第39話 ノルドツァンナの異変
その翌日。俺たちはディアに別れを告げて、メーネラントの町へやってきた。
待っていた飛空機械の操縦士は、クラウストルムに行く時にお世話になった人だった。
愛機が直って再び空を飛べるようになって嬉しそうだったが、最近機神共の空飛ぶ兵器「機竜」が増えているらしく、撃墜された仲間もいるから素直に喜べないそうだ。
飛空機械に乗り込み、集まったメーネラントの町の人々にも別れを告げて、一路ノルドツァンナに向けて出発した。
操縦士は俺を見て、なぜか首をかしげていた。
あっと気付いて、俺は慌ててイヤーカフを外した。途端にいつもの姿に戻った俺を見て、操縦士はびっくりしていた。
ノルドツァンナまでは大体1時間ぐらいかかるらしい。「機竜」に出会わないことを祈るばかりだ。
あと少しでノルドツァンナが見えるというところで、その方角から煙のようなものが見えた。
ノルドツァンナに近付くにつれ、煙が増えていく。
……どうも嫌な予感がする。
ついにノルドツァンナの上空にさしかかり、その全容が視界に映った時、俺たちは息を呑んだ。
いたるところから火の手が上がり、それは王城も例外ではなかった。
眼下には、ところどころ陽光に反射する金属のような動く物体が確認できる。
ノルドツァンナは機神の襲撃を受けていた。
すでに陥落寸前なのだろう、町から避難する人々を襲おうとする機神の群と、ガーディアンフォースたちが交戦しているのも見える。
だが、多勢に無勢、ガーディアンフォースたちの状況は劣勢だ。
何か、出来ることは……。
俺はおもむろに首から下げている透き通った水色の牙に手を当てて願った。
「……ティアマト、来てくれ。逃げ惑っている人を襲う機神を倒してほしい」
飛空機械の側に、エメラルドグリーンの美しい鱗と6枚の翼を持つ竜が現れた。
〝ようやくお呼びが掛かったか。……いいだろう〟
ティアマトは竜巻をいくつも発生させ、機神共を巻き上げていく。
適当な所で風の障壁に閉じ込め、中で切り刻んだ。
それを数回繰り返すと、機神共の数が激減した。
最初は驚いていた人々も、それが精霊竜だと分かると、口々に感謝の言葉や祈りの言葉を唱えていた。
〝これでしばらくは時間を稼げるだろう〟
「ありがとう、ティアマト」
俺の言葉にうなずき、ティアマトは姿を消した。
「次は……、レヴィアタン、来てくれ」
今度は青い鱗を持つ、翼のある蛇のような竜が現れた。
「町の消火を頼みたいんだ」
〝あいわかった〟
レヴィアタンは城の上空へ移動すると、力を行使した。
大気中の水蒸気に自らの力を加え、雨を降らせたのだ。
その結果、人々は雲がないのに水が落ちてくるという珍しい現象を目撃した。
しばらく降り続いた雨は、全ての火を鎮火させたのだった。
「ありがとう、レヴィアタン」
〝礼には及ばぬ〟
そう言うと、レヴィアタンも姿を消した。
……かなり精神力を消耗したみたいだ。俺は大きく息を吐いた。
飛空機械の操縦士は目をぱちくりさせている。自分が見たものが信じられないようだ。
「……あなたは正しく力を使うことが出来ると分かっていたから、精霊竜に選ばれたのね」
リナベルがぽつりともらした。
「君は……何気なく使える力を使っただけかもしれないが、これだけの力を使うことが出来れば、それは奇跡と呼ばれるに等しい行為だよ」
「コーディ……」
その時、リナベルの持っているナビゲーションボードからジェラルド団長の声が聞こえてきた。
〝悠久の翼、聞こえていたら応答してくれ。繰り返す、悠久の翼、聞こえていたら応答してくれ〟
リナベルは袋からナビゲーションボードを取り出した。
「ジェラルド団長、聞こえています、悠久の翼です」
〝良かった、戻っていたか!精霊竜が2体も現れたから、もしやと思ってな。戻って早々すまないが、現在ノルドツァンナは機神の攻撃に遭い、城も陥落してしまった。今は住民たちをスールブリッサ王国に避難させるため、西にある近くの山中の大規模転移陣まで誘導しているところだ。君たちには避難が遅れている東側の住民の誘導を頼みたい。住民の避難が終わり次第、我々もスールブリッサ王国に向かう〟
「分かりました」
俺たちは飛空機械を降りて、城下町の東側へ向かった。機神の数はずいぶん減っていたが、それでも時折襲いかかってくるやつを倒しながら、住民の避難を手伝った。
途中からは、ガーディアンフォースに所属する他の冒険者パーティと連携しながら住民を誘導し、ついに最後の住民を見送ることができた。
そして、検問所だった所から外に出た時。
「……精霊竜が現れたとの報告を受けて来てみれば、やはりそなた達だったか。あれを受けて生き延びていたとは、我は嬉しいぞ」
そこにはアクセラバードが立っていた。




