第50話 鍛錬
それから真祖を相手に、魔法の鍛錬が始まった。
最初に声で魔法が発動した時、ちょっとした感動ものだった。
だが、それもすぐに慣れて通常運転になる。
そして時折、真祖が生み出した幻の魔物と戦わされた。
対処を間違うと、容赦なく真祖から吸血された。
いや、むしろ間違うように、わざとそういう紛らわしいやつを選んでるとしか思えない。
「……そろそろ頃合か。そなたはリナベルが戦っているところを見たことがあるな?」
俺はうなずいた。
「不思議に思わなかったか?あの細い身体のどこにそんな力があるのかと」
再び俺はうなずいた。
アクセラバードと戦っていた時、吹き飛ばされてきたコーディをキャッチしたり、建物に激突したにもかかわらず無傷だったり。
確かに不思議だった。
「もともと吸血鬼は見た目によらず筋力はあるが、答えは身体強化、継続回復を使い身体能力を底上げしながら、風をその身にまとって防御膜としておるからだ」
うっ、身体強化だって!? あの、次の日激痛がくるやつか……!
でも、リナベルはけろっとしてるよな?
「パーセンテージにもよるが、身体強化は肉体にかなり負担がかかる。ダメージを受けた肉体を回復させるための継続回復という訳だ」
あ、なるほど。その場で相殺してるから次の日にダメージが来ないのか。
「ただ、この方法は我ら永遠を生きる者だからこそできる技だ。寿命がたかだか80年程度の人間が多用すれば、早死は避けられないだろう。もちろん教えてやるが、いざという時の切札としてとっておくがよい。それよりもそなたには、魔法を防御膜とする方法が有用と考える。やり方を教えてやろう」
真祖が言うには、まず自分の身体の外側に魔力を循環させるそうだ。
そして、その上に防御膜とする魔法を乗せる感じだという。
別に風じゃなくてもいいらしいけど、風が一番扱い易いから、まずはそれを覚えろってさ。
でもこれが意外と難しくて……。
「痛っ……!」
気付いたら右腕に裂傷ができていた。
すかさず真祖が吸血に来る。
鍛錬中はずっとこれだ。俺の血を1滴も無駄にしたくないらしい。
早く回復をかけたいんだけど、とは声に出して言えない。
言ったら最後、しばらく鍛錬に戻れないような気がするから。
「己の魔力の循環が疎かになっておるぞ、集中を切らすな。……戦闘で使用するにはもう少し時間がかかるか……。無意識レベルでこれができるようにならねばな」
なんだって!?
それから度重なる真祖の有り難いご指導で、何とかものにすることができた。
「ふむ。これでひとまずは魔術士として戦えるようになったな。……そろそろあちらも片がつきそうだ。最後に剣の方もみてやろう」
それが最後の地獄の始まりだった。
真祖は剣もべらぼうに強かった。
防御膜がなかったらほんとにやばかったと思う。腕の1本や2本は飛んでたかもしれない。
「せっかくだ、身体強化を使ってかかってくるがよい。今のそなたなら300%ぐらいはいけるであろう」
俺は言われた通り身体強化〈全〉300%を使用して真祖に挑んだが、結果は少しの間しかいい勝負にならなかった。
全力を出してぶっ倒れた俺は、再びベッドの上で目を覚ました。
「良いタイミングで目を覚ましたな。そろそろ移動しようと思っておった」
そう言った真祖は、前にも増して美しく、つやつやしていた。
……これはけっこう吸われたな。
俺はジト目で真祖を見た。
「最後だと思うとなかなか止められなくてな。寝込まない程度には抑えたつもりだが……悪かった、詫びにこれをやろう」
真祖は小さな紅い宝石のついた細いチョーカーを取り出し、俺の首に巻いた。
「お守りだ。他の吸血鬼よけにもなる」
それって……独り占めしたいだけなんじゃ?
「何か……言いたいことがあるようだな?」
「い、いえ、ありません。ただ……」
気になっていることがある。
「どうした?」
「ええと……真祖は桁違いに強いのに、どうして自ら機神と戦わないのかと思って……」
真祖は少し遠くを見たあと、再び俺に視線を合わせた。
「今はこの要の地の守護を、精霊竜から仰せつかっておる。傷ついた大地を癒すために、ここで力を注いでおるのだ。よって長くここを空けることは出来ぬ」
そうだったのか……。
真祖は人知れず、この世界を支えてくれてたんだな。
「さて、では行こうか」
真祖は俺を抱えると、転移の術を使用したのだった。




