第3話 竜の宝玉
それから二日後。
「……という訳で、奴に澄んだ水色の玉を持ってかれちまったんだ、すまねぇ」
意識を取り戻した俺は、じいちゃんと冒険者二人に神殿で起こったことを話した。
「あれから追っかけてこなかったところをみると、奴が消えたのはトラップに引っかかったからだろうな。……出来ればもう会いたくないな、何度戦っても勝てる気がしねぇ」
俺はあの絶望的な戦いを思い出して身震いした。
「アクセラバード……その機神と戦って生きていただけでもすごいことだよ。……けれど『竜の宝玉』の件は女王様に一度報告をしなければ」
「そうね。合わせてその機神の件もね。……機神を見かけなくなってから約100年……、全て倒した訳ではなかったのね」
リナベルは俺の方を振り返った。
「悪いんだけど、君にも一緒に来て欲しいわ。今の説明を女王様にもお願いしたいんだけど」
「うん、奴に宝玉を持ってかれたのは俺のせいだしな。……だけど、何で俺の血があの仕掛けに反応したんだ?俺が行かなかったら奴は諦めてたかも……」
「その点についてはすまなんだ、お前を行かせるべきではなかったな」
じいちゃんは後悔するように目を閉じた。
「儂らの家系は精霊竜と交信していた巫女の血を引いておる。あの神殿は精霊竜の声を聞くために建てられたもので、感応力が高ければ姿を見ることも出来たという。……ベヒモス様の件といい、お前は精霊竜に対する感応力が高いのだろう。それこそ古の大巫女様に匹敵するぐらいに」
そこで言葉を区切って目を開き、じいちゃんは真っ直ぐ俺を見た。
「『竜の宝玉』はその大巫女様が精霊竜より賜ったものじゃ。その力は様々な命の力を増幅し、そこに新たな生態系を創り出すほど強力だったという。その力の悪用を恐れた大巫女様が、あの神殿に自らの血を用いて封印したのじゃ。まさかお前の血がそれを破るとはな」
「ほんとにケガする予定なんてなかったんだよ!回復の魔法陣符も1枚しか持っていってなかったし!」
「いや、そういうことを言っとるんじゃなくてな……あーもうよいわ。それと、ベヒモス様もお前に執着しとるようじゃの、まだ気配が切れとらんわ。お前、ベヒモス様に何を言ったんじゃ?」
何を言ったかだって?
「そりゃインディアに連れていってほしい、みたいなことを言った気が……」
あれ、あんまり思い出せないな。
「ベヒモス様は人が何かに執着する心に敏感だ。お前がそんなにこの村のことを気にかけてくれとるとは、儂は嬉しいぞ」
あー、そういうことにしとこうかな。
「おっと、すっかり話し込んでしまって申し訳ない」
じいちゃんが二人の冒険者の存在を思い出したらしい。
「いいえ、大丈夫よ。興味深い話も聞かせてもらったし」
「あー、すまぬ、このことは他言無用で頼めるか?」
「構わないわ。知られればライト君の身に危険が及ぶかもしれないし、なにより私達〝悠久の翼〟の信用にかかわるわ」
「エターナルウイングだって!? あのSランクの!?」
冒険者は個人もしくはパーティでランクがある。EからスタートでSが最上位。Sランクはほんの一握りしかいない。
「そうよ。……私もライト君の顔、どこかで見たような気がしてたんだけど、君、個人でBランクだったわよね?」
「うっ……他人の空似だと思うぞ」
それは頼むからじいちゃんにバラさないでほしいんだが。言えない……アーイディオンポースの学校に行ってた時についでに冒険者もやってたなんて……。じいちゃん絶対怒るだろ、危ないことすんなって。……あ、変な汗出てきた。
「そうなの?……まぁ、そういうことにしとこうかな。ところでライト君、君の体調さえ良ければ明日の朝ここを出発したいんだけど、どうかな?」
助かった、ナイス話題転換。
「ああ、大丈夫だ」
「良かった」
リナベルはにっこりと微笑んだ。
「そういえば、二人はどこに泊まってんだ?」
「実は司祭様の家、つまりここにお世話になってるのよ。宿代が浮いて助かってるわ」
いや、あんたたちお金はたっぷり稼いでるハズだよな。
胡散臭いリナベルの笑顔を見た時、ちょうど向こう側の窓に沈んでいく夕日が見えた。
「あっ、すまねぇ、ちょっと水やりに行ってくる」
俺はベッド代わりにしているソファから起き上がった。
「あら、いきなりね。……私もついて行ってもいいかしら?」
「ん?別にいいけど」