付けた。
〝見事だ〟
そう言うと、精霊竜はまた4体に分かれた。
〝そなたは乗り越えた。今こそ我らが力を託そう〟
ヨルムンガンドはそう言うと、球形の光を発生させた。他の3体も同じような光を発生させ、それらはゆっくりと俺の持つ透き通った水色の牙に吸いこまれた。
〝ライト、リナベル、コーディよ、機神よりこの世界を守ってくれ〟
〝我等も微力ながら力を貸そう〟
〝必要な時はその牙に願え、疾く駆け付けよう〟
〝頼んだぞ〟
サラマンダー、レヴィアタン、ティアマト、ヨルムンガンドがそれぞれ言い終わると同時に、再び転送される感覚が訪れた。