第36話 病の原因
表の通りを真っ直ぐ突き当たりまで進み、左に曲がって爺さんの家まであと少しだと教えられた時。
「ん?」
今なんか変な臭いが……。
「どうしたの?」
急に立ち止まった俺に、リナベルが声をかけた。
「ここら辺……変な臭いがしないか?」
「んん?……よく分からないけど……」
リナベルは首をかしげている。俺はもう一度臭いを嗅いでみた。
「こっちから臭ってくるみたいだ」
俺は臭いを辿っていく。他の人たちもどうした?という風についてきた。
「……ここだな」
目の前には鉄格子の扉があった。
「……下水道への入口だな」
リーダー格の男が言った。
「確かに少し臭う気がしますが……」
ディアが鉄格子の奥を覗き込んだ時だった。
ぶわっと奥の方から生暖かい風が吹いてきた。
「きゃっ!……コホコホッ……!」
風を吸い込んだディアが咳き込んだ。
「病気の吐息か……!息を止めて!この風を吸い込んだら肺をやられる!」
コーディの警告に、全員速やかに鉄格子から距離をとった。
「……中に、何かいる?……ゴホッ」
まずい、少し吸い込んだみたいだ。「異常解除」で治るか?
俺は試しに自分にかけてみた。
すると、胸の違和感がきれいさっぱり無くなった。
……治るんだ、ちょっと驚きだな。じゃなくて。
俺は他の人に向けて「異常解除」の魔法陣符を使用した。
「おお!なんだかスッキリしたぞ」
どうやら治ったみたいだ。爺さんが喜んでる。
「ありがとう、ライト」
ディアにハグされた。フローリア・ハーブのいい匂いがする。
ん?まてよ。ディアが鉄格子の前に立った時に、あの風が吹いてきたよな?
「やっぱり中に何かいるよな?んで、そいつはディアの香りが嫌いなんだ」
「そうね。……ディア、何かいい香りのするハーブを持ってない?」
「ええと……、これでいいですか?」
ディアはリナベルに精油の瓶を手渡した。
「ありがとう。後でお代を払うわ。……コーディ、これを鉄格子の奥に投げ込んでくれる?」
「了解」
コーディは言われた通り、精油の瓶を鉄格子の奥に投げ込んだ。
格子部分にぶつけないなんて、ナイスコントロールすぎるだろ。
瓶が割れる音がして、すぐに強風が吹いてきた。
「ほ、ほんとに何かいるのか……!」
リーダー格の男がびっくりしている。
「ライト君、ビンゴね。……お爺さんの家はこの近くなんでしょ?そして、恐らくディアもこの近辺でお店を開いてるんじゃないかしら?」
「よ、よくわかりましたね……」
ディアも違う意味でびっくりしている。
「で、ディアの扱う品物は、今コーディが投げたような精油みたいに、いい香りのする物もあるだろうから、その香りがこの中に流れていった時に、中にいる何かがさっきみたいに風を起こして、病気を振り撒いてるんじゃないかしら?」
「だ、だとしたら、儂は……」
「何にせよ、調べる必要があるわね」
リナベルはショックを受けているらしい爺さんに向き直った。
「本当に中に何かがいた時は、ちゃんとディアに謝ってね」
そしてリナベルは俺を見た。
「ライト君、今回は私とコーディに任せてちょうだい。……君はあの風を防ぐ手段を持っていないでしょ?」
た、確かに……。
「分かった。気を付けてな」
リナベルはうなずいた後、リーダー格の男に鉄格子を開けてもらい、コーディと共に中に入っていった。
そいつは、まるでその時を狙っていたかのようにやって来た。
リナベルとコーディを見送っていた俺は、背後から来たそいつに全く気付けなかった。
「きゃあっ……!」
ディアの悲鳴と俺が鷲掴みにされたのがほぼ同時だった。
「離せっ……!」
地上がどんどん遠ざかっていく。
俺は鳥型の機神に捕まっていた。トランキルの町でアクセラバードが呼んだやつと同型だ。
アクセラバードのやつ、あの時の命令をこいつらにずっと継続させてるのか?
……ちょっと待て。何で俺が分かったんだ?こいつらには認識阻害が効かない?
下を見ると、ディアが追いかけてきていたが、どんどん引き離されてる。
「ベヒモスっ!助けてくれ……!」
俺は堪らず叫んでいた。
〝……ライトを返してもらおう〟
いきなり現れたベヒモスを避けようとして、鳥型の機神は爪を開いてしまい、掴んでいた俺を放り出した。
すかさずベヒモスが俺を背に乗せる。
鳥型の機神は俺を取り返そうと、ベヒモスを追いかけてきた。
俺は「雷」の魔法陣符を使用したが、鳥型の機神には全く効いていない様だ。
「なっ……!」
〝……まあ、雲の中を飛ぶこともあるだろうから、対策済みということだろう。それよりもライト、少し練習をしようか〟
「? 何の……?」
〝我を刃とする練習だ〟
そう言うと、ベヒモスは地上へ降りていった。
「ど……どうやって……?」
俺はベヒモスの背から降りながら尋ねた。
〝難しいことはない。あの時生成した刃を思い出せ、後は我が導こう。……あの時は制限なしで生成された故、お前の精神が保つか心配だったが、一瞬だったから助かった。今回はお前が耐えられる範囲で我が制限をかけるから大丈夫だ。……ほら、来るぞ〟
鳥型の機神が俺を掴みかかりに来た。間一髪でそれを躱す。
再び舞い上がった鳥型の機神が旋回する間に、俺は刃となったベヒモスを想像した。
〝……いいぞ、一発見舞ってやれ〟
ベヒモスの言葉が頭に響いた時、辺りが光に包まれた。
光が収まった時、手にはあの時と同じ黒紫の剣があった。
鳥型の機神が再び掴みかかってくる。
俺は剣を振るい、黒い斬撃を飛ばした。
斬撃は鳥型の機神に吸い込まれるようにして、そのまま両断した。
地上に落ちてきた金属の塊は、もはや動くことはなかった。
「……やった……!」
〝やれば出来るではないか〟
ベヒモスが姿を現した。
〝制限をかければ、精神の負担が軽くなる代わりに威力が落ちるが、この程度の相手なら問題ないようだな〟
「ああ、そうみたいだ」
その時、息を切らしたディアが追いついてきた。膝に手を付き頭を下げて荒い呼吸をしている。
「ハアッ、ハアッ……い、今の……精霊竜の剣……ですよね……?」
頭を上げて俺を見たディアは、今にも泣きそうな顔をしていた。




