第34話 メーネラントの町へ
「……そうだったんですね、お恥ずかしい……」
俺たちは外に出て、木陰にあるテーブルセットで語らっていた。
隣に座っているのは、この小屋の主で、なんとエルフの女性だった。銀色の瞳にプラチナの髪を後ろで三つ編みにしており、尖った耳にはリング状のピアスをはめている。
名前はセファルディア……ディアって呼んでいいそうだ。
「いや、紛らわしくてごめんな。……あ、そう言えばまだお礼も言ってなかったな。俺たちを助けてくれてありがとう」
「いいえ、私は傷の手当てをしただけで……。ここまで運んでくださったのはベヒモス様です」
ベヒモスは俺とディアが座っているテーブルセットを囲うようにして横になっていた。
「……ありがとう、ベヒモス。助かったよ」
当然だという風に、ベヒモスは鼻を鳴らした。
「ふふっ。……そういえば、傷はご自身で治されたのですか?もう治っていますよね」
「あ、うん。一応魔法を使えるから」
ディアはまたそこでふふっと笑った。
「魔術士とは言わないんですね。……昔の人間はエルフに対してそういう風に言うこともありましたが、あなたは素で言ってますよね」
どこがツボだったのか分からない。
首をかしげる俺の顔を、ディアが覗き込んできた。
「それ、魔道具ですよね、かなり高度な術式が彫られてますね」
ディアはイヤーカフを見ていたのだ。
ディアになら大丈夫だろうと思って、俺はイヤーカフを外した。
「わっ……!認識阻害の術式だったんですね。全く別人ですよ」
「ちなみに、どんな風に見えてたんだ?」
「茶色の髪に青い目をしてて、普通の町民のような服装でしたよ。戦いとは全く縁が無さそうな」
そう言って、ディアは俺の頭を撫でた。
「ベヒモス様と似たような髪の色ですね。……ベヒモス様も気に入っているのでは?」
〝そうだな。悪くはない〟
その返答にディアはまたふふっと笑った。
「……あなたは、ベヒモス様と契約しているのですか?」
「ええと、……多分?」
俺の返答に、ディアも首をかしげた。
「いや、はっきりと契約した記憶はないんだけど、気付いたらこうなってた……みたいな」
〝お前が助けを求め、我が受け入れた。立派な契約ではないか〟
「そう、だったのか……」
まさかの最初の“お願い”が契約になってたなんて。
「……俺もディアに聞いてもいいか?ここにはディアの他に住んでる人はいないのか?」
「ええ。ここには私しか住んでいません……」
ディアの顔があからさまに曇った。
「あ……そ、そうなのか」
多分訳ありだ。何か他の話題は……。
「そういえば、部屋の中にたくさん観葉植物があったよな。俺も実は植物を育ててるんだ。……今、持ってたかな……」
俺は宙に手を突っ込んで、ある種を探した。
「あ、あったあった。よかったら育ててみてくれ」
ディアに種を差し出すと、受け取ってくれた。
「これ……」
「ヴィオリーとパンジアの種だよ。うまくいってたら、ちょっと珍しい色の花が咲くはずだ」
「品種改良もしてるんですか?凄いなぁ。……ありがとうございます、大切に育てますね」
ようやくディアに笑顔が戻った。
その時、ベヒモスが顔を上げた。と同時に姿を消した。ディアはそれを見て、はっと何かに気付いたようだ。
「ライト、イヤーカフをつけて」
「? わ、分かった」
ちょっと緊張を孕んだディアの声に、俺は急いでイヤーカフをつけた。
少しして、自警団らしき格好をした5人の男たちが庭に入ってきた。
「すまないセファルディア、邪魔をするぞ。……おや、客人か?珍しい」
リーダー格の男が俺を一瞥したが、またすぐにディアに目をやった。
「何かあったんですか?」
ディアが当然の質問を男たちになげかけた。
「町でちょっと困ったことが起きてな。手短に話せば、ルドガーが君に難癖をつけている」
「またですか……」
「ああ。君の卸してくれる薬草類や薬品は確かな品だと分かっているから、我々としてもあまり事を荒立てたくはないが……今回はルドガー以外にも被害が出ている。何か反論をしてくれるだけでもいい、一緒に町に来てくれないか?」
ディアは迷っている様だったが、うなずいた。
「分かりました。ただ、お客様をお見送りしたいので、後ほど町へ向かいます」
「了解した。町に到着したら声をかけてくれ」
ディアが再びうなずくのを見た男たちは、庭を後にした。
「……何を揉めてるんだ?」
俺は気になってディアに尋ねた。
「ええと……、私は生活のために近くのメーネラントの町に薬草や薬品類を売りに行くのですが、ルドガーという方が、私が町に来るたびに病気になると言っていて……。私が病気を振り撒いてると吹聴しているのです」
「もちろん違うんだろ?」
「ええ、誓って」
「分かった。じゃあ今度は俺がディアを助けるよ。一緒に町に行って……まあ実際何ができるかは微妙なところだけど、いざとなればベヒモスをけしかけるさ」
「そ、それは、出来れば最終手段でお願いします……」
それからしばらくして、起きてきたリナベルとコーディに事情を話し、俺たちはメーネラントの町に向けて出発したのだった。




