第48話 枷からの解放と過去の断片
真祖の目をまともに見て眠らされてしまい、次に目が覚めるとベッドの上にいた。
俺は上半身を起こして辺りを見回した。
寝具の色が全てダークレッドで統一されていて、まるで血溜まりにいるような錯覚に陥る。
ノルドツァンナ王城にあったものよりさらに広いベッドには天蓋がついていて、下がっている布には金糸がふんだんに使われていた。
薄暗い室内は桁違いに広くはないようだが、置いてあるダークブラウンの調度品は細かい装飾が施されており、どれもが最高級品であろうことが見てとれた。
「起きておったか」
左側から声が聞こえて振り向くと、隣に真祖が座っている。
「なっ……」
真祖は驚く俺に構わず話し始めた。
「あの場にいたということは、そなたも鍛錬を望んでいるということで間違いないか?」
俺は首を縦に振った。
「そうか。……そなたの名は?」
「……ライト、です」
俺は辛うじて答えることができた。
「ライトか。……そなたは中々良い剣を携えておったが剣士か?」
俺は首を横に振った。そして宙に手を突っ込んで魔法陣符を取り出す。
「これが……俺のメインの武器」
真祖は俺の手から魔法陣符を取った。
「ほう。……そうか、人間は魔法陣が必要であったな……なかなか面白いことを考える。……いいだろう、余が直々に鍛えてやろう。その血を対価にな」
真祖は魔法陣符を置くと、いきなり俺を押し倒した。
そして覆い被さり、俺の首筋に顔を寄せた。
「まずは味見といこうか。ついでにそなたの魔力の流れをみてやろう」
そのまま犬歯を突き立てる。
「う……」
痛みに顔をしかめる俺を宥めるように、真祖は右腕で頭を優しく抱え、左手を俺の胸に置いて魔力を流しはじめた。
「ああっ……!」
圧倒的な魔力が俺の中を流れていく。意識を保つのがやっとだ。
どのくらいそうしていただろうか。
真祖は顔を上げ、俺の首筋の傷を癒した。
「……そなたの血は素晴らしいな。味、香り、質……どれほどの高級ワインをもってしても、そなたの血の足元にも及ばん。余は満足だ」
真祖はそれは美しく微笑んだ。
「だが……そなた、枷をはめられておるな」
「え……?」
それはどういう……?
「魔力量はそれこそリナベルに引けを取らぬぐらい多いが、出力する際に一般の人間と同じぐらいしか出力できぬように調整されておるようだ。つまり、この枷を外さぬかぎり、いくら鍛えても無駄だということだ。……この枷について、何か心当たりはあるか?」
全く分からない。
俺は首を横に振った。
「そうか。ならば外すか? 余であれば造作もないが?」
アクセラバードと渡り合うためには四の五の言ってられない。俺には力が必要だ。
「お願い……します」
「よかろう。少し我慢せよ」
真祖は俺の胸に置いた手から、再び魔力を流しはじめた。
「うう……うあああああっ!!」
質量が桁違いだ……苦しいっ……!
何か抵抗があったのか、真祖がぴくりと反応した。
「これはまさか……原初の精霊竜の……?」
その時、俺の中で何かがバリンと壊れる感じがした。
〝お願い……この子に普通の人間としての生を……歩ませてあげたいの……!〟
声が、聞こえた。女性の声だ。
「……誰……?」
記憶にない。この人が俺に枷を……?
「……そなたにはめられた枷は外れた。気分はどうだ?」
「気分は……気分というか、身体が軽くなった気がする……。けど……あの声はいったい……」
「そなたにも聞こえたか。どうやらその女が原初の精霊竜の力を借りて、そなたに枷を施したようだ。さすがの余も、その前後の記憶しか拾えなかったが……」
真祖は枷を壊した際に拾った記憶を、俺に語ってくれた。
二人組の男女が誰かから追われており、女性が身籠っていたこと。
ひっそりと出産したが、赤子が豊穣の力を発現したため、居場所が追手にばれたこと。
たまたま近くにあった精霊竜の神殿で、赤子が普通の人として生きていけるよう、精霊竜の力を借りて枷を施したこと。
追手から逃げる途中で致命傷を受けてしまい、田舎の親族に赤子を託してすぐに男女とも事切れたこと。
「余が拾えたのはこれくらいだ。二人組の男女はそなたの親とみて間違いなかろう」
俺の……両親。じいちゃんは二人とも魔物に襲われて死んだって言ってたけど。
「……ここからは推測になるが、そなたの母は何らかの特殊な力を持っており、誰かから狙われていたのではないか?そなたが普通の人生を歩めるよう願っていたことから、そう考えるが……。全く人間は難儀な生き物よ」
真祖は労るように俺の頭をなでた。
じいちゃんが二人から事情を聞き出せなかったのなら、今となってはもう、真相を知ることは出来ないだろう。
「ライトよ、もしそなたも同族から追われることがあれば、余のもとに参れ。しばしの間、匿ってやれるぞ?」
むしろ軟禁コースなんじゃないかと思ったが。
「……考えておきます」
いろいろ衝撃を受けた後では、それだけ言うのが精一杯だった。




