第49話 スタートライン
ここはどれだけ時間が経っているのか分からない。
そして空腹感もないし、眠くもならない。
一体どうなってんだろう?
枷を外してもらって、衝撃から立ち直った俺に真祖は言った。
「そなたは弱い。せめて声で魔法を発動できるようにならねば、スタートラインにも立てぬ。魔術士として単独で戦うには無理がある」
「い、いや、でも……人間にはそれはできないって……」
真祖は再び魔法陣符を手に取った。
「それゆえの魔法陣符なのだろうが……確かにこれも発動する魔法が何か、相手に分からぬという利点はある。だがどうしても、収納魔法を使用して亜空間から出す、魔力を流す、という2 動作が必要だ。それを考えれば、声で発動するならば口を動かすだけ。圧倒的に速く発動できる」
「それは……」
確かにそうだけど。
「では、何故我々やエルフなどが声で魔法を発動できるのか教えてやろう。魂に魔法陣を刻んでおるからだ。魂に魔法陣を刻む行為を、我々は契約と呼んでいるが、契約できる魔法は個人で異なる。多く契約できる者もおれば、そうでない者もおる……それが一族の内で序列を生む原因になっておるようだが……これは余談であった」
そこで真祖は俺を見た。
「人間は契約の方法を忘れてしまった様だが、そもそも耐えられる者が少なかったからな。いつしか行わなくなったのだろう。……ここまで言えばもう分かるな?」
「……契約をする……?」
真祖はうなずいた。
「心配はいらぬ。幸いそなたは魔力量も多い、恐らく耐えきれるであろう」
そう言うと、真祖は俺を別の部屋に連れて行き、宙から筆とインク壺のようなものを取り出した。
「これにそなたの血を垂らせ」
真祖は俺に小さなナイフをよこした。
俺は言われた通りに人差し指を切って、インク壺のようなものに垂らした。
それから真祖は床に魔法陣のようなものを描いていく。
金色のインクで描かれたそれは、繊細な模様のようにも見え、とても芸術的だった。
「ふむ、これで良し。ライトよ、その中心に立つがよい」
俺はうなずいて、魔法陣のようなものの真ん中に立った。
「これには余が知る限りの火属性の魔法を詰め込んでおる。そなたがどれほど契約できるか分からんが、これが終わればその他の属性も順に契約していくぞ」
俺が返事をする暇もなく、真祖は魔法陣のようなものに手をついて呪文を唱えはじめた。
これは……恐らく古の言葉……。
すると、魔法陣のようなものが輝きはじめ、光が立ち昇った。
まぶしい……!
俺は思わず目を瞑った。
真祖が呪文を唱え終わると、光が収束し俺に吸い込まれていった。
床にあった魔法陣のようなものがきれいさっぱり消えている。
「おお、素晴らしいな。全て契約できたか」
どうしてわかるんだ?
俺は首をかしげた。
「契約できなかった魔法は陣のその部分だけ残る。陣が全て消えたということは、描かれていた全ての魔法と契約できたということだ」
俺の疑問を読み取ったのか、真祖は説明してくれた。
「……身体は何ともないか?」
俺はうなずいた。特に症状は感じられない。
「そうか。ならばこのまま続けていくぞ」
それから水、風、土、氷、雷、光、闇、聖、魔、回復、支援、状態異常など、真祖が知るあらゆる魔法と契約した。
「まさか、全て契約できるとは。これは逸材を見付けたな。そなたが吸血鬼であれば、余の側近に取り立てたいほどだ」
真祖は上機嫌のようだ。
「冗談はさておき、これでようやくスタートラインに立てたな。鍛えてやるから覚悟せよ」
ひええ、お手柔らかにお願いします……。




