第38話 隠者の庭園にて
その日の夕方、飛空機械がメーネラントの町に到着した。
俺たちはその様子を、ディアの小屋の庭から眺めていた。
リナベルとコーディが倒したでかいタコみたいな魔物の処理は、自警団らしき集団に任せ、俺たちは一足先にディアの小屋へと戻って来ていた。
「やっぱり俺はここの方が落ち着くな」
そう、ディアの好意で泊まらせてもらえることになったのだ。
メーネラントの町からディアの小屋まで、徒歩で大体1時間ぐらい。その道すがら、リナベルとコーディにも、ディアは自らの身の上を話していた。
「でも、まさかディアのお兄さんだったとはね……」
「うん……」
夕食をとった後、俺たちは庭にあるテーブルセットで、言葉少なに星を眺めていた。
「……それで、ライト君は精霊竜の剣を自分の意思で生成できるようになったのね?」
食事中にリナベルから聞かれ、鳥型の機神に連れ去られそうになった件の詳細と、ディアの兄さんに会う約束をしたことも話していた。
「ベヒモスの協力があれば、だけど」
その俺の返事に、リナベルは腕を組んで難しい顔をしていた。
「……そのことがバレたら、ノルドツァンナの貴族たちは何としてでもあなたを手に入れようとするでしょうね」
「う……」
自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。リナベルもそれに気付いた様だった。
「大丈夫よ。使わなければバレないから」
そう言ってリナベルはウインクした。
いや、まぁそうなんだけど……。
「お休み前にハーブティーはいかがですか?」
ドアの閉まる音が聞こえた方を振り向くと、ディアがティーセットを持って庭に出てきた。
俺たち三人はお礼を言ってカップを受け取った。
「は〜、落ち着くわね」
「そうだね」
「……うん」
カモマーラル・ハーブの優しい香りが染み渡っていく。
ハーブティーを飲み終わると、いくらか落ち着くことができた。
今はあれこれ考えてもしょうがない、俺に出来ることをやるしかないよな。
そんな考えが浮かぶほど、リラックスできたようだ。
「……ディアのことをいろいろ教えてもらったから、私のことも少し教えましょうか」
唐突にそんなことを言って、リナベルはディアに近付いていった。
一瞬、リナベルの目がキラリと光った気がした。まさか……。
そして目にも留まらぬ速さで、ディアの細い首筋に噛みついていた。
「えっ……」
ディアは目を白黒させている。
そのまましばらく血を吸うと満足したのか、首の傷の手当てをしてディアから離れた。
「吸血鬼……本当に?」
「正解よ」
リナベルはとっても良い顔で微笑んだ。
「あなたは……陽の下を歩める者ですよね?かなり真祖に近い、高貴な方では……」
リナベルはひらひらと手を振った。
「そんな大層な位の者じゃないわ」
陽の下を歩める者。陽の光が苦手な吸血鬼の中でもほんの一握りしかいない、陽の光に対して強い耐性を持つ者のことを指すって、何かの本で読んだことがある。
確かにリナベルは昼も関係なく活動してるよな。
そして、吸血鬼には絶対的な力を持つ「真祖」って呼ばれる支配者がいる。
この世の始まりから生きてるって噂だけど、本当かどうかは分からない。
でも陽の下を歩める者が真祖に近いって話は初めて聞くな。
まあ、リナベルを見るかぎり、そんなに高貴ってわけじゃなさそうだけど。
「……ライト君、今なにか失礼なことを考えなかった?」
「え? そ、そんなわけないだろ」
何でバレたんだ?
見るとリナベルがにやっと笑っている。
もしかして、カマをかけられた?
「顔に書いてあるわよ。……そんな悪い子は吸血鬼に食べられちゃうぞー!」
やっぱりこのパターンか!
「イヤだー!!」
割と本気で逃げたのに、あえなくリナベルに捕まり満足するまで血を吸われた。
そんな俺たちを、コーディとディアは生暖かい目で見守っていたのだった。




