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ある冒険者たちが世界を救うまで  作者: 如月つばさ


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33/44

第33話 隠者の庭園

 いい匂いがする。眠る時に嗅ぐと落ち着くと言われる、ラベンディア・ハーブの香りに似ている。

 目を開けようか、それともこのままもう少し休もうか……。

 ぼんやりと考えていると、不意に意識が覚醒した。

「はっ……」

 勢いで身体を起こすと、全身に痛みが走った。

「いたたた……」

 自分の身体を見ると、手当てをされ丁寧に包帯が巻かれていた。

「いったい誰が……。というか、ここは……」

 辺りを見回すと、リナベルとコーディも手当てをされ、ベッドに寝かせられていた。

 俺はほっと息を吐くと「回復(ヒール)」の魔法陣符(マジックカード)を使用し、ここにいる全員の傷を治した。


 そして改めて辺りを眺めた。

 あまり広くはないが、木製の部屋は小綺麗に片付けられており、いたるところに観葉植物が置いてある。むき出しの梁にはドライフラワーが吊るしてあった。陽が入る窓辺にも、小さい鉢に植えられた観葉植物が置かれていた。

「……なんだかほっとするな、こんなに植物に囲まれてると」

 インディアにある自分の花畑を思い出す。じいちゃん、ちゃんと世話してくれてるかな。

 少し歩いてみようかと、ベッドの端に座って立ち上がろうとした時。


〝何故、我を呼ばなかった!?〟

 突然ベヒモスが凄い剣幕で現れた。

「うわっ!ここ狭いからあまり動くと……」

〝我の問いに答えよ!〟

 ベヒモスが俺に覆い被さるようにして、前足でベッドに押し倒した。

「うっ……!な、なぜって……ベヒモスに走ってもらっても……」

 いや、待て。()()()()()()()()()()()

「あ……」

〝我がどれほど肝を冷やしたか分かるか!?〟

「い、いや、でも……俺が呼ばなくても出てこれるだろ?」

〝……我も、いつもお前を見ている訳ではない〟

 明らかにベヒモスがトーンダウンしたのが分かった。が、俺から前足をどけてはくれない。

〝我は……この翼が生じることになった力の源……、お前の中にある深淵の扉の奥に眠る力を調べていた。だが、どこにいようとお前に呼ばれれば、すぐに顕現できるのだ!〟

 ベヒモスは再び俺に乗せている前足に力を込めた。

〝お前が我を刃へと変えた時、お前との契約は確かな絆となった!何者にも代え難い、唯一無二のものだ……!その絆を、我は失いかけたのだぞ……!〟


 正直その話は初耳だったが、ベヒモスの感情が前足から流れ込んでくる。焦り、苛立ち、喪失感、恐怖……様々な感情がごちゃ混ぜになって……。

 その感情のままに押さえつけられ、少し苦しかったが、俺はベヒモスを落ち着かせるように、乗せられている前足を両手で抱いた。

「ごめん……本当に忘れてたんだ、ベヒモスに翼があったこと……。それに、考えてる暇もなくて……本当にごめん。そんなに心配してくれてたなんて……」

 この足の重みが、本気で俺を心配していることの表れなんだろう。こんな風に、誰かに本気で心配されるのはしばらくぶりだった。

 俺は不覚にも少し涙目になってしまった。

〝何かあれば我を頼れ。我以外でも……サラマンダー、レヴィアタン、ティアマト、ヨルムンガンドは力を貸してくれるだろう〟

「うん……。でもベヒモス以外は大規模災害になりそうで……怖い……」

〝ああ……〟

「それに……あまり人が見ている所で精霊竜の力を使いたくないんだ……。ベヒモスが精霊竜の剣(ドラゴニックブレード)になってくれた時……いろんな貴族の人たちに、自分に仕えろって……捕まえられそうになって……。あのまま捕まってたら、きっと隷属魔法をかけられてた……。何でもないふりをしてたけど、その時に……人が少し怖いと思ってしまったんだ、俺は人を守りたいのに……怖いんだ、大勢の前で力を使うのが……!」

 感情が昂り、気付くと涙がこぼれていた。

〝……そういう時も我を頼ってくれて構わん、小賢しい輩は蹴散らしてくれよう〟

 そのベヒモスの言い様が可笑しくて、俺は泣きながら笑っていた。

「あはは、それはやっちゃダメなやつだろ……」

 そしてベヒモスが俺に顔を近づけ、涙を舐めた時だった。


 部屋の入口で何かが割れる音と、女性の大きな声が聞こえた。

「ベヒモス様!その人は食べ物ではありませんよ!!」

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