第26話 ノルドツァンナ城にて
それは信じられない出来事だった。
オレ、フェルド・アヴェルスタールがリナベルとやらの頼みを受け、応援を引き連れてテレポーターがある建物から出た時、機神がまさに切り飛ばされていたのだ。
オレたち三人が手も足も出なかった機神が……だ。
大勢の冒険者が歓声を上げていた。
それを成したのが……あの田舎者だとは。
腐ってもSランクということか。
オレにもあの力があれば、機神どもに後れを取ることはないだろう。
あの力は、オレにこそ相応しい。
田舎者は田舎者らしく、地に這いつくばっていればいいのだ。
その後、救護班の連中が来て、あいつらの手当てをしていた。リナベル、コーディとやらの2名は恐らく病院に収容されるのだろう、白衣を着たやつらが連れて行った。あの田舎者の周りには、ガーディアンフォース団長のジェラルドと、国王の近衛らしき人物がいて、何やら話をしていたが、結局近衛たちが引き取っていった。あの田舎者をどうするつもりだろうな?
まぁ、オレには関係ないがな。
「……ん……う……、ここは……」
本当にどこだろう?
ベッド……だよな、これ。大きすぎて何人寝られるんだってやつだ。しかも天蓋付きだ、すげぇな。
明かり取りの窓から差し込む光がオレンジ色になっている。どうやら今は夕方のようだ。
「お目覚めになりましたか。気分はいかがですか?」
ベッドの脇に侍女風な女の人がいる。いや、本職の侍女なのか?
「ええと、うん、もう大丈夫……だと思う」
身綺麗にされて、状態異常も治ってる。
「そうですか、それは良かった」
そう言って、侍女は微笑んだ。
「……なぁ、聞いてもいいか? ここはいったいどこなんだ?」
侍女は少し間をおいて口を開いた。
「ここはノルドツァンナ城の貴賓室です」
貴賓室って……お偉いさんが泊まるとこなんじゃないのか?何でそんな所に俺が?
「実は、貴方に会っていただきたい方がいるのですが、お呼びしてもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……うん、いいよ」
俺が許可すると、侍女は一礼して部屋を出ていった。
「……ん?」
人が来るならベッドから下りてた方がいいよな、と思って動こうとした時、右足首に違和感があった。
「なっ……!?」
右足首には足輪がはめられ、鎖は中央にあるどでかい柱に繋がれていた。
ある程度、動ける自由はある。だけど部屋からは出られない。
「軟禁されてる……ってとこか」
いや、訳が分からない。機神を撃退して、この仕打ちとは……。
ひとりショックを受けていると、扉がノックされた。
何とか気を持ち直して返事をすると、侍女に続いて冠を戴いた壮年の男性と、美しく着飾った少女、それに護衛の騎士10人程が部屋に入ってきた。
壮年の男性は、ダークブロンドの髪に紫紺の瞳で、背も高くてそれなりに体格が良い。高級そうな布で織られた服に身を包み、マントを羽織っていた。
美しく着飾った少女は、ハニーブロンドの髪を綺麗に結っており、長いまつ毛の隙間から紫紺の瞳が覗いていた。胸元を飾る美しい宝石と、下にいくにつれて白から水色へと変わるグラデーションのドレスがとても似合っている。
「……そなたが精霊竜の剣を生成したと聞いた。……余はディムヘルト・ヴァルクロウ・ノルドツァンナ、この国の王である。そなたの名を問おう」
まさかの……というか、冠を見た時点で想像ついてたけど、ノルドツァンナの国王様だった。
「……ライト・アルトノート……です」
何とか一礼することが出来た。ほんと礼儀作法とか苦手なんだよ。
「ライト……“アルトノート”か。大巫女の血を引いている者がまだいたとは僥倖だな。ライトよ、これを紹介しよう」
国王様に促されて、少女が一歩進み出た。
「娘のラフィニア・ティル・ノルドツァンナと申します」
ラフィニアは美しい淑女の礼をとった。
「ライト、そなたは我が国の永年の悲願であった精霊竜の剣の生成を成し遂げた。更に大巫女の血も引いているというではないか。これはもう、我が一族に迎え入れないという選択肢はない。娘のラフィニアとの婚姻を許そう、そして生涯余に仕えるがよい」
……分かってる。ここは「はい」の一択しかないってことは。平民が国王様に口答えする権利なんて無いのも分かってる。これは破格の申し出だってことも。だけど……なんていうか、一方的過ぎるし、俺には精霊竜たちからの頼まれごともある。
さて、どうするか……。
なかなか返事をしない俺を、国王様が訝しんで口を開きかけた時だった。
突然、ベヒモスが姿を現したのだ。
護衛の騎士たちが驚いて剣を向けている。
〝国王よ、あまりライトを困らせくれるな〟
直接頭に響くような声に、皆びっくりしている。
「まさか……精霊竜……?」
国王様が呟いた。
〝この者は機神の脅威からこの世界を守るよう、精霊竜より命を受けているのだ。故に特定の誰かに仕えることはない。理解したならば、我々が去ることを邪魔してくれるな〟
ベヒモスのひと睨みで、俺の右足首の足輪が外れた。これ、魔力ではめられてたのか。
ベヒモスは俺を咥えると、窓の方へと向かった。
その場の誰も、追いかけてくる気配は無い。
そして窓から身を乗り出すと、次の瞬間、宙へと躍り出た。
「ベヒモスっ……!」
〝心配するな〟
ベヒモスの背から、大きな翼が生えていた。
以前のベヒモスには無かったはずだ。
「それ……」
〝この翼はお前が与えてくれたのだ〟
「俺が……?」
〝ああ〟
ベヒモスは心なしか嬉しそうだ。
空はいつの間にか夕方から夜に変わっており、ベヒモスは俺を咥えたまま、夜の闇に紛れて城から離れていった。




