第40話 アクセラバードからの誘い
ガーディアンフォースの仲間たちは、すでに住民と共にこの場を離れている。
助けを求めても……いや、恐らく被害が増えるだけだ。
俺もすでに精霊竜を2体呼んでいて、かなり精神力を消耗している。
正直どうにかして逃げたいが、目の前の相手はそれを許してはくれないだろう。
となれば、やるしかない。
俺はリナベルとコーディに小声で伝えた。
「サラマンダーとヨルムンガンドを呼ぶよ。ここなら他の人を巻き込む心配はないから。その後は頼んでいいか?」
リナベルは俺の目を正面から見た。
「……分かったわ」
二人ともこの場からは逃げられないという結論に至っていたのか、覚悟を決めてうなずいた様だった。
「……相談は終わったか?さあ、我を楽しませてみせよ!」
アクセラバードが斧を構えた。
「サラマンダー、来てくれ!目の前の機神を焼き尽くしてくれ!」
透き通った水色の牙に手を当てて願うと、炎の翼を持った赤い竜が現れた。
〝いいだろう!喰らうがよい!〟
瞬間、目の前が赤一色に染まった。
獄炎が辺り一面を覆い尽くしている。
「ありがとう、サラマンダー」
〝……仕留め損ねたか〟
そう言ってサラマンダーは消えていった。
……この中を生きてるってのか!?
俺は再び透き通った水色の牙に手を当てて願った。
「ヨルムンガンド、来てくれ!目の前の機神に鉄槌を!」
すぐにごつごつしたアースクリスタルの鱗を持った竜が現れた。
〝任されよ〟
途端に地割れが起き、そこから無数の鋭い槍のような岩が生え、上からは岩石の雨が降り注いだ。
「ありがとう、ヨルムンガンド」
〝……タフな相手だな〟
そう言ってヨルムンガンドも消えていった。
まさか、倒しきれてないのか……?
次の瞬間、凄まじい疲労感が俺に襲いかかった。
立っていられず、その場にへたり込む。
「ライト君……!」
俺は荒い呼吸を繰り返す。リナベルの呼びかけに答える余裕もなかった。
その時、ベヒモスが姿を現した。どうやら俺を守ってくれるようだ。
「……来る!」
コーディが鋭く叫んで、斬りかかってきたアクセラバードの斧を受けた。
ほんとに生きてたのか……!
「小賢しい精霊竜め、あれしきで我を倒せると思ったか!」
アクセラバードのアーマーは汚れていたものの、動きは全く変わらない。
どうやったらあれを防げるんだ?どう見たって大規模災害だろ……。
コーディとアクセラバードが打ち合っている間に、リナベルが何かを唱えている。
詠唱魔法だ……!
「……滾れ、爆ぜよ、地獄の釜のように、等しく訪れる死を振り撒け!爆熱獄炎!」
発動までに時間がかかるため、実戦向きではないが、絶大な威力を誇る魔法。
コーディは分かっていたように、アクセラバードから離れている。
直後、アクセラバードにいくつもの巨大な火球が降り注ぎ、炸裂した。
……こっちも大規模災害級な威力だな……。
だが、リナベルもコーディも警戒している。
粉塵が収まると、やはりそこにアクセラバードが立っていた。
「……ハハハッ、やるではないか吸血鬼!我にダメージを与えるとは」
見ると、アクセラバードの胸部のアーマーに少しヒビが入っている。
「いいぞ、そなた達は気に入った」
そこから何が起きたのか、ほとんど分からなかった。
アクセラバードから離れていたはずのコーディが、俺の目の前まで吹き飛ばされてきた。
そしてコーディの持っていた大剣を使い、その大腿部を刺し貫き、地面に縫い留めた。
コーディから苦悶の声がもれる。
それを阻止しようとしたリナベルは、口を塞ぐように頭部を掴まれ、宙吊りにされた。
俺は手を引かれ、無理やり立たされた。
そして、顎に手をかけられ上を向かされる。
ベヒモスも反応できなかった様だった。
「そなた達、我の部下となる気はないか?」
なん……だって!!?
もがいているリナベルも、一瞬動きを止めた。
足に刺さった大剣を抜こうとしていたコーディも、正気か?という風にアクセラバードを見上げた。
「我々は常に戦力を必要としている。強い者は大歓迎だ。……もともとお前には礼をする予定だったがな」
アクセラバードは顎にかけた手に力を込め、俺を引き寄せた。
俺は嫌だという風に首を振る。
「……ライト君の言う通り、僕たちはお前に屈しない。決してだ」
唯一まともに喋れるコーディが、アクセラバードに否を告げた。
「そうか」
アクセラバードは短く言い、俺の顎にかけた手を外した。
俺は再び地面にへたり込んだ。
そしてリナベルを下ろし、コーディの足に刺さった大剣を引き抜いた。
コーディは再び苦悶の声を上げた。
「……まだまだ我を楽しませてくれるということか。なれば良し。今回は手を引いてやろう」
そう言うと、俺たちに背を向け、そのまま去っていった。
俺たちはしばらく呆然とその背を見つめていたが、リナベルが最初に我に返ってコーディの足の手当てをした。
「……命拾いしたようだけど、ただの気まぐれなのか、よく分からないわね……」
「そうだね……」
本当にアクセラバードの意図はよく分からなかったが、その底無しの強さだけは、俺たちの記憶に深く刻まれたのだった。




