第37話 ディアの事情
鳥型の機神に捕まってから、結構遠くまで来ていたようだ。
メーネラントの町まで歩いて戻る間、ディアは自分の身の上を話してくれた。
ディアは2人兄妹で、兄がいること。その兄が罪を犯し、兄妹共々エルフの郷を追放されたこと。罰として魔法の使用を禁じられていること。しばらく放浪の旅をしていたが、今はここに落ち着いていること。自分の住んでる所を人が“隠者の庭園”と呼んでいること。
俺がディアの小屋で目を覚ました時、包帯が巻かれていたのはそういう理由だったのか。
エルフなら「回復」ぐらい朝飯前だからな。
「……なあ、ディアの兄さんは何をしたんだ?」
ちょっと不躾だったかなと思いながらも、聞かずにはいられなかった。
ディアは少し間を置いて話し始めた。
「……兄は鍛冶師で、とある王様から依頼を受けて、精霊竜の剣を作成しようとしていました。それで……ある日、とても良い剣が出来て、威力を試そうとしたのですが……暴走してしまい、同胞や協力者が住んでいた町を消し飛ばしてしまったのです……」
声が出なかった。
昨日まで自分と会話していた人たちや自分が住んでいた町が、一瞬で消えてしまう恐怖。
きっと一番辛かったのは、ディアの兄さんだろうに……。
リナベルから聞いた話に出てきたエルフの鍛冶師は、ディアの兄さんのことだったのか……。
町一つを丸ごと消滅させてしまえる力……ノルドツァンナの王様が手に入れたがる訳だ。
「……兄はドワーフたちの住む村で、今でも精霊竜の剣を完成させようと打ち続けていると聞いています。……ライト、お願いです、今すぐにとは言いません、兄に会ってくれませんか……?」
ディアは俺の手を取って、必死に訴えてきた。
「会って、兄に本物の精霊竜の剣を見せて欲しい……。多分……諦めがつくんじゃないかと……思うから……」
ディアの目から涙が一滴こぼれた。
俺に想像できることは限られてるけど、きっとたくさん苦労があったと思うし、兄さんに対しても複雑な思いがあるに違いない。
「……分かった。町に戻ったらリナベルとコーディに話してみるけど、いいか?……多分、ディアの兄さんに会うこと自体は反対しないと思う。ただ、ガーディアンフォースの任務があるから、その合間になりそうだけど」
「はい、大丈夫です。本当にいつでも構いませんから……。ありがとう、ライト」
ディアからハグされた。
エルフってドライなイメージがあるけど、ディアはけっこう感情表現が豊かだよな。
もしかしたら、昔はそうじゃなかったかもしれない。エルフの郷を追放されてから、100年以上こっちで暮らしてる間に感情が豊かになったとしたら……。
そう考えると、俺は少し複雑な気持ちになったのだった。
メーネラントの町に辿り着き、下水道の入口まで行くと、人だかりができていた。
「何かあったんでしょうか?」
二人で人だかりの後ろから覗いてみると、なんと、でかいタコのような魔物が倒れていた。だらんと地面に伸びているそいつは、建物3軒分ぐらいの大きさがある。
「な、なんだ? あれ……」
その時、後ろから走ってくる音が聞こえてきた。
「ごめん、お待たせー!なかなか臭いが取れなくて……って、ライト君とディアじゃない!良かった、無事だったのね!巨大な鳥型の機神に連れて行かれたって聞いてたから……」
足音の主はリナベルとコーディだった。リナベルは一気にそこまで言うと、ほっとした表情を見せた。
「良かった、無事だったか。ちょうど捜索に出ようとしていたところだった」
いつの間にかリーダー格の男と、自警団らしき集団が、俺たちの周りに集まっていた。
「……見ての通り、あの魔物が下水道の奥に棲み着いていたんだ。病気の原因はやっぱりあいつで、お二人が倒してくれて、もう病気になる心配もなくなった」
リーダー格の男は、1人の男に目配せした。
うなずいた男は、人だかりの中からあの爺さんを連れてきた。
「さ、ルドガー、言うことがあるんだろ?」
リーダー格の男に促され、爺さんがディアの前までやってきた。
爺さんは少し迷っていた様だったが、覚悟を決めたようにうなずくと、ディアを見上げた。
「……今までいろいろと言いがかりをつけてすまんかった。全部儂の勘違いじゃった、申し訳ない。この通りじゃ、どうか許してほしい」
頭が地面につきそうなほど腰を折って、爺さんが
頭を下げた。
周りに集まった人々が固唾を飲んで、事の成り行きを見守っている。
ディアは爺さんに頭を上げさせ、そのシワだらけの手を取った。
「私も疑いが晴れてほっとしています。今までのことは水に流して、これからは仲良くして頂けると嬉しいです」
そのディアの言葉に、爺さんは目を見開いた。
「儂を……許してくれるのか」
「はい、もちろんです」
周りに集まった人々から、わっと歓声が上がった。
ディアと爺さんは抱擁を交わしている。
俺たちも自然と笑みがこぼれていた。




