第47話 真祖
暗闇から声が響いた次の瞬間、うす明かりが灯り、凄まじいプレッシャーを感じた。
そこにいるそいつは、この世のものとは思えないほど整った顔立ちで、ぱっと見男か女か分からない。
リナベルより少し背が高く、肩まで届く銀色のストレートの髪と長い耳、そしてルビーよりも深い紅色の瞳をしている。ゆったりとしたマントを羽織っており、とにかく美しかった。
そして底なしの恐怖を感じる。逆らってはならない、俺は捕食される側だと強く認識させられ、嫌な汗が噴き出てきた。
「お久し振りでございます。真祖様」
そんなプレッシャーなど意に介さないのか、リナベルは流れるように美しい淑女の礼を取った。
そうか……こいつが吸血鬼の支配者……。
「息災のようで、なにより。……して、其れは余への供物か?」
真祖が俺を指さした。
「恐れながら、そちらは私の仲間で供物ではございません」
「供物でないと……。そのように良き香りを漂わせておきながら……」
気付くと真祖が俺のすぐ後ろにいた。いつの間に移動したんだ!?
そして俺の肩に手をかけ、首筋に顔を寄せる。
「! そなた、豊穣の力を持っておるな」
そう言ったと思ったら、真祖の影からもう一人真祖が現れた。
もう訳が分からない。
だがその瞬間、場のプレッシャーが跳ね上がった。
息をするのも、やっとだ。普通の人なら気絶しててもおかしくない。
「まさか……御身を現されるとは」
あのリナベルが驚いている。
「ここに来たということは、鍛錬に訪れたということであろう?なれば影に任せて良かったのだが、まさか豊穣の力を宿す者が現れたとあっては、余自ら歓迎せぬ訳にはいくまい?」
ということは、影から出てきた方が本物……?
いつの間にか真祖は一人になっていて、俺の正面に立っていた。
圧倒的なプレッシャーを受けて、全く動けそうにない。
「そう身構えるな。殺しはせぬから安心するがいい。……で、どうであった?」
真祖はリナベルに問いかけていた。
「余を差し置いて味見したであろう?」
「は……申し訳ありません」
リナベルは素直に白状した。
真祖は仕方のない奴という様な表情をしている。
「構わぬ。それが我らの性である故な」
そこで真祖はいい事を思いついたという風に、にやっと笑った。
「ふむ。リナベルよ、そなたと連れは先に鍛錬に入るがよい」
真祖が指を鳴らすと、リナベルとコーディの前に扉が現れた。
「この者は余が預かろう。無事に戻れ」
「は。ありがとうございます」
リナベルとコーディはうなずき合うと、扉に入っていった。
正直こんな化物と二人きりにしないで欲しかったが、俺がリナベルなら同じようにしただろうから責められない。
「……では、我らも参ろうか」
真祖は俺と目を合わせた。
あ、これはやばいやつ……。
眠りに落ちる直前、真祖が俺を抱きとめる感覚があった。




