第43話 スールブリッサの宿屋にて
ジェラルド団長に教えてもらった宿屋は、1階が食堂兼居酒屋、2階が客室という造りだった。
1階で簡単な食事を摂ったあと、俺とコーディは同じ部屋、リナベルは別の部屋を案内された。
一瞬あれっと思ったけど、考えてみればこれが普通なんだよな。大体いつも三人一緒だったから、同じ部屋が当たり前みたいになってたけど。
さすがにノルドツァンナの宿みたいに広くはなくて、普通の木製のベッドと荷物置きのクローゼットもどき、それにサイドテーブルと椅子が置いてあるだけの質素な部屋だった。
部屋に落ち着いてしばらくすると、リナベルが俺たちの部屋にやって来た。
「どうしたんだ?」
俺と同じく少し元気がないように見える。
「……ちょっと相談があって。……ほら、このままじゃ私たち、まとめてアクセラバードのお世話になりそうだから、次の任務が終わったら少し鍛錬の旅に出ない?」
確かにアクセラバードは圧倒的だった。その気になれば俺たちを一瞬で制圧できる程に。悔しいけど本当に、今までの戦いは奴にとって全くのお遊びだったのだ。
「うん。もちろんいいに決まってるけど、あてはあるのか? 俺はともかく、リナベルたちは強いから、並大抵のとこじゃ鍛錬にならないだろ?」
「思い出した所があってね。吸血鬼の真祖が部下を鍛えるために作ったって言われる所なんだけど。ただ……ちょっとアクセスが悪くて、できれば最後に少しだけベヒモスに乗せてもらえたらな、と思って」
リナベルは期待するように俺を見た。
「ああ、分かった。ベヒモスに頼んでみるよ」
「良かった、ありがとう。……“飛翔”で二人を抱えて飛ぶには結構しんどいから」
ん? ちょっと待った。
「リナベル、飛べるのか?」
「ええ、一応ね」
飛べる、という単語を聞いたことで、俺の中で引っかかることがあった。
「だったら……マキナプラントから脱出した時に……」
リナベルだけでも飛んで逃げられたんじゃないか、という言葉は、被せるように挟まれたリナベルの言葉に遮られた。
「“脱出”は少し特殊な魔法でね。かなり魔力を消費する上に、使った直後は一時的に他の魔法が使えなくなるのよ。……まさかグラナギアと遭遇するとは思わなかったから……ちゃんと説明してなくて、ごめんね」
「そうだったのか……。いや、俺の方こそベヒモスを呼び出すのを忘れててごめん。何で呼ばなかったと怒られたよ」
リナベルは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、その時のベヒモスに翼があったことを思い出したらしい。
「……ああ、そういうことね。でも、ベヒモスが怪我をした私たちを運んでくれたんでしょ?」
「うん、ディアがそう言ってたよ」
「うふふ、ベヒモスにはお世話になってるわね」
「ああ、今度まとめてお礼を言っとくよ」
「ありがとう。……それじゃ、そろそろ寝ようかな。また明日ね」
リナベルはそう言うと、部屋から出ていった。
あれ? 今日は血を吸われなかったな。
それから俺とコーディも休むことにしたけど、俺はどうにも寝付けず、窓から屋根に上がって星を眺めていた。
〝……すまなかったな〟
そんな俺の隣にベヒモスが現れた。
「どうしたんだ……?」
〝……我を頼れと言っておきながら、大して役に立てなかった……〟
ああ、アクセラバードとの戦闘時のことか。
「ベヒモスが気に病むことじゃないさ……俺だって一瞬であの状況になるなんて想像できなかったし……」
ベヒモスは何も言わない。
「……あの状況で、何で俺を連れて行かなかったとか、いろいろ疑問は残るんだけど、俺たちはまだ生きてここにいる。大丈夫だ、絶対に強くなってあいつをギャフンと言わせてやるからな」
俺はぐっと拳を握りしめた。
「あ、そうだ、それで今度リナベルが鍛錬できる場所に連れて行ってくれるらしいんだ。で、そこに行くために少しだけベヒモスに乗せてほしいんだけど、大丈夫か? あと、お世話になったからお礼を言っといてってさ」
ベヒモスはゆっくりとこちらに顔を向けた。
〝……お前は立ち直るのが早いのだな。……いいだろう、必要な時に呼ぶがよい〟
「ありがとう、ベヒモス」
それからしばらくの間、俺たちは夜空に浮かぶ星々を眺めていたのだった。




